「ワクチン優等生」のはずだったイスラエルで、コロナ感染が再拡大していると報じられています。5月下旬に1日4人だったのが、6月21日には約2カ月ぶりに100人を超えて増加傾向なんだそうです。市民の約55%が既に2回のワクチン接種済みだというのに、です。変異種のインド型デルタ株が要因のようです。
変異種が蔓延ってしまうと、今のワクチン打っても駄目なんでしょうかねえ? と聞いても誰も答えられないでしょうね(苦笑)。
◇裏社会のことを知ってこそ
さて、今、私の自宅書斎の机の上は、読みたい本やら、読まなければいけない本やらで、積読状態で、それらの本の高さが1メートルぐらいあります(少し大袈裟)。先日亡くなった評論家の立花隆さんじゃありませんが、まだまだ知りたいことがいっぱいあるので、仕方ありません。
長年、この渓流斎ブログを御愛読して頂いている皆様なら既に御承知でしょうが、私の好奇心の原点には、世の中の仕組みや、誰が動かしているか、とか、背後にどんな力があったのかといったことを知りたいということがあります。となると、表で報道されていることだけでは、事件や事案の真相は全く分かりません。歴史も、正史よりも稗史が面白いのと同じように、皮相的な新聞やテレビの報道よりも雑誌報道の方が真実をついていることが多いのと同じです。となると、世間では毛嫌いされている裏社会のことも熟知しなければなりません。
前置きが長くなりましたが、新聞広告で寺尾文孝著「闇の盾」(講談社、2021年6月15日第2刷、1980円)という本の存在を知り、すぐさま購入し、他に読む本がいっぱいあるのに、この本だけは一気に読んでしまいました。凄い本でした。まあ、とてつもない。
不勉強ながら、この著者の寺尾文孝氏については全く知りませんでした。本の副題は「政界・警察・芸能界の守り神と呼ばれた男」で、新聞広告では元首相の細川護熙氏や野球解説者の江本孟紀氏までもが推薦文を寄せていました。どうやら、著者は裏社会の人間ではなく、表社会の警察官出身のようでした。肩書は、日本リスクコントロール社長。同社は、究極のトラブルを解決する会社で、仕事の依頼は全て口コミで、宣伝はせず、電話番号も公表していないというのに、政財界人、宗教団体、芸能人らからの揉め事の相談などが押し寄せられるというのです。しかも、最終処理まで面倒を見る「A会員」の会費が年間2000万円、助言までしか行わない「B会員」が500万円という超高額だというのに、です。
で、読んでみて納得しました。それだけ高額の料金を払っても十分通用する凄腕の「仕事師」だということが分かりました。長くなるので端折りますが、著者の寺尾氏は1941年、長野県佐久市に生まれ、高校卒業後、警視庁に入庁。第1機動隊勤務の1965年に起きた渋谷ライフル銃事件で犯人を最初に取り押さえる殊勲で警視総監賞(賞詞二級)を受賞するも、警察組織内での出世競争に疑問を持つなどして5年半で退職。しかし、その後も警察官時代の人脈を大切にしているうちに、元警視総監で参院議員だった秦野章氏と出会うことができ、私設秘書に抜擢されます。秦野氏も渋谷ライフル銃事件の立役者の名前を憶えていたお蔭でもありました。
寺尾氏は、秦野氏との出会いで運命が開けていきます。以前から興味があった不動産経営を始めようと、東京・三田に2棟も高級マンションを建設しますが、その資金を融資してくれたのが、秦野氏から紹介された、あの平和相銀の小宮山英蔵会長でした(小宮山は、元731石井細菌部隊の二木秀雄とも昵懇)。マンションは全日空が社宅として買い上げてくれたりしたので、1棟目の融資金16億円は3年で完済し、毎月入って来る数百万円の家賃収入で、毎晩のように銀座や赤坂の料亭やクラブで豪遊して、政財界人や有名人らとの人脈を広げていきます。(豊富な財力で、逆転して秦野氏のキャッシュディスペンサーになります)
◇墓場まで持って行く秘密の話
この本には、「こんなこと書いてしまっていいのかなあ」ということまで沢山書かれています。元警視総監だった秦野氏が山口組三代目田岡組長の葬儀に参列した話だとか、秦野事務所の私設秘書時代に、頼まれて交通事故違反の刑を軽くしてもらったりといった話です。(秦野事務所の公設秘書の豊嶋典雄氏は、時事通信政治部出身だったとは!驚いてしまいました)
とにかく、著者寺尾氏の人脈の広さには恐れ入ります。「ドリーム観光攻防戦」での、コスモポリタン代表の池田保次氏(元山口組系岸本組配下、その後失踪)との対決については長く紙数を費やしていますが、「バブル紳士」と言われた伊藤寿永光、許永中、高橋治則や「兜町の風雲児」中江慈樹、街金アイチの森下安道といった歴史に名を残す錚々たる人物がほとんど登場しますから圧倒されます。
何と言っても、プロローグから山口組系後藤組の後藤忠政組長による有名芸能人を招待した大パーティーに寺尾氏が参列する模様が活写され、度肝を抜かされます。「芸能界のドン」バーニングの周防郁雄社長も、2000年に事務所に数発銃弾を撃ち込まれた事件があり、彼から相談を持ち掛けられた話も暴露しています。もう20年以上昔ですが、当時、私は芸能担当記者だったので、「ああ、そういう経緯だったのか」と納得しました。私が得た情報では犯人らしい関係者のことは聞いてましたが、さすがに、この本には書かれていませんでしたが(笑)。
◇「八芳園」は「つきじ治作」だったとは
結局、長くなってしまいましたが、まだまだ書き足りません。
この本では、私が知らなかったことが沢山書かれているからです。例えば、マイルドな話だけに絞れば、東京・白金の八芳園は、日立創業者の久原房之助の所有地だったことは知っていましたが、その前は、今の大河ドラマの「青天を衝け」でも登場する渋沢栄一の従弟の渋沢喜作の邸宅だったんですね。江戸時代は大久保彦左衛門の屋敷だったとか。この八芳園を昭和25年に、姉妹店として開業したのが、料亭「つきじ治作」の経営者の長谷敏司だったことも知りませんでした。
◇悪いことをすれば必ず地獄に堕ちる
いやはや、この本では、カナダにお住まいの杉下氏も熟知されている夜の世界の高級キャバレーやクラブや料亭の話も満載されていますが、日本国を動かしている警察や検察の組織にいる生々しい人間関係や天下り先などが明快に分かり、読んでスッキリしました(笑)。当然のことながら、寺尾氏はかなりの勉強家で、読書家のようで、情報収集力は超人的です。
これを言っては身も蓋もないですが、スキャンダルの要因は、結局、「女とカネ」に尽きるというのがこの本を読了した私の感想です。欲望が肥大化した人間の成れの果てです。何であれ、「もう知り尽くしてしまった」という感じです(苦笑)。
そして何よりも、
人を裏切るなど、悪いことをした人間は、いつか必ず天罰を受けて、地獄に堕ちる
ことをこの本を読んで確信しました。これは、確信というより、真理ですね。