?「記者たち 衝撃と畏怖の真実」は★★★★★

 大変遅ればせながら、ロブ・ライナー監督作品「記者たち 衝撃と畏怖の真実」を東京・日比谷の東宝シャンテ・シネマまで観に行って来ました。(最初、間違えて、東宝シネマ日比谷に行ってしまい、案内係の人も呆れておりました。駄目ですねえ)

 封切りが今年3月29日で、もう1カ月半近くのロングランとなり、来週で、いよいよ公開終了(東京・日比谷は)ということで、慌てて観に行ったのでした。

 とても良い映画でした。満点です。「スタン・バイ・ミー」「ウルフ・オブ・ウォールストリート」などで知られる巨匠ロブ・ライナーが、監督、製作、そして出演(新聞社ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコット役 )まで兼ねた意欲作です。

 先日、バイス(悪徳)ディック・チェイニー副大統領を正面から取り上げた「バイス」を観て、その感想をこのブログにも書きましたが、その「バイス」も、この「記者たち」とほぼ同じ題材(「9.11」からイラク侵攻へ)を扱っていながら、「記者たち」の方が骨組みがしっかりして、人物相関図も分かりやすく、時間の経過を忘れるほどの力作でした。

 それに、CNNやNBCやFOXなど当時のテレビ・ニュースを挿入してドキュメンタリータッチに描く手法は、マイケル・ムーア監督の得意とするところで、ロブ・ライナー監督は、その手法にかなり影響を受けているというか、はっきり言って、真似をしていますが、こう言っては何なんですが、ロブ・ライナー監督の方が上品に感じました。

 今でこそ、「フェイク・ニュース」は有名になりましたが、ブッシュ息子大統領政権は、イラクに大量破壊兵器(WMD)がないにも関わらず、NYタイムズやワシントンポストやNBCといった大手メディアに、嘘の情報を垂れ流し、世論をイラク戦争への道に駆り立てます。

 そんな中、ナイト・リッダーという新聞社というより、田舎の地方新聞社31社に記事を配信している通信社だけが、地べたを這いずり回るほど地道な取材で、政府発表の嘘を見抜いて、ただ1社だけ、イラク戦争反対のキャンペーンを張ります。

 これでも、私自身もジャーナリストの端くれですから、観ていて、記者魂が燃えてきましたね。全米でも最も信頼されている高級紙ニューヨーク・タイムズは「イラクのフセイン政権は、大量破壊兵器を隠し持っている」といったスクープを連発するというのに、規模も小さく、信頼度も大手紙と比較すれば劣るナイト・リッダーは、その正反対のことを書き、9.11以降、日増しに高まる「愛国心」を持った市民らから非難されたり、記者に脅迫メールが送られたりします。加盟紙も記事掲載を拒否したりします。

 この時のナイト・リッダー社の主人公であるジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)とウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)という2人の記者の猜疑心と孤立感と不安と焦燥と怒りが、本当に手に取るように分かり、観ていて、こちらも気持ちが高ぶってしまいました。

 特に、大手紙は、恐らく、ブッシュ大統領やチェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官といった中枢と直接取材できるのに、弱小メディアであるナイト・リッダーは、それが出来ずに、末端の政府職員や、かつての情報分析官らからしか取材できないという事情もあったことでしょう。それが、逆に「政府広報紙」にも「御用新聞」にならずに済んだ要因になったことは皮肉と言えば皮肉ですが、「真実を報道したのは1社だけだった」ことは称賛すべきでしょう。

 映画は、実話に基づく話ですが、ロブ・ライナー監督は、もう一人、愛国心に燃える19歳の黒人青年が、志願してイラク戦争に従軍し、重傷を負って帰還する姿も描き、物語に厚みを持たせていました。

 2003年のイラク戦争も、もう多くの映画になるほど「歴史」になってしまったとは感慨深いですが、ベトナム戦争開戦の火ぶたとなった「トンキン湾侵攻」に賛成し、後に後悔することになる上院議員が「歴史は繰り返す」と発言していたことも印象的でした。

