山道を歩きながら考えた。兎角、英語は難しい=袖川裕美著「放送通訳の現場からー難語はこうして突破する」

 渓流斎ブログの今年1月10日付「『失敗談』から生まれた英語の指南書=袖川裕美著『放送通訳の現場からー難語はこうして突破する』」の続きです。

 昨晩、やっと読破することが出来ました。読破とはいっても、寄る年波によって、前半に書かれたことをもう忘れています(苦笑)。最低、3回は読まないと身に着かないと思いました。かなり難易度が高い上級英語です。英語塾を経営されている中村治氏には是非お勧めしたいです。

 何しろ、同時通訳英語ですから、市販の辞書にまだ掲載されていない最新用語が出てきます。後で調べて、例文も探してやっと分かったというフレーズも沢山出てきます。著者の袖川さんがその場で自身で考えた「本邦初訳」があったことも書いております。

 前回にも書きましたが、この本では、袖川さんが訳に詰まったり、聞き違いして誤訳したりしたことも正直に書かれています。勿論、うまくいった話も沢山ありますが、私なんか読んでいて「とても出来ない仕事だなあ」と正直思いました。私は、米国人でも、南部のテキサスやフロリダの英語は聴き取れなかったし、本場英国のコックニ―はさらにチンプンカンプン。セミナーを取材した際、マレーシア人らの英語はお手上げでしたからね。同時通訳者全員、尊敬します。

 これまた、前回にも少し書きましたが、英語は中学生レベルの単語を並べただけでも、全く複雑な意味になり、英語ほど難しい外国語はないと私は思っています。今回も具体例を御紹介しましょう。

 Hindsight is twenty-twenty,

答えを先に言ってしまいますが、これで「後知恵は完璧」「後からなら何とでも言える」となります。ことわざですが、急に言われたら分かるわけありませんよね?袖川さんも正直に書いてますが、最初 twenty-twenty は2020年のこと?それとも、catch-22(板挟み)のことか?と一瞬頭によぎったそうです。でも、それでは意味が通じなくなるので、「沈黙」した(尺=時間制限=があるので飛ばした)ことも正直に告白しています。

  でも、catch-22が出てくる当たり、さすが袖川さんです。これは、1961年にジョセフ・ヘラーが発表した小説のタイトルで、第2次世界大戦の米兵の「板挟み」が描かれています。1970年にマイク・ニコルズ監督によって映画化されましたが、私も池袋の文芸座でこの映画を観て、中学生ながら、この単語の意味を覚えました。

 肝心の twenty-twentyというのは、20フィート離れた所から、サイズ20の文字が識別できる正常な視力のことで、「正しい判断」という意味でも使うとのこと。 Hindsight は「後知恵」「後から考えたこと」ですから、「後から考えれば正しい判断ができる」といったような意味になるわけです。

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 この本では、in the room「部屋の中で」を使ったイディオムが二つ出てきました。elephant in the room とthe last person in the room です。 elephant in the room は「部屋にいる象」と私なんか聞こえてしまいます。これで、「見て見ぬふりをする」「触れてはいけない問題」となるそうです。象が部屋の中にいれば見えないわけがない。だから、見て見ぬふりをする?…うーん、分かるわけがない。本文に出てくる例文も、英国とEUとの通商交渉の話(BBC)で、Elephant is not in the room, but in the service, financial service.ですから、難易度が高過ぎる。

  the last person in the room は、「部屋にいる最後の人」ではなく、「その部屋で最も~しそうもない人」という否定的な意味だと高校時代から刷り込まれていた、と著者の袖川さんは言います。そしたら、バイデン米大統領が就任100日目を迎えるに当たって、ハリス副大統領がCNNのインタビューに応じた際に、同時通訳のブースに入った袖川さんは以下の発言を耳にします。

 I was the last person in the room when Biden made the decision to pull all the US troops out of Afghanistan.

えっ?もしかして、ハリス副大統領は、バイデン大統領の米軍アフガン撤退の決定に否定的だった?などと、私も思ってしまうところですが、袖川さんは、この発言で何を否定するのかよく分からなかったので、「最後まで大統領を支持しました」とお茶を濁したそうです。ただ、この場合、他の皆が反対したのに、自分は最後まで支えたことになり、これでは、他の人が反対したことが前提となり、実際はどうだったのか分かりません。政権内が一枚岩ではないことを暴露してしまうことにもなり、ハリス副大統領がそんな意図で発言したわけがないことを袖川さんは後で落ち着いて考えました。

 結局、他の例文なども確かめ、調べに調べた結果、 the last person in the room とは「最後に部屋に残って、意見を求められる、最も信頼される立場の人」のことで、一言で言うなら「重要な相談相手」ということが分かったといいます。

 うーん、これだから英語は難しい。同時通訳は「瞬間芸」ですから、聞き逃したり、聞き間違えたり、勘違いしたりすれば、全て後の祭りです。まさに、神業(かみわざ)と言っていいでしょうが、この本を読むと、ミスをしないため、常に事前準備と自己鍛錬と不断の努力と毎日、毎時、毎秒の勉強が欠かせないことがよく分かりました。

 最後に、私が全く分からなかったフレーズに、money note (見せ場、山場)=市販辞書にもネット辞書にも載っていなかった=やhot potato(熱々のポテト、というより、難問、難局、手に余る問題)などがありました。

 どうして、そんな意味に「豹変」するのか、皆さんもこの本を是非、手に取ってみてください。