チェット・ベイカー

公開日時: 2005年3月21日

渓流斎がブログを始めた理由の1つに、これまで8年間、ある雑誌に連載していた音楽エッセーが終了したことが原因にあります。おかげで世間様に署名で発表する機会が1つ減ってしまったわけです。「それなら、自分で手間暇掛けずに発信してしまおう」というのがこのブログに挑戦したきっかけになったのです。これから、数日間に渡って、これまで連載してきたその音楽エッセーの一部をご紹介致します。

◎ジャズの歴史的名盤をついに発掘!
=チェット・ベイカーにみる人生の悦びと辛さ=

チェット・ベイカーと聞いて「おー」と声を上げた人はかなりの音楽通かジャズファンですね。チェット・ベイカーには「シングス」という歴史に残る名盤中の名盤があります。と、書きながら、小生は知らなかったのですね。恥ずかしながら。帯広の地元FM局の一つである「FM-WING」でこのアーティストを教えてもらいました。これでもジャズについてはかなり通になったつもりでした。十年程にビル・エバンスを聴いてすっかりはまって、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンを中心にCDも百枚以上買ったと思う。六本木の「ピット・イン」や南青山の「ブルーノート」にも足繁く通ったものです。CDは持っていなくても大抵のジャズマンの名前と曲ぐらいは知っているつもりでした。
しかし、正直、彼のことは知らなかですね。最初、聴いた時、女性の黒人ヴォーカリストだと思ったくらいですから。早速、自宅から歩いて10分のCDショップ「玉光堂」に行ってきました。まさか、売っているとは思はなかったのに何と彼のCDが20枚くらいもあるのです。おかげで何を買ったらいいのか分からず、結局「えい、やあ」と選んで買ったのがこのCD「シングス」でした。
「歴史的名盤」というのも別に私が決めたわけではありません。このCDを知らないジャズファンは「もぐり」なんだそうです。そんな「もぐり」が講釈するとは片腹痛いのですが、まあ、聞いてくんなせい。
ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリンとミュージシャンの中には、不幸な最期を遂げる人が多いが、彼もご多分に漏れず、かなり波乱万丈の生涯を送ったようです。1929年に米国のオクラホマ州に生まれ、トランペッターとしてデビューし、20代で早くもウエストコースト・ジャズの旗手としてマイルスを凌ぐ人気者に。しかし、このCDは、トランペット奏者としてではなく、彼のヴォーカルにスポットを当てたもので、54年と56年に録音されている。まさにジャズの黄金時代。ヘレン・メリルの名盤「ウイズ・クロフォード・ブラウン」がリリースされたのもこの頃なんですね。
「シングス」のジャケット写真を見ると、髪型といい、白いTシャツにジーンズ姿といい、同世代のジェームス・ディーンにそっくりだ。その端正な顔つきも、麻薬中毒のおかげで、40代にして早くも老醜を晒し、58歳にしてホテルから転落するという、自殺か事故かわからない非業な死を遂げるのです。
もっと色々書きたいのだが、残念、紙数が尽きた。とにかく、一度聴いて彼の魅力に浸ってほしい。彼の囁くような中性的な歌声には、大人であることの苦しみ、辛さ、悦びがすべて詰まっているような気がする。
おっと、忘れるところだった。彼から最も影響を受けたのが、あのボサノヴァの創始者、ジョアン・ジルベルトだったんですって!道理で…。