不安や怖れを感じても恥ではない=アンデッシュ・ハンセン著「メンタル脳」

 アンデッシュ・ハンセン著「メンタル脳」(新潮新書、2024年1月20日初版)を読了しました。先週から大きな不安を抱えていた私としては、大変時宜のかなった「読むクスリ」でした。もっと言えば「救済の書」でした。

 最も励まされたことは、メンタルの不調は、誰にでもあることで、不安や怖れを感じても何ら恥じることはないということでした。そのメカニズムというのは、脳が「生き延びるため」に警告しているに過ぎないということでした。その強度は人によって千差万別(一晩寝たらケロッと治ってしまう人から、自裁まで考えてしまうほど深刻になる人まで)ですが、その苦しみは一生続くことは稀で、人生のごく一部分に過ぎないということでした。

 なぜなら、苦しみや悲しみが一生続かないのと同じように、幸福感も一生続かないからです。美味しいご馳走を食べて満腹感を得ても、翌日になったらもう忘れてしまいます。志望校や目指す会社や官公庁に就職できても、幸福感はすぐ減少してしまいます。好きな人と結婚できても…、以下省略。

Tsukiji

 また、行動遺伝学でも問題になっていたように、人は生まれと育ちのどちらの影響が強いのかという設問がありました。遺伝か?環境か?どちらが人生を左右するのかというアレです。著者のハンセン氏の見解は「自分のゲノムを選んで生まれて来られないのと同じように、メンタルの不調に見舞われるかどうかも自分では決められない」というものです。しかし、決められるとしたら自分の意志によるもので、こうして、不安や怖れの原因(脳による防御メカニズム)を学んだりすることも一つの手です。ハンセン氏は、唯脳主義者ではないようですから、身体機能も重視し、とにかく「運動」(1日15分のジョギングか1時間の散歩程度)することでリスクを下げることは可能だと力説しています。

 このように、ハンセン氏は、メンタルの不調から自分を守る3要素として、この「運動」のほかに、「質の良い睡眠」と「友人」を挙げていました。

 それと、さらに付け加えますと、先程、ハンセン氏は、幸福感は長続きしないと説いておりましたが、だからこそ、幸せは追い求めるのはやめた方が良いと助言しています。幸福は、追え追うほど逃げていく、とまで言います。

 私自身は、自分の幸せは追求してもおかしくはない。もっと言えば、人生の目的とは幸福の追求だと思っていますので、ハンセン氏の見解とは異にしますけど、とにかく、この本に巡り会って良かったと思っています。