追悼 富沢勝氏を偲んで

ハナミズキ Copyright par Keiryusai

  今は昔、30年ほど昔、東京・渋谷の狭い路地の一角に「おつな寿司」という鮨屋さんがありました。残念ながら15年ほど前に閉店してしまいましたが、その鮨屋の2階で毎月1回、よく分からない烏合の衆が集まる会合が開催されました。八畳あるかないかの広さでしたので、30人も入れば超満杯。今で言う三密状態でした。

 何しろ、皆、勝手に、何の断りもなく冷蔵庫からビールを取り出して来て飲み始め、議論風発すると、口角泡を飛ばして、取っ組み合いの喧嘩が始まりかねない場面もしょっちゅうありました。

 主宰者は、当時「調布先生」と呼ばれた奇才なる才人で、人たらしというか、稀代のコーディネーター、もしくはプロデューサーでした。彼の知人友人を核に色んな人が集まりましたが、主に新聞・通信社、出版社、テレビ局等に勤務するマスコミ関係の人が多かったのでした。そういった烏合の衆の参加者が、色んな職種の友人知人をゲストとして呼んで質疑応答する会が毎月1回、土曜日の夕方に開催されたのでした。

躑躅 Copyright par Keiryusai

 ゲストは、刺青彫師、パチンコ釘師、学者、大学の学長さん、美術評論家、政治家秘書…と多士済々。表向きは「オフレコ発言」で、会計はその場で清算(余ったお金は二次会で使い果たす)。会則も名簿もなし。「来る者は拒まず、去る者は追わず」という主宰者の方針でしたから、累計500人以上は関わったのではないでしょうか。参加者の中には、「信長の棺」等で有名作家になった加藤廣氏(故人)や大手電鉄会社の社長さんになった方もおります。

 参加者はマスコミ関係が多かったのですが、気象予報士という異色の存在の方が毎回のように参加していました。富沢勝氏です。彼は目立っていたのですぐ分かりました。何故かというと声がでかい(笑)。そのうち、彼は「割れ鐘」(釣鐘が割れてしまうほど声がバカでかいという意味)三羽烏の筆頭格となりました。三羽烏の残りの二人はテレビ局に勤めるS氏(今では釈正道老師として有名)とY氏でした。

 富沢氏が得意とするところは、親父ギャグというか、ひどい駄洒落でした。あまりにもひどいので、周囲の顰蹙を買っておりましたが(笑)…。と、ここまで書いて、彼の放った駄洒落は今では、ほとんど覚えていないんですよね。印象的に覚えているのは、「今の若い奴らはモノを知らない。幕末上野戦争の彰義隊のことを将棋隊だと思っている」とか、「早見優(かつての女性アイドル)のこと、男だと思っていた」とか、その程度。駄目ですねえ。メモ書きでもして残しておかないと、人間、どんどん忘れてしまいます。彼のギャグがあまりにも下らなかったせいかもしれませんが(笑)。

 その富沢氏が一昨日、急逝されたという話を聞いて吃驚仰天してしまいました。まだ72歳。心臓に痛みを訴え、入院して1週間ほどで旅立ったと聞きました。人一倍、声がでかい割れ鐘で、人一倍、元気が有り余ったように見えたので信じられません。何しろ、気象予報士の後、70歳までJRの「押し屋」をやったり、弁当屋さんで働いたりしていたといいます。晩年まで社会参加と社会貢献に熱心な方でした。それに、大変な勉強家で加藤廣氏の著作の中から、彼の専門の天候の描写を抜き書きして、「この描写は凄い。史実とピッタリ符合しますから」などと発言していました。富沢氏の「割れ鐘」がもう聞けないと思うと、大変悲しくなります。

