我がオーディオ遍歴記

 随分、大層なタイトルを付けてしまいましたが、私の世代ほど、オーディオ機器の変遷に翻弄された世代はないと思われます。

 まず、1960年代初頭、私が幼稚園の頃、家にあったレコードはSP盤でした。とても、堅いながら、落とすとパリンとすぐ割れてしまう代物でした。多分、父親のコレクションで、クラシックやジャズもあったかもしれませんが、私が覚えているのは何枚かの童謡でした。それほど聴いたわけではなく、何しろ、どんなSPプレーヤーだったか覚えていません。

 私が小学生の2年生ぐらいの頃になると、いわゆるLP、EP、シングル盤が聴けるポータブルのプレーヤーが家に入って来ました。兄が中学生だったので、主に兄が使っていたのかもしれません。

 覚えているのは、この上の写真のEPです。シングル盤は45回転で、A面、B面の2曲しか入っていませんが、EP盤はLPと同じ33回転で4曲も入っています。上の写真のEP盤はビートルズのLP「ラバーソウル」から編集されたものであることは今ではすぐ分かるので、1965年に発売されたと思われます。となると、小学校3年生の時でした。このEPは中学生だった兄が友人から借りてきたものだったので、2週間ぐらいで家からなくなりましたが、ビートルズといえば、激しくてうるさいロックだと思っていたら、こんな優しいバラードもあるのか、と子どもながら驚いたことを覚えています。

 小学生ながら、すっかり洋楽づいてしまい、文化放送の確か、ひがさ缶詰提供の「ポップスベスト10」などを聴いて育ちましたので、新曲を出せば1位になっていたビートルズ(「イエローサブマリン」辺りから=1966年)やローリングストーンズ(「シーズ・ア・レインボウ」辺りから=66年)などを覚えました。初めてレコードを買ったのは小学校4年生の時で、ビージーズの「ジョーク」という曲のシングル盤400円でした。その頃、父親がオープンリールのテープレコーダーを買いましたが、特に音楽を録音したわけでもなく、伯父さんが遊びにきたとき、唄を歌ったり会話したりしたものを録音したものでした。そのテープもレコーダーも今はなくなりましたが。

 LP盤を初めて買ってもらったのが1969年のビートルズの「アビイロード」でした。その時に、父親が初めてソニーのインテグラというステレオを買ったからでした。

 とにかく、中学高校生になるとお小遣いでビートルズのLPを買い集めました。カセットテープレコーダーもその頃に初めて買ったのでしょうが、その後何度も買い換えたので、いつ頃初めて買ったのかも覚えていません。

 1970年代、大学生になると、アルバイトでステレオのコンポーネントを買い揃えました。アンプはヤマハが良いだの、オンキョーが良いだの、スピーカーはデンオンが良いだの、と友人と競って買い揃えました。まだ、LPとカセットの時代で、我々はウオークマンの第1世代でした。

 日本で初めてCDが発売されたのが1983年ということですから、既に社会人になっておりました。初めてCDを買ったのは何だったのか覚えていませんが、LPで持っていたレコードは全てCDに買い換え、持っていたLPは二束三文で中古屋さんに売ってしまいました。80枚ぐらいで9000円ぐらいでしたから惜しいことをしました。

 MDが初めて発売されたのが1992年ということですが、これまた初めて買ったのはいつだったのか覚えていません。ラジカセも何回か買い換えましたが、カセットテープは、しばらくするとテープが伸びて音が聴けなくなったりするので、これまた持っていたカセットは処分して、全てMDプレーヤーに録音し直したりしました。

 30代は主にモーツァルトなどのクラシック、40代はビル・エバンスなどのジャズにはまり、50代以降はボサノヴァなど千差万別聴くようになりましたが、60代になると、次第に音楽はあまり聴かなくなりました。20代は一日16時間ぐらい聴いてましたが、今では一日30分ぐらいでしょうか。

◇今でも誰よりもMDを愛す

 さて、ここからが本題です(笑)。実は今でも語学講座の録音などでMD使い続けているのです、現在は、ネット上での音楽鑑賞が中心になり、録音する際は、フラッシュメモリーとかUSBとかハードディスクとか色々あるようですが、私はMDで止まってしまい、新しいものにはあまり付いていけなくなってしまったからです。

 レコードはSPから始まり、LPとなりCDを経験し、録音は、オープンリールからカセットテープになり、MDへと激動の時代を潜り抜け、もう疲れました(笑)。

ケンウッドのMDパーソナル・ステレオシステムMDXーL1

 実は、長年、語学録音などに使っていたMDプレーヤー(CDプレーヤーとラジオ付き)の調子が最近悪くなってしまい、何か、新しいものにしようかと思ったのですが、私が昔買ったものと全く同じものが通販で売っていたので、今回買うことにしたのです。ケンウッドのMDパーソナル・ステレオシステムMDXーL1という代物です。中古ながら2万5980円もしました。よく見たら「2009年製」とありました。ネット上で説明済でしたが、AMのアンテナが付いてなく、保証書も説明書もなく何か危ない(笑)。それに、楽天で買ったのに、何と古いアマゾンの段ボールに入れて送って来ましたよ(笑)。

