日本人の味覚が劣化していく恐怖

 渓流斎ブログは、「世界最小の双方向性メディア」を自称していますが、昨日書いた「コロナ禍どさくさ紛れの種苗法案は今国会断念だけでなく廃案にするべき」には結構反応がありました。

 例えば、学生時代からの畏友T君は、かつて住んでいた中部地方で週末に農業をやり、販売できるほど収穫があったといいます。しかし、それは化学肥料や農薬を使う「慣行農業」だからできたことで、色々と学んでいくうちに、「有機農業」や「自然農法」へと移っていきます。すると、みるみると収穫量が減っていくので、これはどうしたことか、と種子への関心が真剣に高まっていったそうです。そんな中で、サカタやタキイなどの企業が売っている所謂「F1種」に対する疑問が湧き、日本語講師として中国の大学に渡った時、そこで見た「もう後戻りできない」モンサントやシンジェンタなどによる種子の寡占販売を目の当たりにします。帰国後、「遺伝子組み換え」やら「ゲノム編集」やら「種苗法」の問題に遭遇すると、「もう、グルメランキングだの、どこそこのレストランが美味しいなどと言ってる場合じゃない。米国やスイスなどの巨大多国籍企業に、日本人の『食』が乗っ取られようとしている」という心情に達したといいます。

 横浜にお住まいの調理師のM氏は、さすがに、普段から色んな食材と関わってきているので、この問題には敏感です。

 「F1作物と種子戦争、遺伝子組み換え、Oー157、 モンサント、穀物メジャーなど20年以上前の亡霊がまたぞろ現れたかのようです。気付かなければ、国の農業が崩壊させられてしまう。大国の意のままにされ、阿ることしか出来ないのではないかという印象です。今更ですが、単なる属国でしか無く、今度は余った人工呼吸器を買わされるようです。只々残念です」とのメールを頂きました。

 そして、私自身の見解は、日本人の味覚がどんどん劣っているという恐怖です。もう半世紀以上も昔ですが、私が子どもの頃食べた野菜は、トマトもニンジンもジャガイモもキュウリも、もっとどぎつくて、土の味がしました。今のような水っぽい、スカスカの味ではありません。匂いも強烈だったし、エグイ味でした。

 先日、テレビを見ていたら、コンビニで売っているレトルト食品のランキングをやっていました。料理研究家と称する女性が出てきて、ファミマの〇〇が美味しいだの、セブンイレブンの〇〇は手軽にできて、子どもたちも大喜び、だのと言って、実際、子どもたちに食べせて、子どもに「おいちい」とか何とか台詞を言わせているのです。…何か、涙が出てきました。何時間も下拵えして、手間暇かけて作った料理の味とは比べものにならないはずです。

 私もたまに、レトルト食品(英語でTV dinner ということを最近知りました)を食べることがありますが、合成保存料か人工着色料か何か知りませんが、どうしても薬品の味がします。最初からこのような冷凍食品で育った子どもたちは「違い」が分からないのかもしれません。

 もしかして、その番組は、大手コンビニエンスストアと冷凍食品企業がスポンサーで、単なる商業資本主義の権化のような宣撫番組だったのかもしれません。でも、これを見た多くの人は全く気付かず、「まあ、手軽ねえ。ウチも買おうかしら」「チンしたら、レトルトといっても手料理と変わらないらしい。旦那に出そう」という話になるはずです。

 新自由経済主義、グローバリズム、効率主義、料理をする時間があったら外で働いて金儲けをした方が家族のためになるという金融資本主義の幻想が極まった感じです。

 遺伝子操作食品というのは、種子の遺伝子操作だけでなく、人間自体を洗脳して味覚遺伝子までも変える意味も含まれているかもしれませんぜよ。

コロナ禍どさくさ紛れの種苗法案は今国会断念だけでなく廃案にするべき

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

  新型コロナのおかげで、重要なニュースが報道されなかったり、隠されてしまっていることが危惧されます。何と言っても、ジャーナリズムの基本は、「何が報道されたか」というより、「何が報道されなかったのか」の方が需要だからです。

 そんな目立たない記事の中で、ほとんどの日本人が気付かなかった記事があります。今月5月19日に今国会での成立が見送られることになった「種苗法改正案」です。この法案廃止の急先鋒の一人と言われている元農林水産相で弁護士の山田正彦氏によると、もしこの法案が成立すると、農家は、登録品種の自家増殖(採種)が一律禁止となり、違反すると10年以下の懲役1000万円以下の罰金が科せられ、農家は毎年、高いお金を出して、モンサント(現バイエル)など外資のグローバル種子企業から種を買わざるを得なくなるというのです。しかも、それらの種子だと遺伝子組み換えやゲノム改良品種に頼らざるを得なくなる恐れがあるというのです。

 「これから大変なことが今の国会で決められようとしています。」(山田正彦オフィシャルブログ・2020年2月14日)

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 これについて、京都大学大学院教授の藤井聡氏や、どういうわけか女優の柴咲コウさんまでが賛同といいますか、論争に加わっていました。特に、柴咲さんは「新型コロナの水面下で、『種苗法』改正が行われようとしています。自家採取禁止。このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます。これは他人事ではありません。自分たちの食卓に直結することです」(4月30日)などとSNSで積極的に発言されていましたが、どうやら今では削除されているようです。

 どうも芸能人が政治的発言をすると、日本では多くの人が匿名を使って叩く傾向があります。

 種苗法が改正されると、モンサント(現バイエル)など外資の多国籍種子企業が儲かるということに対して、「グローバル種子会社はモンサントだけでなく、日本のサカタのタネなどもあるので、山田氏の主張にはその視点に欠けている」といった批判もあります。

 それでも、私自身は、山口県の地方紙、長周新聞がコロナ禍のさなかに種苗法改定案が国会審議入りへ 農家の自家採種禁止で揺らぐ食料安保」(5月14日付)で指摘したように、食料自給率がわずか37%という日本の食料事情を鑑みても、問題がある法案であり、廃案にしなければならないと思っています。

 なお、種苗法改正法案については、農林水産省のホームページに掲載されています。