菖蒲 Copyright par Keiryusai

 富沢氏のご冥福をお祈り申し上げます。

 回覧メールに、富沢氏のお通夜と葬儀は本日と明日に東京・町屋斎場で行われるとありましたので、これまた吃驚です。昨日、このブログで書いた会社の同僚のO君の義兄の葬儀も本日、この町屋斎場で行われるからです。あまりにもの偶然の一致に、目に見えない何かを感じました。

杉田敏先生のラジオ講座「実践ビジネス英語」が今月で終わってしまうとは!=33年で幕

「満鉄長春駅」(1924年頃) ノエビア銀座ギャラリー

 いやはやショックでした。

 もう何十年も聴き続けて来たラジオ講座「実践ビジネス英語」が今月3月いっぱいで終わってしまうというのです。昨日の3月第1回の放送を聴く前にテキストを読んでいたら、その事実を初めて知りました。遅いですねえ(苦笑)。

 このラジオ講座は1987年4月に「やさしいビジネス英語」としてスタートしましたから、33年でのフィナーレです。紅顔の美少年だった私も、今や単なる醜い老人です。

 私自身、いつ頃から聴き始めたのか覚えていませんし、途中でズル休みをしたこともあったと思いますが(苦笑)、30年ぐらいは聴き続けてきたと思います。勿論、講師は一貫して杉田敏先生です(NHKの講座の講師として、33年はやはり最長記録だそうです)。1944年生まれということで、今年喜寿を迎えるということで、そろそろ潮時と思われたのかもしれません。今のパートナーは、読売新聞系の「ザ・ジャパン・ニューズ」紙記者のヘザー・ハワードさんですが、その前のクリス・マツシタさんの頃から聴いていました。

 杉田敏先生は青学大卒業後、英字紙「朝日イブニングニュース」の記者になりますが、渡米し、オハイオ州立大学で修士号を取得し、現地の「シンシナティ・ポスト」紙の経済記者に。この後、ジャーナリストから米大手PRコンサルティング会社に転身し、複数の企業の重役を歴任し、帰国後はPR会社「プラップジャパン」社長などを務めた人だということは皆さまご案内の通り。ですから、取り上げられるテーマは、学者の研究というより、ジャーナリスティックで、現場主義で、自分の転職や企業合併の経験なども多く取り込まれていました。

 テーマは、ビジネスだけでなく、‘Climate Change’(気候変動)とか、Wellness Tourism’(ウエルネス・ツアー=健康増進のためのツアー)とか、’Parenting and Grandparenting’(親であること、祖父母であること=初めて祖父や祖母になる人たちを対象にした「祖父母教室」)とか、親の介護とかホームレス問題など、普通の生活者の視点から多岐にわたっていました。私も「エコツーリズム」などこのテキストで初めて知ったことが数多くあり、本当に勉強になりました。

 当初の「やさしいビジネス英語」というのは看板だけで、単語もイディオムもさっぱり分からず、一つのビニュエットの中で10個かそれ以上も分からない単語やフレーズが出てきました。30年も聴き続けるとさすがに、その数は、数個に減りましたが、まずゼロになることはありません。

 でも、昔聴いていた英語の音楽や観ていた洋画のタイトルなどの「本当の意味」が初めて分かったりして、大いに収穫がありました。

銀座「天ぷら 阿部」限定かき揚げ丼 1000円

 杉田先生は、毎日、「ウオールストリート・ジャーナル」「ニューヨークタイムズ」「USAトゥデイ」「ガーディアン」には必ず目を通し、CNNやBBCなどもチェックして、タイムリーなテーマを「創作」している、と打ち明けています。

 私自身は、これでも、英語は得意のつもりで、外国語専門の大学を卒業し、通訳案内士の国家試験も通っているのですが、それでも、正直、本当に難しい。よくぞ、こんな小難しい表現ができるものだ、と感心するばかりです。