 私が同機種を買ったのは「2006年製」で、領収書が出てきたので見たら、2万4800円でした。何だ! 中古品なのに、買った時のモノよりも高くなっているとは! まあ、経済は、需要と供給の世界ですから、高くても買う馬鹿がいるわけですねえ(笑)。この機種は、2006年に買ってから3年後の2009年に2回、CDの再生不可とMD録音の不調で修理に出して、合計9222円の修理代を取られていますが、それ以降1回も壊れていませんでした。まあ、15年間も長い間、よく頑張ってくれました!

 となると、新しく買ったこの中古品も2009年製ですから、あと3年ぐらい持ってくれればいいという感じかもしれません。修理に出しても、生産はとっくに終わって、部品もないことでしょうから。

 でも、3年後にこの中古品が壊れたら、今度はどうしましょうか。

 語学学習なんてもうやめてしまうか、専用のラジオ録音機器を買うか…。そして、CDを聴く専用のプレーヤーを買うしかないかもしれませんね。

 何しろ、今の人は、音楽なんて、ダウンロードして自分のスマホで聴くのが主流で、何そのCDって? LPって何ですか? SPって化石かアンモナイトみたいなもんでしょう?と言われることでしょう。

1970年の「レット・イット・ビー」から半世紀も経つとは…

 YouTubeで「うちで踊ろう」を公開したミュージシャン星野源のサイトに、日本の最高指導者の安倍晋三首相がコラボ投稿して、自宅自粛要請を呼び掛けたことに対して、喧々諤々の論争になっています。

 安倍首相は自宅の居間で、愛犬とじゃれたり、珈琲を飲んだりしてくつろいでいるブルジョワ生活をあからさまにしてしまったせいか、派遣切りに遭った人とか、店舗休業を余儀なくされたりした人たちから、「何を呑気なことやってるんだ。そんな暇があったら、休業補償の問題を即刻解決してもらいたい」といった切実な投稿のほか、「国会議員ら特権階級は減給されることなく満額振り込まれるから羨ましい」といった皮肉な意見が殺到したようです。

 安倍さんに期待し過ぎるからいけないんですね。モリカケ問題をあやふやにし、財務省の現場職員が自殺してもまるで他人事。公金の私的流用の疑いが濃厚な「桜を見る会」を結局、なかったことにした安倍さんですからね。最初から、そういう人だと肝に銘じていれば、「裏切られた」なんて思わないはずです。

 それより、この星野源のサイトを、先週8日に逸早く教えてくれたのが、高校時代のバンド仲間の神林君でした。そんな政治的な話ではなく、全く音楽的な話で、曲のコードが普通のメジャー、マイナーではないので、「あの変なコードをコピーできるかい?」と投げかけてきたのでした。我々が、バンドをやっていた初期の頃、ロックの楽譜などほとんど発売されていなかったので、レコードが擦り切れるほど何回も何百回も聴いて、音を取ったものでした。その点、彼には「絶対音階」があるので、仲間が驚愕するほど簡単にコピーしてしまうのでした。

 ということで、早速聴いてみたら、その「うちで踊ろう」は、ボサノヴァ風と言えばボサノヴァ風で、バリバリにブルーノートとかマイナーペンタトニックのようなジャズコードをふんだんに使っていました。記号で書けば、例えば、CとかCmとかではなく、C7(♭9,13)といった複雑なコードです(笑)。

 ギター片手にそんなことをしていたら、久しぶりに自分の音楽遍歴を思い出してしまいました。全く個人的などうしようもない話ですから、ご興味のない方は、ここで左様なら(笑)。

◇◇◇

 ざっくり言いますと、子どもの頃は歌謡曲や演歌なども聴いてましたが、10代の多感な時代に入ると俄然、ロックです。それが20代まで続きます。ビートルズ(解散後のソロも含めて)、ローリングストーンズ、レッド・ツェッペリン、クイーン、エリック・クラプトンなどはほぼ全てのアルバムを買い揃えました。

