備前焼のぐい吞みをゲット=友人Y君から

 何の風の吹き回しなのか、岡山出身の友人Y君から備前焼のぐい吞みをもらってしまいました。

 Y君は先週、高齢の親御さんの介護のために1週間近く岡山に帰郷していたのですが、そのついでに倉敷の大原美術館にあるエル・グレコの「受胎告知」を再見しに行き、またまたそのついでに商店街で備前焼専門店で見かけた「ぐい呑み」が小生に合うんじゃないか、とわざわざ買って来てくれたのです。

 焼き物は、備前に始まり、備前で終わる。

 と、彼に対して釈迦に説法のような偉そうなことを言いながら、私が銀座で高価な備前焼の湯飲み茶碗を買ったことを自慢したことを彼は覚えていたのかもしれません。もしくは、内心、彼は「備前は俺の地元だぜい」と馬鹿にしていたのかもしれません。それでもー。

 「これから寒くなるし、これで熱燗でも呑むとうまいよ」

 さりげなく、彼はプレゼントしてくれたのです。プレゼントなので、さすがに値段を聞くわけにはいきませんが、お店の「陶備堂」のホームページを見て吃驚です。かなり敷居が高く、入るのに勇気がいりそうな高級店です。何と言っても、「倉敷最古の備前焼専門店」と銘打っていますからね。

備前焼 紀文春氏 1975年備州窯入社、伝統工芸中国支部展、茶の湯造形展等入選

 また、このぐい吞みの作者の紀文春氏は、1975年に備州窯入社と略歴にありますので、この道、半世紀近い大ベテランさんです。

 「陶備堂」のHPを見ると、この店の「お抱え作家」の中に、「人間国宝」の伊勢崎淳氏がおり、彼の壺は77万円、茶碗が55万円の価格が付いておりました。

 紀文春氏の場合は、そこまでは行かないと思いますし、「箱入り」ではなかったので、それほど高価なぐい吞みではなかったかもしれません。(そうじゃなければ、気軽にお酒は呑めましぇん!)

備前焼 ぐい吞み(紀文春作)工房:岡山県和気町

 本当に、それでも、わざわざ、小生のために買って来てくれるとは…。その「心意気」だけでも感謝感激です。

 実は、Y君とは、趣味嗜好も、性格も、育ちも全く違い、どちらかと言えば、気も合わないのですが(笑)、彼と知り合ったお蔭で、これまで自分自身、若い頃は全く興味がなかった経済や金融について関心を持つことができるようになりました。彼がいなかったら、ケインズの「一般理論」やハイエクの「隷属の道」やトマ・ピケティの「21世紀の資本」などまず読むことはなかったと思います。

 その点、彼には大変感謝しています。彼のお蔭です。たとえ、趣味や気が合わなくても、いや、合わなかったからこそ、別の世界を知ることが出来たわけですから。やはり、持つべきものは有形文化財(お金)ではなく、無形文化財(友人)ですよ。

 Tu ne penses pas?

見つかった? 何が? 愉しみが=備前焼の湯呑茶碗購入記

 備前焼 湯呑茶碗(鈴木美基作)

 コロナ禍による自粛で、つまらない毎日を送らざるを得ません。でも、あまり、落ち込んでばかりもいられないので、何か愉しみを見つけることにしました。

 面白きなき世を面白く、です。

 私の場合、ほんの少し、焼き物に凝ってみました。焼き物といっても、サバの塩焼き定食ではありません(くだらない!=笑)。有田焼、九谷焼、笠間焼といったあの焼き物です。高校生程度の基礎知識しかないので、少し調べたら、中世から現代まで続く代表的な六つの窯を「六古窯」と呼ぶそうですね。それは、越前、瀬戸、常滑、信楽、丹波、備前の6窯です。1948年頃、古陶磁研究家の小山冨士夫氏により命名されたといいます。既に奈良、平安時代から生産が始まっています。

 となると、私も、以前購入したり、家にあったりして、良く知っている唐津焼や萩焼や志野焼や益子焼などは、六古窯と比べれば、それほど古くないということになります。豊臣秀吉による朝鮮出兵で、多くの陶工が日本に強制的に連れて来られたりして、九州を中心に全国至るところで、窯が開かれたという話を聞いたことがあります。

 茶道具の陶磁器の中には城が買えるほど、超高価なものがあったりして、調べれば調べるほど焼き物の世界は奥が深いので、歴史的な話はひとまず置いて、個人的な話に絞ります。

◇湯呑茶碗が欲しい

 きっかけは普段、家でお茶を飲んでいる湯呑茶碗です。いくらなのか、知りませんが、安物で、スーパーで「一山幾ら」の中から見つけてきたような代物です。毎日使っているものですから、そんな安物ではあまりにも味気ない。それでは、何か良い物でも奮発して買ってみようかと思い立ったわけです。

 でも、焼き物は種類が莫大で迷うばかり。そこで、誰が言ったか知りませんが、「備前に始まり備前に終わる」という格言を思い出し、備前焼に絞ることにしたのです。

 そしたら、銀座に備前焼の専門店があることを見つけました。何と私の通勤路のみゆき通りにあり、毎日のようにそのビルの傍を通っていたのです。その店は「夢幻庵」といい、ビルの2階にあります。昼休みに、飛び込みで入ったら、40代ぐらいの女性の店主が笑顔で迎えてくれました。「夢幻庵」は岡山県備前市に本店と支店があり、陶芸作家を200人以上抱えているというのです。東京の、しかも銀座に支店を出すぐらいですから、相当なお店なんでしょう。

備前焼 湯呑茶碗(鈴木美基作)良い景色です♪

◇「小橋俊允は私の弟です」

 それで、店主と色々と話しているうちに、結局、湯呑茶碗一個を買ってしまいました。備前市の鈴木美基さんという陶芸作家が作ったものです。6600円也。お店の女性は「作者は48歳ぐらいの方です」と説明してくれましたが、後で自分でネットで調べてみたら、1970年生まれの方でした。ということは50歳ですよね? もう一人、気に入った湯呑茶碗があり、どちらにしようかと最後まで悩みましたが、8800円という値段の関係もあり、今回は諦めました。作家は小橋俊允さんという人でした。この方、ネット通販でも名前を見かけた人でした。偶然です。通販で購入してもよかったのですが、ネットでは重さも大きさも肌合いもよく分からないので、店舗に足を運ぶことにした経緯があります。

 そしたら、お店の女性は、後になって、「(小橋俊允は)私の弟なんですよ」というので吃驚してしまいました。既に、鈴木美基さんの茶碗を注文してしまっていたので、「遅かりし蔵之介」です。店主は、最初、小橋さんのことを「41歳ぐらいです」と説明しておりましたが、私が後で調べたら、1977年生まれ、ということで、それなら43歳です。えっ!? もし、その場で分かっていたら、「ご自分の弟さんなのに、年齢も知らないんですか?」と、突っ込みを入れていたことでしょう(笑)。

お茶だけでなくビールや焼酎も呑めるとは!

◇茶碗で酒でも呑むかあ

 ということで、鈴木美基氏の湯呑茶碗は、これからも長く愛用していくつもりです。何と言っても、おまけの「収穫」は、この茶碗で、お茶だけでなく、ビールが飲めたり、焼酎のお湯割りなんかも呑めたりできるという話を聞いたことでした。

 「使えば使うほど、味が出てきますよ」と店主さん。こりゃあ、いい。愉しみが一つ増えました。