 ただ、安心できたのは、米国人である私の義理の息子に、テキストに出てきた難しい単語やフレーズを使うと、「え?何それ?聞いたことない」「知らない。ブリティシュかな?」と戸惑って、「チェック」と言いながらスマホで調べ、後で「ホントだ。知らなかった」というのが常なのです(笑)。(ちなみに、米国人の義理の息子の名誉のために付加すると、彼は一応インテリです。杉田先生の表現が難し過ぎて、ネイティブでさえも聞き慣れないほど難しくハイレベルだということです)

 ですから、杉田敏先生には、これまで一度もお目にかかったことはありませんが、尊敬というより尊崇の念を抱いています。15年以上昔、北海道の帯広市に赴任していた頃、そこの結構大きな英語塾の創立者兼校長先生が、杉田先生と知り合いで、「いつか講師としてお呼びします」と聞いて、講演会を楽しみにしていたのですが、実現したのは、私が東京勤務に戻った後だと知り、地団駄を踏んだものです。

 これでは「杉田ロス」になること間違いなしだと思っていたら、商魂たくましい(笑)NHK出版が季刊ムック「杉田敏の現代ビジネス英語」を今年4回(3、6、9、12月)発行することを知りました。音声をダウンロードして、そのテキストで勉強できるようです。

 年4回分を一括して申し込むと、「送料無料」で確実に手に入るので、早速ネットで購読を申し込みました。「杉田ロス」にはなりたくありませんからね(笑)。

マイナンバーカードが危ない=日本人の個人情報が中国に流出?

 「マイナンバーカードの個人情報なんて中国に漏れているよ」といった噂をかつて耳にしたことがありましたが、それは単なる噂ではなく、事実のようですね。例えば、2018年分のある年金受給者の名前、生年月日、電話番号、配偶者の年収、マイナンバーなどが、中国のネット上で晒されていたようです。(2月17日、長妻昭衆院議員=立民=による国会予算委員会での質問)

 今朝(2月19日付)の東京新聞の【こちら特報部】が「やっぱり怖いマイナンバー」「ずさん再委託 中国へ流出疑惑」「あらゆる個人情報『ひも付け』」「丸ごと不正利用の恐れ」「自治体のデータ管理も甘々」などと大きな見出しの活字で大々的に報じています。

 この見出しだけで、大体の内容が推測できると思いますが、もう一つ、重大な見出しがあります。それは「年金機構 再調査を拒否」です。

 どゆこと?

 この記事の最後に「デスクメモ」がありますが、「桜を見る会の名簿は個人情報だからと素早く消去され(中略)、一方、国民の個人情報がつまったマイナンバーが、国外へ不正流出した恐れがあるのに調査には消極的」と批判しています。

銀座「みちのく」 海鮮丼ランチ 1300円

 同感ですね。同感。それに、こうして東京新聞が大々的に報じてくれなかったら、「国外不正流出の恐れ」なんか、ほとんどの国民は知らなかったわけですから。

 それにしても酷い話だなあ。私自身は、青色確定申告をするため、仕方なく、マイナンバーカードを更新しました。私が住む所では、実際、2019年にデータ入力業務を委託した業者が、許可を得ずに再委託した事件があった、とこの記事には書かれていますが、その再委託先がどこなのか詳しく書かれていません。もしかしたら、国外かも知れず、私の個人情報も中国に漏洩している可能性もあります。想像するだに怖ろしかぁ(何で急に九州弁?)。

 冗談じゃないよお。日本国民の個人情報は国家機密ではありませんか?至急、原因究明と再発防止策を図ってほしいです。でも、原因は、日本の業者が、データ入力みたいな面倒臭いことを気位が高い日本人がやりたがらず、低賃金の中国に丸投げした、ということが分かっていますし、再発防止と言っても、罰則がなければ、業者は今後も丸投げし続けることでしょう。

 これは、まさに政治とメディアの報道に無関心だと、為政者と悪代官によってに好き勝手にされる、という見本ですね。

 なんばしょっとね!

