「イエスの王朝」

 

ジェイムズ・D・テイバー著、伏見威蕃・黒川由美訳『イエスの王朝 一族の秘められた歴史』(ソフトバンク クリエイティブ)を読んでいます。まだ、途中ですが、本当に驚くべき「真実」ばかりで、久しぶりにラインを引きながら読んでいます。これまで、私が知り得ていた知識を遥かかなたにまで超えて、「コペルニクス的転回」と言ってもいいほど画期的なので、まさしく驚きの連続です。

 

まず、著者のテイバー氏は、ノース・カロライナ大学宗教学研究所所長で、キリスト教に関する研究の権威なので、同書もノンフィクションの歴史書として売り出している以上、信用するに値するということを前提にしなければなりません。

 

私はキリスト教徒ではありませんが、若い頃から「聖書」を少しずつ読み続けてきました。

 

特に「心の貧しい人は幸いである」「悪人に手向かってはならない。誰かがあなたの右の頬を打つなら、左の頬を打ちなさい」「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」「明日のことまで思い悩むな…その日の苦労は、その日だけで十分である」といった「山上の説教」は、今でも私の規範に影響を受けています。

 

この本で、テイバー氏は、宗教家としてのイエスではなく、あくまでも歴史上に実際に生きた「人間イエス」を分析しています。実際、30歳までのイエスについては殆ど分かっていないのですが、テイバー氏は、東奔西走して30年間かけて、あらゆる資料を渉猟して、以下のような驚きべきことを明らかにしています。

 

●マリアは、ヨセフと結婚する前に、誰か他の男性と関係を持ってイエスを身篭った。つまり、マリアは未婚で私生児を身篭ったティーンエイジャーだった。(まるで、エリック・クラプトンのお母さんみたいですね)しかし、夫となったヨセフは、その子供を父親として認知した。(イエスの「処女降誕」を主張しているのは、マタイ・ルカ福音書のみで、新約聖書のほかの部分には全くない。マタイ・ルカの福音書はあくまでもイエスを神格化するために、「処女懐胎」の思想を生み出した)

 

●マリアが関係したイエスの父親は、ローマ軍の兵士だった。(ギリシャの思想家ケルススが178年頃書いた『真理の言葉』)。イエスの父親は、ティベリウス・ユリウス・アブデス・パンテラという名前で40年間、ローマ軍の兵士として務め、61歳でドイツで亡くなり、墓が1859年にドイツのビンガーブリュックで見つかっている)

 

●イエスには、ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの腹違いの弟四人とマリア、サロメの腹違いの妹二人がいた。(マルコ福音書)みんなマリアの子であるが、イエスとは父親が異なるー父親はヨセフもしくはその兄弟のクロパと思われる。ユダヤの戒律により、夫が亡くなった時にその兄弟が跡継ぎとなることが決まっていた。クロパは正式な名前ではなく「呼び名」の可能性が高く、クロパはギリシャ語形で(聖書の中で)何度も登場するアルファイである。イエスの磔に立ち会い、埋葬に加わった女性三人は、①マグダラのマリア②イエスの母マリア③イエスの妹サロメである。

 

(ここで「腹違い」と書かれているが、原文か翻訳の間違いであろう。イエスも兄弟姉妹もすべて母親がマリアなら、イエスと「父親違い」が正しいだろう)

 

●マリアもヨセフも先祖を遡るとソロモンやダビデらイスラエルの王に辿ることができる。つまり、イエスも正統な王家として、王位継承を求めていたのではないか。(つまり、斟酌されるのは、イエスの行動は宗教家としてではなく、政治運動だったのではないか。そのために、反政府勢力として殺害されたのではないか。弟たちもこの「政治運動」に使徒として参加し)イエスとシモンが磔刑、ヤコブが石打ちの刑というふうに、五人のマリアの息子のうち三人がむごたらしい死を迎えた。(迎えた、ではなく遂げた、という訳の方がいいと思う)

 

「マルコによる福音書」では、12使徒は、①ペテロと名付けられたシモン②猟師ゼベダイの子ヤコブ(大ヤコブ)③ヤコブの兄弟ヨハネ④アンデレ⑤フィリポ⑥バルトロマイ⑦マタイ⑧トマス⑨アルファイの子ヤコブ(小ヤコブ)⑩タダイ⑪熱心党のシモン⑫イスカリオテのユダであることが書かれています。12使徒の12は必ずしも12人ではなく、イスラエルの部族の総称という説もありますが、イエスの異父弟のヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの四人が12使徒だとしたら、ヤコブは⑨のアルファイの子ヤコブ、⑩のタダイは、ヨセかユダの別名、シモンは⑪の熱心党のシモンのことでしょう。

 

(私がこれまで読んだ文献には、そこまで書かれていなかったのいつも隔靴掻痒の感がありました。①のペテロは「ペテロの否認」のペテロで、初代ローマ法王のペテロのことでしょう。⑫のユダはもちろん銀貨30枚でイエスを裏切ったユダのこと。「ユダによる福音書」が最近出版され、これまで違った解釈が生まれているので読まなければと思っています)

 

「イエスの王朝」には熱心党については、詳しく書かれていました。紀元6年以降、「ガリラヤのユダ」と呼ばれる過激分子が、統治者交代の隙に乗じて反乱を起こしたが、このユダが、熱心党(ゼロテ派)と呼ばれるユダヤ国粋主義者の一党を打ち立てた人物だそうです。

 

これらは、2000年も前の大昔の出来事で、現代人と関係ないと思ってはいけません。現代のパレスチナ問題もイスラエルによるレバノン侵攻も、2000年も3000年も前から続いている紛争の延長と見ると、よく分かるからです。

 

恐らく「イエスの王朝」は、宗教家からみれば、冒涜書になるかもしれませんが、私のような異教徒が歴史書として読むと、本当に、興奮してしまいます。聖書と新約時代の地図を参照しながら、ゆっくりゆっくり読んでいるので、読了は先のことでしょうが、また、折に触れて紹介したいと思います。