先日、国際金融関係の本を読んでいたら、ゴールドマン・サックスなどウォール街での金融ビジネスで、上位に君臨しているほとんどがユダヤ系だというので、「どうしてなのかな?」と素朴な疑問を友人の榊原君に話したら、彼は、佐藤唯行著「アメリカ経済のユダヤ・パワー」(ダイヤモンド社)という本を貸してくれました。
この本は、2001年10月4日初版とかなり古い本なので、情報も古いのですが(何しろ、フェイスブックのザッカーバーグもネットフリックスも出てきません!)、何故、ユダヤ系の人たちが米国経済界の上位に躍進したのか少し分かりました。
最初にお断りすると、この本の著者(獨協大学教授)と同様に、私自身も「ユダヤ人陰謀説」には与しません。150年ほど前から米国に来たユダヤ人のほとんどが東欧やロシアなどで迫害されてやむ得ず移民した者が多く、ほとんど無一文の状態から、血の出るような努力を重ねて「アメリカン・ドリーム」を実現した者が多かったからです。そして、恐らく、この本に書かれている成功したユダヤ人とは違い、彼らの大半は成功せずに貧困のうちに生涯を終えていたと思われるからです。
何よりも、ユダヤ人ということで最初から差別され、1970年代までまともに企業に就職できなかったといいます。(米国の基幹産業である石油産業はユダヤ系だと思っていたら、WASP=プロテスタントのアングロサクソン系白人=が独占していたことをこの本で知りました)となると、自分たちで起業しなければなりません。この本では、最初は廃品回収業に近い職種から大成功を収めたユダヤ人も出てきます。
ユダヤ系といえば、金融業のほか、新聞(ニューヨーク・タイムズなど)やテレビ(ABCなど)などのメディア(この本では、メディア王ルパート・マードックはユダヤ人ではない、と書いてありました)、ハリウッド映画(スピルバーグ監督らと映画製作会社ドリームワークスを共同創業したデヴィッド・ゲフィンは、レコード会社の経営者で、ジョン・レノンの最後のアルバム「ダブル・ファンタジー」を出したゲフィン・レーベルだったとは!彼も勿論ユダヤ人です)、俳優らのほとんどがそうだということは知っておりましたが、それ以外にも、化粧品(エスティー・ローダー、マックス・ファクター、レブロンなど)、服飾ファッション(カルバン・クライン、ラルフ・ローレンなど)、玩具(トイザらス、バービー人形など)も創業者がユダヤ系だったことをこの本で初めて知りました。
では、なぜ、これほどまでユダヤ人が優秀なのか? 著者の佐藤教授は、その秘訣は、ユダヤ人の教育にあると見ています。佐藤氏はこう書きます。
幼い子どもを対象とするユダヤ教古典学習の根幹は、徹底した暗記教育である。これを毎日繰り返すうちに、脳の中に大きな記憶回路が作り出されるといわれる。敬虔なユダヤ教徒の家庭で生育した若者たちの中から、天性の記憶力の持ち主が生まれることは偶然ではないのである。
なるほど。旧約聖書をはじめ、ユダヤ教の聖典タルムード(6編・63項目からなる口伝律法ミシュナとその注解ゲマラから成る)を丸暗記させられるのでしょう。頭脳が鍛えられるはずです。
そして、佐藤教授によると、ユダヤ人がビジネスの面で成功するのは、キリスト教や仏教などでは「清貧」を重んじるのに対して、ユダヤ教は、富を求める衝動は人間の幸福に不可欠なものと容認しているからではないか、と分析しています。これも、なるほど、です。
ユダヤ人は相互扶助の形で、起業する若者たちに低金利で融資したりしていることもビジネス面で役立っていることは確かです。就職差別により、隙間産業を探したり、起業せざるを得なかったことが逆に彼らにビジネスチャンスを与えた格好になりました。
いい本を貸してもらいました。