🎬「ドライブ・マイ・カー」は★★★

 カンヌ国際映画賞(脚本賞ほか4冠)、ゴールデングローブ賞(非英語映画賞)、そして何よりもアカデミー賞4部門(作品、監督、脚本、国際映画)ノミネートということで、巷で騒然たる話題になっている濱口竜介監督作品「ドライブ・マイ・カー」が再上映されるというので昨日、映画館に足を運んで観に行って来ました。

 偉そうですが、私の採点は星三つでした。どちらかと言えば、昨年12月に観た同監督作品「偶然と想像」の方が遥かに面白かったです。

 勿論、私は文化国粋主義者ですから、この作品は、是非ともアカデミー賞を取ってもらいたいと思っていますが、私が審査委員なら、正直、国際映画賞なら他の作品との兼ね合いから票を入れてもいいですが、同賞最大最高の「作品賞」ともなると、入れませんね。もし、作品賞を取ったら、「渓流斎の目は節穴。観る目が全くない」と批判されると思いますが、それでも構いません。

 何しろ、不思議なのは、過去に、巨匠黒澤明も溝口健二も「作品賞」にはノミネートすらされたことがないといいますからね。

 この濱口作品はあまりにも私的小さな世界に縮こまっていると思います。黒澤明は、「我が青春に悔なし」で京大の滝川事件を題材にしたり、「生きものの記録」で第五福竜丸の被爆事件から翻案したりして、時事的、社会的話題に常に目を配らせていました。溝口健二は、「西鶴一代女」や「雨月物語」など歴史物を題材に現代の矛盾を照射したりして社会性がありました。

 村上春樹原作の「ドライブ・マイ・カー」に社会性も時事性もないとは断言しませんが、やはり、黒澤明や溝口健二には遥かに及びません。溝口健二から「成瀬君のシャシンには〇〇〇〇がない」と批判された成瀬巳喜男(「浮雲」「流れる」)にも及びません。この作品がアカデミー賞作品賞を受賞したら私は失望して、余生は、黒澤や溝口や成瀬や小津安二郎らの作品を観て過ごすと思いますよ。(ポン・ジュノ監督「パラサイト」が作品賞を受賞した時も大いに疑問でしたが)

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 「ドライブ・マイ・カー」は昨年の夏に公開された時も、かなり話題になっていましたが、観に行きませんでした。3時間近い長い映画であるということと、「妻を失った舞台俳優の喪失感」云々といった梗概を読んで、気が引けてしまったからでした。ちょうど、昨年は春に高校時代の親友を病気で亡くしたため、「喪失感」が計り知れなく、現実でこんなに苛まれているのに、またそんな「喪失感」の映画なんか観たくない、と思ったからでした。

 で、実際に観て、やはり、私は「近い」ので途中でトイレに駆け込んでしまいました(笑)。そして、映画の前半は、正直、ポルノ映画チックか、覗き見趣味的な場面が多くて、辟易してしまいました。

 チェーホフの「ワーニャ伯父さん」を広島で上演する話なので、俳優が俳優を演じるというマトリョシカの入れ子のような話なのですが、何と言っても、濱口竜介監督お決まりの「長セリフ!」。東京芸大大学院修了のせいか、ちょっとインテリ過ぎの嫌いがあるのでは、と思ってしまいました。

 そう言えば、黒澤明も溝口健二も成瀬巳喜男も昔の映画監督は、大学は出ていません。それでも脚本は簡潔で明瞭で、間合いが素晴らしく、台詞がなくても、人間関係の機微を見事に描いていました。

 またもや老人の懐古趣味的な話になってしまいましたね。