自社株を環境保護団体に寄付した創業者=パタゴニアのシュイナードさん

 本日は下世話なファッションの話をー。

 年を取ると、どうもファッションに関心がなくなり、着るものに関しては無頓着になってしまうものです。今さら、モテるわけでもなく、仕事もなくなれば、「着た切り雀」になることでしょう。

 私もその一人でした(過去形)。固有名詞を出しては申し訳ないですが、近年は、ほとんどユニクロで間に合わせておりました。下着からワイシャツ、ダウンジャケットに至るまでです。ユニクロの柳井さんに対して、こんなに貢献している人は他にいないぐらいです(笑)。

 それが、あるきっかけで、もうユニクロは卒業させてもらうことにしたのです。はっきり書きますが、XLの大きさにしても、下着のトランクスのゴムがきつく、布の質がイマイチなのか、装着感が、ゴワゴワして少し擦れる感じなのです。そこで、天下の伊勢丹で売っている某社の高級トランクスに代えたところ、値段は倍以上でしたが、ゴムは全然きつくなく、履いていても擦れる感じ全くなく、実に爽快だったのです。

 お金は、死んであの世に持っていけるわけではありませんから、ケチケチ過ごすことが馬鹿らしくなってきました。下着だけでなく、もう少し、ちゃんとした衣類を着よう、と思ったわけです。人は90%見かけで判断しますからね。でも、いい加減年を取ると、相応しいファッション・ブランドがなかなか見つかりません。

 昔は、つまり若い頃は、「ポパイ」や「ホットドッグ・プレス」なんかを買って、当時全盛期だったテニスのビヨルン・ボルグが着用していたフィラや、ジョン・マッケンローが着ていたセルジオ・タッキーニなどを無理して買って、よく着ていたものでした。それらは、昔は、かなり高級ブランドでしたが、今では、そこら辺のスーパーでも売っているぐらい、格が落ちてしまいました。高級ブランドのジヴァンシーが、トイレのスリッパまで作るようになったのと同じ路線です。

 何の話でしたっけ? そうそう、シニア向けのブランドと言えば、有名なパパスとかありますが、あまりにもあからさまで「爺むさい」感じがするので、仕方なく、昔よく買っていたラコステのポロシャツやズボンで間に合わせることにしました(価格はユニクロの2.5倍以上)。この他、1877年にノルウェーで創業された老舗のヘリー・ハンセンというブランドが、漁師向けで防寒に優れて耐久性もあり、品質が良いという噂を聞いて、リュックサックやダウンジャケットなども取り揃えました。

 それでも、何か物足りないような、引っ掛かるような感覚がありました。私は電車通勤をして、会社のある銀座の街中を歩いておりますが、車内や街行く人のファッションのブランドを眺めてみると、男性も女性も圧倒的にノースフェイス THE NORTH FACEが多いですね。今は冬なので、そのノースフェイスのダウンを着ている人ばかり見かけます。私はへそ曲がりですから、(全く恨みはありませんけど)皆が着ているノースフェイスだけは恥ずかしくて着られません。

東銀座

 そんな折、本日のことですが、東京新聞が朝刊1面トップで、「米アウトドア用品『パタゴニア』創業者 自社株ほぼすべて環境団体に 地球を救う経営を」と題した記事を掲載しておりました。何と1面トップですよ! ウクライナ戦争でもなく、昨今の物価高の話でもなく、防衛費増額問題の話でもなく、ファッション業界の創業者の話です。

 最初、大変失礼ながら、「また売名行為かぁ?」と読む気がしなかったのですが、読んでいくと、こんな素晴らしい経営者はいないと確信しました。創業者のイボン・シュイナードさん(84)は、もともとロッククライマーで、登山用具の鍛冶屋だった経験も生かして1973年に「パタゴニア」(本社=米加州ベンチュラ)を設立します。現在、世界で1300億円以上の売上高を誇る企業に成長させました。しかし、もともとは職人さんですから、金儲けには大して関心がなかったようです。自身と家族が保有する約3900億円もの自社株を環境保護団体に寄付してしまったのです。その理由は、気候変動の危機感があり、「死んだ星では何もできない」ことを悟ったからだといいます。シュイナードさん御自身、パタゴニアという会社をこれから先、200年は続けてもらいたいという希望があるからこそ、どうすれば良いか考えた末、環境保護団体に寄付を決めたというのです。

 いやあ、なかなか出来ないことです。しかも、大富豪らしからず、社長さんなのにお抱え運転手はおらず、飛行機はエコノミークラス。同じ家に50年以上妻と一緒に住み、携帯電話も通話以外使わない。ほぼ毎日、中古で買った日本車スバル・アウトバックを自ら運転して出勤しているというのです。

 しかも、2011年の感謝祭翌日の大規模セールで、「自社商品を買わないよう」キャンペーンを張ったといいます。「そのジャケットは本当に必要なのか。必要で買ってくれるなら永久に保証する。不具合が出たら修理する。体形が変わって着られなくなったら、買ってくれる別の人を探す。使い古されて完全に使えなくなったら送り返してほしいというメッセージだった」とシュイナードさんは振り返ります。勿論、地球環境問題に配慮した考え方です。

 この記事を読んで、私は、いっぺんにシュイナードさんと、彼の理念が反映されているパタゴニアのファンになってしまいました。パタゴニアは登山用品専門かと思っておりましたら、検索してみたら、街中でも着られるジャケットやパンツ(私の世代ではズボンと言います)やダウンや帽子など品数多く揃っておりました。

 今まで一度も買ったことがありませんが、これからは、シニアでも着られる(と思われる)パタゴニアの衣類を少しずつ買い揃えてみようかなあ、と思っております。(あくまでも、これは宣伝記事ではありません。我利我利亡者が蔓延るビジネスの世界で、シュイナードさんの理念と行動に感動した話でした)