小説 京都は難しい

京都二条城

「ウマズイめんくい村」と言えば、ライバルを蹴散らして、圧倒的なアクセス数を誇るグルメサイトとして世間では知られています。

何しろ、ライバルサイトと違って、全て自前でたった一人で取材、執筆、編集活動に勤しんでおられるところが、この渓流斎日乗との共通点です(笑)。

しかも、広告宣伝費をもらうことなく、社会還元か慈善活動のような啓蒙活動を行なってますから、大したものです。

主宰者は赤羽彦作村長さん。ある日、京都は東山清水寺近くにある松寿軒の饅頭が「どぇりゃーうめー」(なんで名古屋弁?)との噂を小耳に挟み、村長としては是が非でも賞味しなくてはなりません。

坂東の田舎から京都に電話をかけ、「マンジュウありますか」と尋ねたところ、店の主人は「マンジュウ?そんなもん置いてまへん」とけんもほろろ。

彦作村長さん、「おかしいなあ」と思いつつ、ちょうど日本文筆倶楽部の会合が京都で開催される序でに寄ってみたといいます。

松寿軒は、昭和7年創業と、京都ではかなり新しいお店。それだけに、他の老舗和菓子屋と比べて気合いの入れ方が違うようです。

彦作村長さんが店に入ると、お目当てのマンジュウがたった一個だけあるではありませんか。安心して、店の主人に取材を始めました。この店の饅頭が飛び切り美味いという評判を聞いたこと。自分はわざわざ坂東から買いに来たこと。そして、この間、電話したら、けんもほろろだったことを話そうとした瞬間、後から来たオバハンが、たった残り一つの例のお饅頭を買ってしまうではありませんか!

すっかり、しょげかえった彦作村長は、仕方なく最中を買って勘定を済ませる時に、「実は、この店は、京都五山の建仁寺にまで卸しておられる格式の高いお店ということを聞いて訪ねたのですが、残念でした」と言い残したそうです。

すると、店の主人、さっと顔色が変わり、「えっ?建仁寺?それをご存知でやんしたか?」と言いつつ、またさっと奥に入って、この店一番の自慢の薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)を半ダース持って来て差し出したくれたというのです。

「なあんだ、あるんじゃん。隠して…」と心の中の憤りを隠して、彦作村長さんは、その薯蕷饅頭を有り難く買わせてもらったそうです。

京都の奥深さですね(笑)。

京都の和菓子屋の世界では、上菓子屋、饅頭屋、餅屋とはっきりと格差があって、上菓子屋は天下の宮中や京都五山の法事や茶会に仕出しする上等のお店というプライドがあるようです。

だから、松寿軒の主人も「マンジュウ」と言われてカチンと来たのでしょう。同じお饅頭でも単価が違います。餅屋は、大衆的なおはぎやぜんざいなどを出すお店で、しっかり区別されています。

それを知らなかった彦作村長さんは、最初は足元を見られていたわけです。

いやはや、京都は難しい(笑)。