また、協会幹部の方から「渓流斎日乗は上から目線で、偉そう」と怒られそうですが、私は4年前に一度、マレーシアのマハティールさんにインタビューしたことがあります。
当時は元首相で、国産自動車プロトンの会長に就任したばかりで(2014年5月16日付)、マハティール氏出身のクダ州政府主催の投資セミナーの基調講演者として来日しておりました。
当時89歳。マハティール氏と言えば、首相時代に「ルック・イースト」政策を掲げ、「日本に追い付け、追い越せ」とばかりに産業を奨励し、国民1人当たりのGDP1万ドルを達成し、マレーシアを中所得国に急成長させた功労者と言われておりました。親日家としても知られ、日本には何度も訪れております。
しかし、正直、「随分ご高齢なのに、まだまだ政財界とのパイプを切らさず、随分、野心的な人物なんだなあ」と思ったものです。
ですから、今年5月に、92歳にして、2003年以来15年ぶりに首相に復帰したことには驚かされました。
さらに驚いたことは、政権復帰早々、意欲的な活動を開始し、先日(8月21日)は北京にまで飛んで、習近平国家主席と李克強首相と直接面会して、マレー半島を横断する「東海岸鉄道」など、前政権が中国と共同で進めていた大型公共事業中止の了解をこぎつけたことです。総投資額が200億米ドルで、マハティール首相は「マレーシアはそんな大金は払えない」と説得したようです。
私も当初は、政府系ファンド「1MDB」の巨額資金流用疑惑のあるナジブ前政権に対する意趣返し程度としか捉えていなかったのですが、この「中止」は、調べてみると、結構根が深いことが分かりました。
◇マハティール首相が、違約金を支払ってでも、中国との契約を破棄した真の理由は何だったのか?
まず、東海岸鉄道建設の合弁事業に、ナジブ前首相の親族企業との汚職疑惑が取り沙汰されてますが、マハティール政権の真の狙いは、「中国とは一定の距離を置く」、いや「中国離れ」があったようです。
東海岸鉄道は、習近平指導部が推し進めるシルクロード経済圏構想「一帯一路」(The Belt and Road Initiative=BRT)の最重要事業の一つでした。一帯一路は、「陸と海のシルクロード」とも呼ばれ、陸は中国の西安を出発し、ウルムチ(中国)、イスタンブール(トルコ)、モスクワ(ロシア)、ベニス(イタリア)に至る古代のシルクロードの復活です。(正確には違いますが)
海は、南シナ海を通って、ベトナム、マレーシア、インド洋を通って、スリランカ、アラビア海を通ってアフリカ、スエズ運河、地中海を通って欧州に至る経済圏です。
裏社会用語で言えば、中国の息のかかった国を増やすということになるのかもしれません。実際、スリランカでは昨年7月、中国の国有企業(招商局港口)によって南部ハンバントタ港が99年間もの長期貸与契約を結ばされております。スリランカ側の資金難とビジネス戦略の失敗が原因と言われてます。日本ではあまり報道されていませんでしたが、99年間とは、まるで、アヘン戦争を仕掛けて清国を侵略した大英帝国が、香港を借用(実は植民地)したようなもんじゃありませんか。
中国はこの顰に倣ったように見えます。被害者が加害者に転じる典型的なケースに見えてきてしまいます。
先日17日には、パキスタンで「親中政権」と言われるカーン氏が首相に就任し、より一層の中国寄り政策が展開されると言われてます。また、30年間独裁政権が続くカンボジアの公共事業はほとんど中国頼りです。
さらに、米国から「トルコリラ・ショック」を仕掛けられたトルコは、中国からの融資と資金援助を期待して、「親中政策」に方向転換しつつあります。
マレーシアが、中国国有企業による事業計画を中止した背景について、マハティール政権のリム・グアン・エン財務相は「(債務超過で、港を99年間貸与契約させられた)スリランカのように、我々マレーシアはなりたくなかったから」と、ニューヨーク・タイムズ(8月23日付)の取材に、いともあっさりと白状しております。
東南アジアでは、多くの華人と呼ばれる中国系の華僑が経済界を仕切っており、マレーシアでは地元マレー人を優遇するためにブミプトラ政策を行ってきました。(インドネシアはプリブミ政策)それが、ナジブ政権では、華人優先でブミプトラ政策も緩和されていたようです。マハティール政権になって、また復活するかもしれません。
もちろん、マレーシアには、世界第2位の経済大国、軍事大国になった中国に対する警戒感があるのでしょう。ニュースを表面的に見聞しただけでは実相は理解できないという一例として今回、マハティール首相の英断を取り上げてみました。
やっぱり、偉そうかなあ…(笑)