【投稿】泉岳寺参拝記=忠臣蔵外伝

泉岳寺山門 Copyright par Syakusyodou

 皆さん御存知の目赤不動さんです。

 腰が重い渓流斎老師なので、フットワークが自慢の迂生が、討ち入りを終えて涙、涙の義士が主君に報告した12月15日に、東京の泉岳寺を代参致しました。

格差ある義士の墓地、両端に屋根があるのが、大石親子の墓  Copyright par Syakusyodou

 赤穂浪士討ち入りの日の14日ではなかったせいか、墓地は閑散としていて、参拝者は疎らでした。

 迂生にとって、実に27年ぶりの参拝でしたが、気が付いたのは、浄土に旅立ち後にもある格差、身分社会でした。大石内蔵助・主税親子の墓にだけ、覆いの屋根があったのです。

まばらな義士の墓地 Copyright par Syakusyodou

実は、討ち入りの14日は、東京・半蔵門の国立劇場での文楽公演の観劇に行って参りました。

 「仮名手本忠臣蔵」の「二つ玉の段」「身売りの段」「早野勘平腹切の段」がかかっていたからです。

 忠臣蔵の五段目と六段目。稗史伝というか、番外編ともいえますが、通人の間で絶大な人気を誇る「おかると勘平」の物語です。

 渓流斎翁も御案内の通り、赤穂浪士事件を題材にした「仮名手本忠臣蔵」は、全十一段。二代目竹田出雲、三好松洛、並木千柳の合作です。もともと人形浄瑠璃として書かれたもので、寛延元年(1748年)8月、大坂竹本座にて初演されました。最初から歌舞伎の演目だったと誤解している方が多いですが、本家本元の文楽を見ないと話になりません。

 勿論、歌舞伎でも大当たりして、客が不入りの時に、座元が起死回生を図って、「忠臣蔵」をかければ、必ず当たるといわれ、のちに「芝居の独参湯(万能薬の名前)」と呼ばれたことも渓流斎翁御案内の通りです。

萱野三平の墓碑  Copyright par Syakusyodou

「早野勘平腹切の段」を聴きましたので、勘平のモデルとなった萱野三平の墓碑に線香を供えて参りました。

 三平の墓碑前にある茶色の線香の束は、迂生からの忝なくも有難いお心です。

◇◇◇

 有難くも畏くも、目赤不動様からの写真付き投稿、洵に有難う御座いました。ここ半年間、読者の皆さまからの投稿が全くなくなってしまいましたので、尚更、有難みが身に染み入ります。

 目赤不動様らしく、「線香の束は、迂生からの忝なくも有難いお心です」とあからさまに書いてしまう辺りは流石です。

 感服致しました。

小説「続・桜を見るかい?」

 あたしは読売新聞の愛読者なので、何でこれほど「桜を見る会」が騒がれているのかさっぱり分からないの。

 花子なんか、「安倍さんは公私混同、税金泥棒よ」なんて、言うじゃありませんか。花子が問題だと言ってることはー。

①「桜を見る会」の前夜祭の夕食会が5000円だというのは、安すぎる。東京新聞が会場のホテルニューオータニに取材したところ、最低1万1000円。差額の6000円をホテル側が負担したとしたら、利益供与か寄付行為に当たり公職選挙法違反の疑い。安倍事務所が負担したとしたら、有権者への寄付を禁じた公職選挙法違反の疑い。どっちにしてもアウト。

朝日新聞が報道しているように、共産党の宮本徹衆院議員が、桜を見る会の招待者数や支出額などの資料要求をした5月9日に、内閣府が招待者名簿を大型シュレッダーで廃棄してしまった。これは、明らかに証拠隠滅。疚しいから、真実を追及されることを逃れるためでしょ。

毎日新聞によると、 森友学園問題が頂点に達していた2017年3月に「首相夫人は私人である」と閣議決定までしていたあの昭恵さんが「桜を見る会」に参加できる推薦枠を持っていたこと。「私人」が税金で運営される公的行事の推薦枠を持っているなんて、公私混同なんじゃない?

