NHKラジオ「日曜カルチャー」<人間を考える コロナ後を生きる(2)>で軽井沢病院の稲葉俊郎院長による「個と場が共に健康であること」をスマホアプリの「聴き逃しサービス」で聴くことが出来ました。(今なら、ギリギリ聴くことが出来ます)
あまりにも素晴らしいお話でしたので、忘れないためにも、是非ともこのブログに書き残したいと思い、取り上げさせて頂きます。ただし、お話は1時間以上のかなり長い濃密な話で、全てを取り上げるわけにはいきません。この中で、私自身が一番印象に残った一つに絞ってみたいと思っています。
稲葉氏は1979年、熊本生まれで、東大医学部の博士号を取得後、東大病院勤務を経て、2020年から軽井沢病院で医師として勤務されている方です。その稲葉氏は、学生時代から、病気そのもの以上に、人間が健康であるというのはどういうことなのか、という難題に悩まされて来たと言います。日本の大学の医学部は西洋の現代医学が中心で、例えば、中国の漢方やインドのアーユルベータなど伝統医学について、稲葉氏が学生時代に教授に聞いても、「それはエビデンスがないから」という理由で深く教えられなかったといいます。
そんな悩みを抱えながら医師生活を続けてきた稲葉氏は15年目にしてやっと、「健康とは何か」についての自分なりの考えがまとまり、それらは著書「体と心の健康学」(NHK出版)として出版しました。
そんな中で、人間には「頭」と「心と体」のいわば対立する二つで構成されていることに気が付きます。稲葉氏によると、「頭」とは脳のことで身体の中で異物に近い存在で、色んな情報を集めて判断しますが、勘違いや偏見、思い込みをしがちだといいます。例えば、テレビや雑誌などで有名な先生が言っているからその通りにする、といった具合です。また、「頭」は因果論的で、善悪とか好き嫌いといった二元論で考えがちだといいます。病気だったら、例えばガン細胞が原因ならそれを切除したりしますが、短期的には有効ですが、長期的な健康にはなりません。
一方の「心と体」は、目的論的で、欲求に従って、好きなことをしたり、行きたい所に行ったりしようとします。今ここにある感情で、レストランで食事をして「美味しい」と感じたりします。それなのに、「頭」は別のことを考えたりして、あっちのレストランの方が美味しかったかもしれない、とか、明日はどこへ行こうか、とか余計なことまで考えます。
「頭」は、「何かをしなければならない」といった命令形の形で出てきます。「食べなければいけない」とか「嫌な人でも仲良くしなければならない」といったいわば偽装された浅い感情に支配されます。一方の「心と体」はオリジナルの深い感情で、何とかしたいという感情はあるものの命令形では出て来ないといいます。「頭」が偽の感情や嘘の感情は発すれば、「心と体」には嘘の概念がないので、拒絶して、だから苦しむことになるといいます。
「頭」と「心と体」の関係には、いっぱい頭に知識を溜め込んでも、現実世界に応用したらうまくいかなかったりする事例や、ゴルフ理論が分かっても、実際、スウィングしたら、身体がついていっていない、といった事例がありますね。
稲葉氏は、この「頭」は現代の西洋医学に相当し、病気の解明に大変役立ちますが、「心と体」は、アーユルベータなどの伝統医学で、健康になるには、何をしてどうしたら良いのかを考える。この両者は、対立するのではなく、両立させるべきだと考えたというのです。
ですから、稲葉先生の診断は独特です。例えば、糖尿病の患者が、「先生、私は何を食べたら良いのですか」と稲葉氏に聞いたとします。すると、稲葉先生は「私は決めません」と言うのです。「私は手助けはしますが、貴方の身体の問題であるので、人生とか食べ物に関しては、最終的には貴方自身で決めてもらいます」と言うのです。つまり、主導権は医師ではなく、患者側にあり、心と体の状態をベースにして、自分自身で決めてもらうというスタンスなのです。今までそんな医師に巡り会ったことがなかったので、へーと驚いてしまいました。
稲葉氏は、結局、健康とは、自力と他力(病院や医師)とのバランスを考え、身体感覚を取り戻すことだというのです。
確かに、人生で一番大切な「健康」について、人は、他人や医師に任せっきりで、自己努力が足りない面が多々ありました。稲葉氏のお話は大変興味深く、私も深く考えさせられました。
【追記】
このブログに書いたことは、稲葉先生のお話のほんの一部ですから、皆様も「聴き逃しサービス」でお聴きになることをお勧めします。