 30代に入ると、一変してクラシック音楽オンリーです。特に、モーツァルトのCD全集を40万円ぐらいかけて買い揃えたほか、グレン・グールドにはまってからバッハ、ベートーベン、ブラームス(交響曲第1番は10種類近く)を中心に聴き、ショパンもルビンシュタインによる全集、ポリーニ、ホロヴィッツ、ポゴレリッチ、キーシン、ブーニンらの演奏に耳を傾けました。ドビュッシーは卒論のテーマだったので、改めて、偏屈なミケランジェリのピアノに惚れ、歌劇「ペリアスとメリザンド」まで買い、そして何と言っても、のめり込んだのが20代の時に最も感激したワグナーです。フルトベングラーよりもクレンペラーが好きでしたね。当時ブームだったマーラーもチャイコフスキーもスメタナも堪能し、バルトーク、ストランビンスキー、シェーンベルク辺りまではカバーしました。現代音楽はグバイドーリア、アルボ・ペルトらも聴きましたが、苦手でしたね。武満徹は例外ですが。

 40代になると、今度はジャズです。若い頃は「爺の音楽」として敬遠していましたが、もしかしたら、今は、ロックやクラシックよりも一番リラックスできて好きかもしれません。グレン・ミラーやベニー・グッドマンなんかは既に聴いてましたが、ジャズにはまったきっかけは、ビル・エヴァンスでした。彼のアルバムをほとんど買い占めて、セロニアス・モンク、バド・パウエル、ウィントン・ケリー、トミー・フラナガン、オスカー・ピーターソン、ジョージ・シアリングなどピアノばかし聴いてました。ラッパは、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン、マイルス・デイビス、アート・ペッパーら王道ばかりでしたが、オーネット・コールマンと晩年のマイルスあたりの前衛的になるとついていけなくなりました。

 ウエス・モンゴメリーにはまってからは、ジャズは好んでギターばかりです。ハーブ・エリス、バーニー・ケッセル、ケニー・バレル、タル・ファローらがお気に入りで今でも聴いてます。ヴォーカルは、ヘレン・メリルを端緒に、やはり、ビリー・ホリデイ、ナット・キング・コール、エラ・フィッツジェラルドの正統派でしょうが、以前にブログで書いた通り、ジュリー・ロンドンはしびれますね(笑)。

 50代になると、主にボサノヴァが中心で、シャンソンやカンツォーネもよく聴くようになりました。ボサノヴァのアントニオ・カルロス・ジョビンはレノン・マッカートニーに引けを取らない20世紀が生んだ世界最高の作曲家だと思ってます。シャンソンは、何と言ってもセルジュ・ゲンズブールです。エディット・ピアフもシャルル・トロネもいいですが、フランソワーズ・アルディ、シルビー・バルタン、イブ・モンタンというミーハー志向。カンツォーネはジリオラ・チンクエッティと極めてオーソドックスなポップスですが好んで聴きました。

◇「14歳の法則」を発見

 今は、昔のCDを引っ張り出して色んなジャンルの曲を聴いています。正直、今流行のラップにはついていけません。分かったことは、人間は、14歳の時に聴いた音楽がその後の人生を決定づけることでした。大袈裟な言い方ですが、人生で最も多感な14歳前後に聴いた音楽が、その人の「懐メロ」になるということです。14歳と言えば中学生ですから、お小遣いも少なく、そんなにレコードなんて買えません。私の場合は、「ミュージック・ライフ」などの音楽雑誌を買って、レコードのジャケット写真を何度も何度も穴があくほど眺めて「欲しいなあ、お金があったらなあ」と思っていました。それが、長じて金銭的に余裕ができると、その反動で、昔買えなかったCDレコードを次々と買い集めることになってしまったのです。

 個人的ながら、私の場合は、写真でアップした通り、S&G「明日に架ける橋」、サンタナ「天の守護神」、CSN&N「デジャ・ヴ」、CCR「コスモズ・ファクトリー」、EL&P「展覧会の絵」、フェイセズ「馬の耳に念仏」、ジャニス・ジョプリン「パール」などです。いずれも1970年か71年に発売されたものだったことが後になって分かり、この「14歳の法則」を新発見したのです(大袈裟ですが、商標登録申請中=冗談です)。記憶していた耳が自然と当時流行った音楽を求めたのでしょう。嗚呼、当時聴いていたシカゴ、BS&T、チェイス、クリスティー、カーリー・サイモン、ジェームズ・テーラー、カーペンターズなんかも本当に懐かしい。

 1970年は、4月にビートルズか解散し、最後のLP「レット・イット・ビー」が発売され、映画も公開された年でした。私は、朝早くから夜遅くまで、3本も4本も、この同じ映画「レット・イット・ビー」を新宿の武蔵野館で何回も見続けたものでした。当時は、入れ替え制ではありませんでしたからね。よく飽きなかったものです(笑)。

 あれから半世紀もの年月が過ぎてしまったとは、とても信じられません。振り返ると、邦楽はほとんど聴かず、洋楽ばかり聴いていたことになります。

 この私が発見した「14歳の法則」、きっと貴方にも当てはまると思いますよ!