大学ではフランス語を専攻したこともあり、若い頃は、明治の人みたく「西洋かぶれ」でした。見るものも、聴くものも、つまり、美術も音楽も、泰西絵画やロック、クラッシック音楽一辺倒でした。年を取ると、雪舟や光琳、若冲、北斎などの方が遥かに好きになってしまったのとはえらい違いです。
やはり、日本人は、「侘び寂び」に落ち着くものなのでしょう(笑)。
それでも、若い頃、実現できなかったものは、いまだに尾を引いています。例えば、ズバリ、オペラ鑑賞です。泰西絵画は色んな国に旅行して、美術館で直接、見ることができましたが、オペラとなると、そう簡単にチケットも手に入らず別です。クラシック音楽なら、何とかCDを買い揃えて、バッハでもモーツァルトでもベートーヴェンでもブラームスでも、かなり聴くことができましたが、やはり、オペラの場合、CD音源だけ聴いていてもピンときません。
何と言っても、日本人にとってオペラの敷居が高く、手が届かなかったのは、その価格です。今でこそ、新国立劇場が出来て、以前より安くはなりましたが、世界最高峰のウィーン・フィルの「引っ越し公演」ともなると10万円以上は覚悟しなければなりませんからね。
オペラは、舞台は諦めて映像を見ることにすると、かつてはビデオかレーザーディスクでした。それが、当時でもかなり高い。安くても8000円とか1万円とかでした。
そしたら、本当に吃驚大仰天です。今では、オペラのDVDがCDよりも安く買えるんですね。上の写真の ドビュッシー:歌劇「ペレアスとメリザンド」(グラモフォン)、ピエール・ブーレーズ(1925~2016年)指揮、ウェールズ・ナショナル・オペラ管弦楽団のDVD(1992年録画)が何と、たったの1980円 だったのです。
このDVDは、銀座の山野楽器で購入したのですが、そのきっかけは、映画の「METライブビューング」の新聞広告でした。METとは、勿論、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場のことです。演目に「カルメン」「椿姫」「セヴィリアの理髪師」などが並び、「いっちょ、全部、観てみるか」と思ったのです。鑑賞料金は3200円、「ワルキューレ」は4200円となっていました。私は歌舞伎も映像版で見ても抵抗はないので、早速、観に行こうと思いました。
それと並行して、NHKラジオの「まいにちフランス語」応用編で「たずねてみよう、オペラ座の世界」を今年1~3月に放送、7~9月に再放送されて聴いておりましたが、他にも今まで鑑賞したことがない「くるみ割り人形」や「ジゼル」「ホフマン物語」なども取り上げられていて、是非とも一度観たくなり、色々と、ネットで検索していたのです。
そしたら、このドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」のDVDがわずか1980円で販売していることを知ったのです。 私がかつて購入していた「ペレアスとメリザンド」の「音しかない」CDが、1993年頃、初めてCD化されたフルネ指揮、コンセール・ラムール管弦楽団による名盤(1953年録音)とはいえ6000円もしましたからね。
実は、ドビュッシーは私の学生時代の卒論のテーマの一つでしたが、「ペレアスとメリザンド」のオペラを一度も観ることができなくて、それでも偉そうに論文を書いていましたからね(苦笑)。
結局、コロナ禍で映画館に足を運ぶのも面倒臭くなり、通販でオペラのDVDが、昔のCDよりも安く買えることを知って、今、少しずつ、購入し始めています(笑)。先日、今度はモーツァルトの「フィガロの結婚」を買ってしまいました。カール・ベーム(1894~1981年)指揮のウイーン・フィルで、フィガロがヘルマン・プライ(1929~98年)、スザンナがミレッラ・フレーニ(1935~2020年)、伯爵がフィッシャー・デイスカウ(1925~2012年)、伯爵夫人がキリ・テ・カナワ(1944~)という私の学生時代は雲の上の人のような存在だった歌手が演じています。(気が付いたら、今では殆ど亡くなってしまい残念です。もう映像でしか見られません)
とにかく、デフレか何か知りませんが、価格破壊と技術革新に驚きながら、私はその恩恵を受けています。若い頃は、オペラがこんなに安く、簡単に観られるとは思ってもみませんでした。長生きはするものです。