 ハリウッド映画(ワーナー系)でしたが、久々に骨太の映画を観ました。間に合えば、今からでも多くの人に見てもらいたいと思いました。

 

「告発のとき」★★★

  いいご身分なので、平日の朝から映画を見てきました。

 

「クラッシュ」や「ミリオンダラー・ベイビー」でアカデミー賞を受賞したポール・ハギス監督作品「告発のとき」です。トミー・リー・ジョーンズ、シャーリーズ・セロン主演。

 

イラク帰還兵の息子マイクが、脱走兵(AWOL=Absent Without Official Leave)http://en.wikipedia.org/wiki/AWOL#Absent_Without_.28Official.29_Leaveになったという知らせを受けた元米軍憲兵軍曹のハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)が、真相を探るべく軍の基地に出かけ、驚愕の事実をつかむ話です。シャーリーズ・セロンは地元警察の女性刑事エミリー役で、軍警察と地元警察との間で所轄をめぐって微妙な駆け引きも見どころです。

 

いまだ現在進行形のイラク戦争をこういった形で取り上げるとは、「自由の国」アメリカも大したものです。

 

ただし、原題は、In the valley of Elah (エラの谷で)http://en.wikipedia.org/wiki/Valley_of_Elahなんですね。これは、旧約聖書サムエル記第17章に出てきます。後のイスラエル王になる若きダビデがペリシテ軍の戦士ゴリアトhttp://en.wikipedia.org/wiki/Goliathと戦った所です。

ハンクがエミリーの子供に寝しなに語って聞かせる話として、このダビデとゴリアトが急に出てきますが、全体のストーリーとはさほど関係がなく、異様に唐突で、旧約聖書に精通していない日本人の一人として、よく分かりませんでした。やはり、ハリウッド資本が関係しているのではないか、と勘ぐりたくなってしまいました。

 

でも、アメリカ人は子供の時から、この物語は聞かされ、教科書にでも取り上げられているのではないのでしょうか。ですから、「エラの谷で」http://en.wikipedia.org/wiki/In_the_Valley_of_Elahというタイトルを見ただけで、中身を想像できるのでしょうね。

それにしても、アメリカという国は、第二次世界大戦が終わっても、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争…と戦争のない時代がほとんどなく、まるで戦争が国家システムの中に必然的に組み込まれているかのように見えてしまいます。

イラク戦争5年を想う

 

最近、気になったNYT紙の記事…

 

間もなく5年を迎えるイラク戦争の戦費総額が「3兆ドルに達するのではないか」という記事です。ノーベル経済学賞受賞のジョセフ・スティグリッツ氏の試算。

 

同氏は「この戦費の一部でもあれば、社会保障制度を今後半世紀にわたって健全に維持できた」と発言していますから、裏を返せば、米国は今後半世紀にわたって社会保障制度を健全に維持できない、ということになりますね。

 

昔、子供の頃、ヴェトナム戦争華やかりし頃、市井の勉強家に「アメリカは戦争をやり続けなければもたないんだよ。資本主義国家というのは、不況になれば、戦争によって好景気を生み出していくものなんだよ」と聞いたことがあり、今も深く印象に残っています。

 

「大量破壊兵器があるから」という大義名分の下で、イラク戦争を起こしたアメリカですが、国内の不満や経済的不況を打開するために戦争を始めたとしたら、5年経った現在、それは、失敗だったのではないでしょうか。

 

ブラックジョークで、戦争によって、景気が良くなれば、講釈も後付けで何ともなります。しかし、サブプライムローンをはじめ、大幅なドルの失墜で経済危機が叫ばれる今の米国で、イラク戦争が米国内に好景気をもたらしたという話は聞いたことがありません。

 

何と言っても、社会保障という国民の根幹にかかわることを蔑(ないがし)ろにしてまで、対外戦争を続ける意図が私にはいまだによく分かりません。

 

賛否両論をお待ちしています。