 いくら安倍首相が「法に抵触するようなことは一切やっていません」と弁解しても、よしんば仮に法律違反していなくても、花子は「李下に冠を正さず。公職に就く者としての道義的責任もあるのよ」と言うのです。もう4年前の話で皆忘れているけど、小渕優子さんだって支援者の観劇会の補填をしたことがバレて、経済産業大臣を辞めたんだから、「桜を見る会」に山口県の地元支援者と次期改選の自民党議員を集めた主催者の安倍さんだって、総理大臣を辞めるのに十分に価するのよ、というのです。

そんなに支援者に恩返ししたかったら、国民の税金を使った公的催事を利用するんじゃなくて、自分のポケットマネーで花見会を開催して、収支報告書もしっかり提出するだけの話じゃないの、とまで言うのです。

 花子はそんなこと言っても、あたしは解せないなあ。そんなもん、誰だってやることでしょ。あの「暗黒時代」の民主党政権でも桜を見る会をやったんでしょ?

 あたしだって「板場稼ぎ」とか、謂れのない罪を押し付けられて高級官僚の地位を棒に振ったぐらいだから、安倍さんの気持ちはよく分かるなあ。

 花子に言われるまま、比較的早く報道された今年5月14日付の東京新聞を初めて見たけど、桜を見る会の費用って、たったの5200万円でしょ。そんな端金で、何でこんな大騒ぎするんでしょ?こんなの税金泥棒のうちに入らないでしょう。写真で見ると安倍首相夫妻の隣りには、石坂浩二、デヴィ夫人、由紀さおり、市川猿之助、子役の寺田心、バイきんぐの小峠英二ら芸能人が参集して会を盛り上げているじゃないですか。彼らは、世の中を明るくする「功労者」そのものよ。

大騒ぎしている日本の国民って浅はかねえ。第一、いくら騒いだって、検察が起訴するわけないじゃないの。あたしが言いたいのはそれだけ。

「久留米藩士江戸勤番長屋」は忍藩の尾崎石城さんの世界とそっくり=特別展「サムライ 天下太平を支えた人びと」

 10月だというのに気温30度の中、半袖姿で、東京・両国の江戸東京博物館で開催中(11月4日まで)の「特別展 士 サムライ 天下太平を支えた人びと」を観に行って来ました。 

 当初は全く観に行く予定はなかったのですが、「久留米藩士江戸勤番長屋絵巻」の展示が10月6日で終わってしまう、という告知を新聞で見つけたからでした。(それ以降は会期まで複製を展示)

 久留米藩というのは、個人的ながら私の髙田家の先祖の出身藩です。御舟手方御水主組頭だった髙田家は「五石六斗白太二人」という「三石一斗」の足軽よりほんの少しだけ身分が上の下級武士でしたが、武士の端くれです。江戸時代の武士階級の人口は、全体のわずか7%だったと言われていますから、下級武士とはいえ、立派なお侍です(笑)。(ちなみに、下級武士とは五〇石未満の武士ですから、五石六斗程度ではかなりの下級武士です。もともと髙田家は、どうも「卒族」だったのが、幕末辺りに「新士族」になったらしいのです。御舟手方の「旧士族」は、船頭で、これも大中小と御船頭並の四階級に分かれており、一人しかいない大船頭でもわずか十石一斗三升、白太四人扶持。下級武士でも御舟手方はそれほど高くない石高だったようです)

 狭い世界ですから、もしかして、この 「久留米藩士江戸勤番長屋絵巻」 に描かれた武士と、私の先祖は面識があったかもしれません。そう思うと見逃すわけには行きませんでした。

ふだんは買わない図録まで思い切って買ってしまいました。2343円

 会場に着いたら、いきなり通せんぼされました。荷物検査です。「ワールドカップ・ラグビーをやっているもので」と、汚い警備員服を着た係のおばさんは、済まなそうに理由を説明してましたが、豊田市なら分かりますが、両国なんかで、ラグビーやっていないでしょ!

