猪野健治著「テキヤと社会主義」

京洛先生のお奨めで、猪野健治著「テキヤと社会主義」(筑摩書房)を読みはじめています。

お!?

京洛先生が出てくるとは、この渓流斎ブログは、本物らしくなってきましたね(笑)

しかし、まだまだ油断できません。

だって、ゴーストライターは、さっき一時間ほど前に食べた食事のメニューも、昨日何処に行ったのか、忘れてしまうぐらいですからね。

やはり、怪しい。

では、ゴーストライターとして、続けます。

テキヤとは、香具師のことで、いわゆる露店商のことです。映画の寅さんみたいな人です。

しかし、寅さんのような独立独歩で、ふらふらバイ(商売)をしている露店商人は、フィクションで、実際の香具師の業界は、親分絶対支配の社会なんだそうです。

香具師は、中国古代の神話に登場する神農黄帝を始祖と仰ぐため、神農業界とも呼ばれます。神農は、百草をなめて薬草を選び、路傍で売って病人や怪我人らを救ったと言われ、売薬行商人の信仰の対象になっています。

香具師が神農を始祖と仰ぐのは、扱うネタのなかにガマの油などの薬物があり、露店でバイをする共通点があるからだそうです。

香具師というと、世間では裏社会と繋がっていると見られがちですが、もともとは、露店で商売をせざるを得ない社会の最下層といいますか、底辺で働く真面目な労働者でした。だからこそ、世の不公正に異議を申し立てて、社会主義運動やアナーキズムに走るテキヤが、1920年代に一部いたという史実を数少ない資料を発掘して書かれたものがこの本の特徴になっています。

大杉栄まで出てくるのでびっくりしてしまいました。(大杉殺害の報復を図るギロチン社の高嶋三次ら)

今では、全国的に露店の出店が制限されたり、禁止されたりして、食い扶持を取り上げられた香具師が、仕方なく債権取立てやヤミ金融などに手を染めて、暴力団組織の傘下に入ってしまうケースがあるそうです。

この本では、色々と教えられます。例えば、演歌というのは、壮士節から発展したもので、演説を歌にするという意味が込められているのだそうです。演説とは、時の薩長政府を鋭く批判したり、時事問題を風刺したりする内容で、どこかの会場で演説会を開けば、官憲から中止されるため、仕方なく、全国津々浦々でバイをする香具師の軒先(とはいっても青天井の道端だが)を借りて、演説に節をつけて演歌を歌い、その歌詞を売って生計をたてていたそうです。

香具師にとっても、演歌師は「何かをやってる」という客の呼び込みにもなり、お互い様にになっていたのかもしれません。

結構、読みがいがあります。

付録として、本書に出てくる香具師業界特有の隠語を列挙しておきます。恐らく、広辞苑にも出てこないのでは?

⚫帳元=親分
⚫モミ=インチキ賭博
⚫ゴロ=抗争、喧嘩
⚫ギシュウ=無政府主義者、社会主義者
⚫タカマチ(高市)=祭礼
⚫ズリ=ゴザ
⚫脱尾=警察の尾行から逃れる
⚫庭場、費場所=縄張り
⚫ネス=素人
⚫ネンマン=万年筆
⚫アカタン=金魚
⚫チカ=風船