日米のプロ野球で大活躍したイチロー元選手が出演しているユーチューブの動画が大好評で、6月23日に公開されて2週間余りで再生回数が1800万回を超えたそうです。
見てみると、半端じゃない生活信条と人生哲学の持ち主で、一芸に秀でた天才というのは、こういうものかと思わせます。
私はかつてプロ野球担当記者をやったことがありますが、幸か不幸か、彼を取材したことはありません。阪急が身売りしたばかりのオリックス球団(上田利治監督)を担当したことがありますが、イチロー選手がまだ入団する前の話でしたからね。その後、彼がとてつもない記録を打ち立てるようになり、米大リーグに渡っても、全米記録を更新するなど日々、彼の活躍ぶりが報道されました。
ただ、彼の評判に反比例して、「取材しにくい」とか「生意気で高飛車だ」とかいった話を後輩のスポーツ記者から聞くようになりました。中でも大リーグ時代は、仲の良いお気に入りの記者としか口をきかず、試合が終われば、ロッカールームにはそのお気に入りの共同通信の記者だけが入って話を聞き、ライバル記者は、彼の話をまた聞きするしかなかったという話も聞いたことがあります。ライバル記者たちは屈辱的だったことでしょう。ですから、少なからずの記者たちは彼を嫌っていたか、反感を抱いていたと思われます。相手にしないで済めばいいのですが、実力を伴っているのでどうしても追いかけなければなりません。仕方がない。仕事ですから。
私も彼の担当記者でなくてよかったと神に感謝したい気持ちになりましたが、先程の動画で、「他人から嫌われるのは怖くないですか?」との質問に、46歳のイチロー氏は「僕は他人から嫌われるの大好きなんです。その人たち僕に対するエネルギー半端じゃないでしょう。興味がないことが一番辛いですよ、僕にとって。無関心が一番辛いですね。大嫌いと言われればゾクゾクしますよ」などと応えていました。
なるほど、ほとんどの人は、まあ、99.99%の人は、他人から好かれようとして生きているはずです。いや、家族でも友人知人でも、仕事関係でも、他人から好かれるために生きているといっても過言ではないでしょう。そのために、嘘をついたり、おべっかを使ったり、心にもないことをしゃべったりします。どこかの元大臣さんなんかは、党から貰ったお金まで渡したりしますからね。
イチロー氏は、他人から嫌われることが分かっていて、現役時代、あのような行動を取っていたのかもしれません。他人からの邪気をエネルギーに代えていたのかもしれません。いや、確信的に好きでやっていたのかもしれません。でも、そういうことが出来る人はほとんどいません。第一、実力を伴っていなければなりません。他人から嫌われれば、皆離れていきすから、単なる変人で終わってしまいますからね。となると、イチロー元選手のような人間は、先程の確率で言えば、残りの0.01%ぐらいでしょう。ちょうど、天才と呼ばれる人たちの比率に合うんじゃないでしょうか(笑)。
30年以上昔のプロ野球担当記者時代を振り返ると、私にも色んな思い出があります。阪神タイガースの担当になった時、大阪の会社の先輩デスク(故人)から「阪神の悪口書いたら、ワシがしょーちせーへんからな」と真顔で恫喝された時は、背筋が凍りそうになりました。そう言われてもねえ…。試合中に怠慢行為をしたり、采配ミスしたりしたら書かざるを得ないでしょう。「こっちは仕事なので仕方なくやっているだけで、勝敗なんぞ興味ないわい」と心の中で反発しましたけどね。(その後、仕事を離れてからはプロ野球は一切見なくなりました)
そして、とても取材しやすく、非常に好感が持てる選手に限って、1軍と2軍を行ったり来たりして、一流選手になれませんでした。逆に、大変、言ってみれば傲岸不遜で、記者など「人でなし」などと心の中で思っているような選手で、あまり取材に応じない選手に限って超一流で良い記録を残していました。誰とは言いませんけど、これはプロ野球の世界だけでなく、あらゆるスポーツ、いや、あらゆる業界にも言えることでしょう。
私も、せめて、「他人から嫌われるのは大好き」と公言できるくらい神経が図太くなりたいと思っていますが、煩悩具足の凡夫ですから、所詮、無理でしょうね。