 頭にきたのは、帰りの出口でも再度、荷物検査をさせられたことです。「さっき、入り口でやったじゃないか」と抗議すると、「まあ、入り口は入り口でして…、むにゃむにゃ…」といった感じでした。人を犯人扱いしやがって!

 入場料も1100円とチト高い。65歳以上になると半額ぐらいになるようでしたが、あたしはまだそこまで年は取っていませんでした。

 特別展は、同館の学芸員の皆さん方が知恵を集めて収集してきた「江戸の風俗画や古写真、古記録、手紙、道具類などサムライの日常を伝える資料およそ200点」が展示されていました。

 恐らく、 ほとんどの人のお目当ては、「幕末の三舟」と言われた勝海舟、高橋泥舟、山岡鉄舟の3人の記録や衣装、免許皆伝書などだったことでしょうが、私のお目当ては、最初に書いた通り、「久留米藩士江戸勤番長屋絵巻」でした。本物を観ることができて、打ち震えるほど感動しました。…あ、大袈裟でした。

「久留米藩江戸勤番長屋絵巻」。右上はTシャツや布バッグにプリントされて販売されてました。

  「江戸勤番」というのは、諸大名が参勤交代で江戸での定期的な居住を幕府から義務付けられていましたが、江戸にある大名屋敷に暮らす江戸詰めの家臣たちのことを指します。これには大名が地元からの参府から帰国までの行動を伴にする武士(単身赴任者が多かった)もいれば、一定期間、江戸に滞在して、屋敷の管理や幕府、諸大名との折衝などに当たる武士(定府=じょうふ=といって、妻帯が許された)もいて、いずれも、大名屋敷内の御長屋(勤番長屋)で起居していたといいます。

 この「久留米藩士江戸勤番長屋絵巻」は、かつて江戸勤番を体験した久留米有馬藩の家臣たちが、明治になって昔日を懐かしみ、同僚だった元御用絵師の三谷勝波に描かせたものです。序文は、元目付の戸田熊次郎。天保10年(1839年)前後の、三田赤羽根橋(現東京都港区三田)にあった久留米藩上屋敷に居住した藩士の日常の暮らしぶりが描かれています。

 この中で、「高原乙次郎の部屋にて暴飲の図」では、酒に酔った藩士たちが戸板をひっくり返したり、妙な踊りを踊っていたりしています。説明文にはこんなことが書かれていました。

 藩主有馬頼徳(ありま・よりのり)は帰国の間近に突如幕府から増上寺火の番を命じられる。このため、勤番士の帰国も延期、鬱屈冷めやらず暴飲乱交行の次第となった。天保10年4月5日の出来事。

 武士とはいえ、いかにも人間的な、です。

どうですか。それにしても、真面目に職務を遂行している姿よりも、酒盛りをしている場面が多く描かれていますね(笑)。私が今年7月19日の渓流斎ブログで取り上げた「謹慎中の武士が町人と僧侶と一緒にどんちゃん騒ぎ」の中で、大好きな忍藩の下級武士尾崎石城さんの描く酒盛りの世界とそっくりじゃあ、ありませんか!

