便利さと引き換えに個人財産を搾取される実態=堤未果著「デジタル・ファシズム」

 堤未果著「デジタル・ファシズム」(NHK出版新書、2021年8月30日初版、968円)を読了しました。読後感は、爽快感からほど遠く、恐怖にさえ駆られてしまいました。

 それでも、この本は現代人の必読書でしょう。私ごとき凡夫が「是非とも読むべきですよ」と主張しても、まあ、ほとんどの方は読むことはないでしょう。その方が、為政者にとっても、政商にとっても、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)と呼ばれる米中のIT巨大企業にとっても好都合だからです。

 無知な人間は、せいぜい個人情報を搾取して利潤しか追求しないこれらIT企業の策略にはまって、身ぐるみ剥がされればいいだけの話です。でも、そんな無知は罪ですよ。

 そんなことを言っている私自身も無知な人間でした。ここに書かれていることのほとんど知りませんでした。唖然とするばかりです。

 例えば、コロナ禍で自宅でのリモート勤務やセミナーのオンライン開催が多くなりましたが、その際、流行のように使われたのが、ZOOMです。このZOOMは、カナダのトロント大学グローバルセキュリティ研究所の実証検査によって、会議の暗号化キーが中国の北京のサーバーを経由していたことが分かったといいます。

 そこで、同研究所は、このようなセキュリティ上の問題があるため、現時点では以下のような強力なプライバシー保護及び機密性を必要とする場合、ZOOM使用は推奨しないと警鐘を鳴らしています。それは

1,スパイ活動を懸念する政府関係者

2,サイバー犯罪や産業スパイを懸念する企業

3、機密性の高いテーマに取り組む活動家、弁護士、ジャーナリスト

以下略

 この箇所を読んで、私なんかぶっ魂げてしまいました。例えば、現在、インテリジェンス研究所が、機密性の異常に高い「諜報研究会」を毎月開催されておりますが、コロナ禍のため、ZOOMによるオンライン会議となってます。大丈夫かなあ~と心配してしまいました。

福島県 裏磐梯・曽原湖

 広告・コンサル業界世界最大の米アクセンチュアが推進しているデジタル構想にスマートシティというものがあります。これは、交通、ビジネス、エネルギー、オフィス、医療、行政などの様々な都市機能をデジタル化した街のことで、無人スーパー、無人銀行、無人行政など便利さの面で申し分ありません。現在、福島県の会津若松市がモデル都市と選ばれて、実証実験されているといいます。(他に、私もお世話になった北海道の更別村、仙台市、前橋市、浜松市、河内長野市、高松市、北九州市などがスーパーシティに応募しています)

 ただし、スマートシティには便利さと引き換えに落とし穴もあり、著者はその一つとして、個人情報の扱いが緩くなる難点を挙げています。それに、ジョージ・オーウェルの「1984」のような息苦しい監視社会になる懸念は払しょくできないことは確かです。

 日本でその音頭を取っている、というか、お先棒をかついでいるのが「スーパーシティ構想の有識者懇談会」の座長である竹中平蔵氏です。表の顔は慶応大学名誉教授のようですが、裏の顔は、人材派遣会社パソナの会長であり、オリックス、SBIホールディングスなどの社外取締役です。牽強付会、我田引水的手法で自分たちに都合の良いように法律を改正したり、為政者に働きかけたりする「政商」とも言われています。

 例えば、こんなことがあります。

 ソフトバンクとヤフーが設立したPayPayと提携し、NTTデータの決済システムCAFISを通さなくても住信SBIネット銀行から低コストで行える入金サービスを開始した人としてSBIホールディングスの北尾吉孝社長がおります。そのPayPayのようなノンバンクの決済業者が、既に確立された安全性に定評のある全国の銀行ネットに参入する道筋をつけたのが、同ホールディングス社外取締役の竹中平蔵氏である、と著者の堤未果氏は書いております。

 また、竹中平蔵氏が社外取締役を務めるオリックスもまた、自社が手掛けるPayPayを日本に導入する際の仲介ビジネスによって潤うだろう、とまで堤未果氏は特記しています。

 さらに、「LINE Pay」は韓国、アリババが大株主の「PayPay」は中国、「アマゾンペイ」は米国と、日本で使われている資金移動業者の多くが外国資本で、日本の法規制が及ぶとも限らず、そもそも、〇〇ペイには、万一不正使用された場合、「預金者保護法」のような共通のルールはない、とまでいうのです。

 この本の後半は教育ビジネスについて割かれていますが、他にもたくさん、「デジタル・ファシズム」による弊害が、これでもか、これでもかといった調子で描かれています。私が茲で書くより、直接本書を読むことをお薦めします。

 私の読後感は最初に書いた通りですが、我々、現代人は便利さと引き換えに、大切な個人財産と魂まで悪魔に売り渡してしまったような気がしました。