老化は病気なので治療可能?=デビッド・A・シンクレア著「LIFE SPAN 老いなき世界」

 何とも言えない異様な世界に足を踏み入れてしまいました。

 不老不死を求めた秦の始皇帝が派遣した徐福になったような気分です。

 何しろ、「老化とは一個の病気であり、治療可能。死は必然であるとする法則はない」と著者は力説しているのです。今、話題のデビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント著、梶山あゆみ訳「LIFE SPAN 老いなき世界」(2020年9月29日初版)という本を読み始めています。分子生物学、遺伝学の専門書ですが、日本版が経済専門出版社である東洋経済新報社から出版されたということは意義深いのかもしれません。

サーチュイン、エピゲノムって何?

 でも、文科系出身の人間が読むと、かなり難しく、私なんか途中で投げ出したくなりました。(私の生物学の基礎知識は、この本の著者がまだ幼児だった頃の1970年代初頭の高校時代で終わってます。ワトソン=クリックが発見したらせん状のDNAの発見までは習いましたが、それがどんな働きをして、生命にどんな影響を及ぼすのか詳しく知らないままで終わっていました)ということで、最初から耳慣れない専門用語がドバドバ出現して頭が混乱します。

 例えば、死滅しつつある細胞の中で、増えたいという根源的な欲求に応えようと奮闘する「マグナ・スペルテル」(「偉大なる生き残り」の意味)とか、DNAの損傷の修復や細胞分裂など「災害対応部隊の指揮官」と呼んでも良い「サーチュイン」という酵素、そのサーチュインが活動するのに必要な「NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」、このほか、生体のアナログ情報である「エピゲノム」とか、DNAとタンパク質の複合体「テロメア」などです。

 でも、こういった専門用語を会得すると、俄然と面白くなってきます。私の場合は、本書の3分の1に当たる第2部の168ページを過ぎた辺りからです。そこからは、健康寿命を伸ばすための「工夫」が書かれているからです。

酒、タバコを控え、たまには断食、そして運動

 「長生きするには、どうしたらいいんだよ」というセッカチな皆さんに合わせてみますと、著者が力説するのは、まず、タバコは百害あって一利なしということで御法度です。DNAを損傷させ、肺がんなどの疾患になって死に至ります。(私の大好きなビートルズのジョージ・ハリスンはかなりのヘビースモーカーだったせいか、肺がんのため58歳の若さで亡くなってしまいました。)

 また、お酒もほどほどにした方がよく、ワインもグラス2杯ぐらいに止めることが賢明だとか。食事は、なるべくカロリー制限し、肉食より菜食、できれば、間欠的断食で身体に負荷をかけた方が長生きするといいます。(国際カロリー制限協会会員のマグロシンさんは、70歳になったとき、カロリー制限のおかげで、血圧も悪玉コレステロール値なども実年齢より遥かに若かったといいます)そして、何よりも、定期的な運動です。それも、気楽な散歩ではなく、それなりの速さで走った方が、長寿遺伝子を活性化するといいます。

 他にポリ塩化ビニルなど複合化学物質や排気ガスなどを避けて、たまには極寒の体験によりサーチュインにスイッチを入れ、長寿遺伝子を活性を促す、なんてものもあります。

 これらは、いずれも荒唐無稽な話ではなく、科学者である著者(豪州シドニー出身で、現在米ハーバード大学医学大学院教授)が実際に酵素やマウスなどを使って実験したデータなどから導き出したものです。

 ◇ラパマイシンで10年も寿命伸びる?

 実は、まだ半分ぐらいしか読んでいないのですが、できれば、この本を読むお仲間を増やして語り合いたいと思ったので、早々に御紹介しました。

 モアイ像で有名なイースター島で、1965年に発見された菌の化合物「ラパマイシン」というのが、ヒトの免疫を抑制する機能を持つ一方、mTORタンパク質を阻害することで寿命を伸ばす働きを持つことが分かってきました。(ショウジョウバエなどにラパマイシンを与えると、人間に換算すると約10年分も健康寿命が伸びた!)このように、近年になって、次々と長寿につながる物質が発見されているのです。このままでは、人間、100歳どころか120歳まで生きるのが普通になる未来がやってくるかもしれません。

 久しぶりにドキドキワクワクする知的興奮を味わっています。

【追記】

NMN(ニコチンアミド モノ ヌクレオチド)については、面白いサイトを見つけました。TEIJIN系の会社のようですが、分かりやすい。