藤井誠二著「沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち」は凄まじい世界です

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

先日、沖縄にお住まいの上里さんから、沖縄の基地問題などに関する沢山の資料と書籍が送られて来ました。書籍は、琉球新報の社長などを務めた池宮城秀意(いけみやぐしく・しゅうい)の評伝「紙ハグと呼ばれた男」(彩流社)でしたが、その前に、昨年、図書館に予約していた本がやっと届いたので、こちらを先に読まなくなってしまいました。

1年も前に予約していた本で忘れていましたが、それが偶然にも沖縄に関する本でした。ノンフィクションライターの藤井誠二氏が書いた「沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち」(講談社、2018年9月4日初版)という本です。

 「なあんだ、図書館で借りやがって!」と、著者の藤井氏から怒られそうですが、許してください。減少していく年金の中でこれからも自立して生き抜くために、見栄を棄てることにしました。(あれっ?どこかで聞いたことがある台詞ですね)

 内容は、タイトルそのままに表れています。主に、沖縄県宜野湾市にかつてあった「真栄原(まえはら)新町」と呼ばれた性風俗街を舞台に、そこに生きた女性や、主(ぬし)と呼ばれたオーナー、それに絡むヤクザ(旭流会など)や警察など魑魅魍魎とした世界を綿密に取材したルポルタージュです。

 著者の粘着質的な(といっては失礼かもしれないが)手法で、一筋縄ではいかない取材相手の懐に飛び込む度胸と、沖縄の歴史を米軍占領時代にまで遡った調査報道とその筆力には本当に頭が下がる思いで読みましたが、あまりにも悲惨で、あまりにも人間的な所業の数々には、途中で目をそむけたくなる、と言いますか、正直、読み続けるのが嫌になってしまいました。

 藤井氏が沖縄の裏の顔(アンダーグラウンド)を知ったのは、偶然でした。1990年、著者がまだ20代後半だった頃、駆け出しの「社会派ライター」として、ひめゆりの塔や集団自決のあった読谷村(よみたんそん)のチビリガマなどを回り、夜は那覇市内の居酒屋で泡盛をしこたま呑んでホテルに帰る際に、タクシードライバーと話をした時に、ドライバーから「それじゃあ、沖縄の別の顔を見せてあげましょうか」という提案に乗ったからでした。

 連れて行かれたのは、魔界のような「特飲街」と呼ばれた真栄原新町の売春街でした。このタクシードライバーとはその数カ月後に偶然再会し、著者の貴重なアシスタント兼案内人として、個人的に飲みに行ったり、情報を提供してもらったりする仲になり、本書では「タクシードライバー大城」(仮名)として度々登場します。

 社会派ライターとして、著者はこの売春街に興味を持ちますが、誰もなかなか取材に応じくれません。それが、解き放されたように、取材できるようになったのは、皮肉にも、市民団体や警察などの「浄化運動」のせいで、廃業者が続出するようになり、真栄原新町がゴーストタウン化したからでした。2010年暮れの頃で、これをきっかけに、関係者たちが、「当時の様子を真面目に記録として残してくれるのなら」という思いで取材に応じてくれるようになったからでした。

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 本書は、その「記録」ですから、まあ、凄まじいですね。売春婦の方は、北海道や大阪など本土から来る者が多く、例えばホストクラブに入れ込んで借金をつくって送り込まれたり、夫のDVから逃れて子連れで来たりさまざまですが、闇金から借りさせられたカネはトイチ(10日で1割)という違法な利息がついて、借金が雪だるま式に増えて抜け出せない実態を暴いています。

 大阪から連れて来られた女性は、働く条件として、(1)紹介料と利息を含めて300万円の借り入れ(2)1年1カ月の勤務(3)返済は1日3万円の100回払いーを提案されたそうで、著者も書いてますが、これはもう「人身売買」ですね。

 相手は1人15分で5000円。1日15本(1人15分を1本と数える)、7万5000円のノルマが課され、そのうち4割が主(ぬし)への支払いだったことも具体的に聞き出しています。

 ◇おぞましい米兵によるレイプ事件

 第6章では「『レイプの軍隊』と沖縄売春史」というタイトルでページを割き、占領米軍兵士による多くのレイプ事件を取り上げています。主に、高里鈴代元那覇市議会議員らが作成した「沖縄・米兵による女性への性犯罪(1945年4月~2008年10月)」(沖縄の女性グループ「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」発行)からの引用ですが、母親の目の前で娘が連れ去られて行方不明になったり、父親の目の前で娘が強姦されたり、母娘が同時にレイプされたり、病院に重傷で入院している女性が襲われたりする、まさに著者の言うように「鬼畜」としか言いようがないおぞましい事例、いや事件が記録されています。

