?「Cold War あの歌、2つの心」は★★★★★

  今月上旬に予告編を観て、どうしても、何としてでも観たかったポーランド映画「Cold War あの歌、2つの心」を有楽町で観て来ました。満員でした。監督、脚本は「イーダ」でアカデミー外国語映画賞を受賞したパベウ・パブリコフスキ監督。 同作品は昨年の第71回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞しました。

 日本人は、「灰とダイヤモンド」や「鉄の男」「カティンの森」などで知られるアンジェイ・ワイダ監督作品が大好きで、ポーランド映画には馴染みがあります。この作品も、私の直感に違わず感動的な映画でした。CGやFXなどを多用するこけおどしのようなハリウッド映画とは一線を画します。製作費をかけられなくても、効果的な音楽が実にいいのです。胸にジーンと、お腹にはズシリと効いて、終わってもしばらく席から立ちあがれませんでした。

 東西冷戦下の1949年から1964年までの15年間の話です。ポーランドの舞踊歌劇団に所属するピアニスト兼音楽監督ヴィクトル(トマシュ・コット)と若い歌手ズーラ(ヨアンナ・クーリグ)が、愛し合いながらも、時代に翻弄される物語です。

 監督のパブリコフスキは、私の同世代ですが、この作品は両親を参考にして製作したようで、「両親に捧ぐ」と献辞られていました。パブリコフスキ監督は、子ども時代、冷戦下で育ったわけで、この映画の中に出てくるように、舞踊歌劇団がソ連・スターリンの政治的プロパガンダに利用されたり、ヴィクトルが強制収容所か監獄に入れられてしまう話などは事実として見聞し、フィクションとして反映したものと思われます。

 さすがに、愛し合う二人の結末がどうなるかは茲では書けませんけど、密告と裏切りが蔓延る冷戦下という非常事態でなかったのなら、あれほど、二人は狂おしいほど燃え上がることはなかったのかもしれません。

 何と言っても、この映画が良かったのは音楽が良かったからでした。ポーランドの伝統的なマズルカのような民族舞踊曲を始め、ヴィクトルがパリに亡命してからのジャズは、当時の時代を見事に再現している感じでした。(ヴィクトルは、あの難曲中の難曲、ショパンの「幻想即興曲 op66」をいとも易々と弾いてましたが、ショパンはポーランドが生んだ大作曲家・ピアニストでしたものね)

 21世紀だというのに、全編モノクロで撮影されていて、最初、何でそんなアナクロな手法をパブリコフスキ監督は取るのか理解できなかったのですが、観ているうちに分かりました。白黒でなければ、1950年代の「ジャズ・エイジ」のパリの雰囲気を表せなかったのではないか、と。(火災に遭う前のノートルダム寺院も出てきました)

 そうなると、ズーラの着る民族衣装も色彩豊かに見え、ズーラの唇には、強烈に派手で真っ赤な口紅が塗られていることが見えてくるのです。

 映画では、ヴィクトルとズーラの二人が別れたり、再会したりする15年間の軌跡を辿っていますが、演じる二人とも見事に老けていくので、メーキャップにしても凄いなあ、と思いました。特に、ズーラ役のヨアンナ・クーリグは、最初は10代の女子高生ぐらいにしか見えなかったのに、最後は、中年太りのために本当に体重を増量して、背中まで肉付きがよくなっていて、同じ人とは思えないくらいでした。

 彼女は、失礼ながら、超美人ではありませんが、華があってオーラがあり、しかも素晴らしい歌唱力もあって、誰でも心惹かれる名女優といっていいでしょう。私もすっかり、ファンになってしまいました。

 恐らく、この映画、日本でも大ヒットするんじゃないでしょうか。そう予言しておきます(笑)。