 本書のように、地を這うようにして生きる社会の底辺の人々を取り上げたルポよりも、ヒトは、ファンタジーやあり得ない恋愛物語や成功物語に飛びつきがちです。

 目をそむけたくなるようなおぞましい話が多いですが、これが人間の性(さが)であり、業(ごう)というものです。著名な学者さんが書かれた立派な経済学書も、文豪が書いた小説も、この本を前にしては霞んでしまいます。なるべく多くの人に読んでもらいたいと思い、取り上げました。

岩井克人著「貨幣論」を読む

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

またまた難解な岩井克人著「貨幣論」(筑摩書房、1993年3月25日初版)をやっと読了しました。読むのに10日間ぐらい掛かりましたか…。

 以前、このブログ(今年9月1日付「人間は恐怖と欲望で出来ている」)でご紹介したNHKスペシャル「欲望の資本主義 特別編 欲望の貨幣論2019」をDVDで見たお蔭で、「基本的な知識」を得ていたので、ハイエクの「隷属への道」ほど難解ではなかったのですが、やはり、読むのに難儀しました。

 勿論、この本を読もうとしたのは、この番組を見たことがきっかけで、この番組の中心的な進行係を務めていた岩井克人国際基督教大学教授の代表作である著書を読んでみようと思ったからでした。

 正直、岩井教授は、テレビの方が分かりやすく説明してくれました(苦笑)。

 岩井教授は、番組にあったように、「貨幣とは商品である」という貨幣商品説を退け、「貨幣とは法律の創造物である」という貨幣法制説も退け、スミスやリカードからマルクスに至る「労働価値説」を乗り越え、「貨幣とは何か?」という抽象的な問いをめぐる抽象的な考察に徹したのが本書「貨幣論」です。

結局、同教授が行き着いた考察は、引用すると以下の通りだと思われます。

 貨幣が今ここで貨幣であるとするならば、それは次のような因果の連鎖の円環によるものであった。すなわち、貨幣が今まで貨幣として使われてきたという事実によって、貨幣が今から無限の未来まで貨幣として使われることが期待され、その期待によって、貨幣が今ここで現実に貨幣として使われるという円環である。この円環が正常に回転している限り、貨幣は日々貨幣であり続け、その貨幣を媒介として、商品世界が商品世界として自らを維持していくことになる。しかしながら、もし、過去になされた現在に関する期待がことごとく裏切られ、過去がもはや無限の未来の導きの糸とはならなくなったとしたならばどうなるだろうか?その時、貨幣を貨幣として支えている円環がもろくも崩れ去ってしまうことになるのである。人々が貨幣から遁走していくハイパーインフレーションとは、まさにこの貨幣の存立を巡る因果の連鎖の円環が自ら崩壊を遂げていく過程にほかならないのである。(196ページ、一部換骨奪胎、十数カ所ひらがなを漢字に書き替え)

 岩井氏は、テレビ番組の中でも全く同じようなことを仰っていたので、このカ所をお読みになっただけで理解できた方は、もうこの本は読まなくても大丈夫です。

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 この本は、経済学書ながら、著者は、哲学者のアリストテレス(人類初の経済学者という説も)やプラントを語り、言語学者ソシュールの理論も援用し、最後は、「記述主義の一つの極限形態と看做しうる自らの前期の言語理論の徹底的な批判から出発した」後期ウィトゲンシュタインとの類似性にまで行き着いております。

 もう四半世紀以上昔に出版された本なので、今さら何でと思われるかもしれませんが、かの吉本隆明が批判したという伝説の本なので、やはり、一読の価値がある、と訂正しておきます。