1%の富裕層のための新自由主義=ナオミ・クライン「ショック・ドクトリン」を「100分de名著」が取り上げています

 目下、NHKのEテレで放送中の「100分de名著」の第130回「『ショック・ドクトリン』ナオミ・クライン」は頗る面白いので、皆さんと共有したいと思いました。6月12日(月)に第2回が放送されますが、同日に第1回の再放送もあり、見逃した方は、最初から見ることが出来ます。

 実は、私自身はこの名著を読んだことがなかったので、全く期待していなかったのですが、何となく見始めたら、すっかりハマってしまったのです。

 「ショック・ドクトリン」はユダヤ系カナダ人のジャーナリスト、ナオミ・クラインが2007年9月に発表したノンフィクションです。一言でいえば、シカゴ大学の教授でユダヤ系経済学者のミルトン・フリードマンが提唱した「新自由主義」に対するアンチテーゼで、彼女はフリードマンの経済政策を「惨事便乗型資本主義」と批判しているのです。

 番組の解説者として出演しているジャーナリストの堤未果氏によると、ショック・ドクトリンのショックとは、戦争やパンデミック、自然災害、テロといったことを指し、大衆がこのようなショックで正常な判断を失っている間隙を縫って、新自由主義者たちが次々と表向きは都合の良いように見せかけながら、自分たちだけが利益になるような政策を誘導していくことだといいます。一言でいえば、「火事場泥棒」ということで、実に分かりやすい表現だと思いました。

 新自由主義たちが為政者たちに「市場原理こそ全てだ」と言いくるめて、まずは①「規制緩和」に誘導させ、続いて、公共事業を次々と②「民営化」させる。最終的には③「社会福祉の制限」が目的となります。当然、貧富の格差は拡大しますね。堤氏によると、民間企業なら利潤があげられなければ、簡単に逃げられるが、公共団体は、綻びが出たからといって撤退できないといいます。つまり、例えば、2007年に財政破綻した北海道の夕張市は、撤退することが出来ず、国の管理下で借金を返済し、結果的に若者が離散して超高齢化と人口減少という現実があります。そうかと言えば、ハゲタカのようなファンドが、企業を乗っ取り、甘い蜜を吸いつくしてから、高額な金額で転売して逃げ去る構図と似ています。

 私は昔から、誰が世の中を動かしていて、誰が額に汗水たらさずに儲けて楽をしているのか、といった「世の中のからくり」について興味があり、ずっと知りたかったので、この本には目を見開かせられます。

 「ショック・ドクトリン」では、1973年、米CIAの工作員の力を借りてアジェンデ社会主義政権をクーデターで倒したチリのピノチェト将軍による独裁を振り返っています。ピノチェトは、1万3500人の市民を拘束し、数千人に拷問をかけて「ショック」を与え、1950代にシカゴ大学に留学してフリードマンから薫陶を受けた「シカゴ・ボーイズ」と呼ばれた経済学者らに経済政策の指揮を執らせ、国営企業を次々と民営化して外国企業=つまりは米国=を参入させます。その結果、1974年のチリのインフレ率は375%に上り、パンの価格が高騰し、安い輸入品のお蔭で国内の企業が低迷し、失業率も増大します。

 その一方で、富裕層の収入は、アジェンデ政権時と比べて83%も増大したというのです。

 このほか、「英国病」と呼ばれて景気低迷していた1980年代の英国。サッチャー政権も支持率が25%と低迷していましたが、サッチャー首相は、フォークランド紛争という「ショック」を利用して、事業を民営化して景気回復を図り、支持率を59%に伸ばしたといいます。その一方、富裕層に対しては優遇政策を取ったといいますから、フリードマン流の新自由主義です。

 番組では、堤氏は「日本にもシカゴ・ボーイズ(フリードマンの影響を受けた経済学者や政治家)はいます」とキッパリ言ってましたが、具体的にどなたなのかは口を噤んで、言いませんでした。ズルいですねえ。まあ、誰かは想像はつきますが(笑)。

 でも、穿った言い方をすれば、政治の世界は「善か悪」とか「正しいか、間違っているのか」の世界ではなく、結局は、「強いか、弱いか」の世界です。民主主義なら、数が多いか、少ないかの世界です。権力を握った者=恐らく富裕層=が好き勝手な政策をできるわけです。

 だって、フリードマンの新自由主義は、1%の富裕層にとっては、救世主のような正しい善の政策になるわけですからね。

 思えば、日本人は、自分が貧困層だという自覚が全くないから、多くの人が富裕層を優遇する政党に投票しているわけで、勉強が足りないといいますか、自業自得になっているわけですよ。

便利さと引き換えに個人財産を搾取される実態=堤未果著「デジタル・ファシズム」

 堤未果著「デジタル・ファシズム」(NHK出版新書、2021年8月30日初版、968円)を読了しました。読後感は、爽快感からほど遠く、恐怖にさえ駆られてしまいました。

 それでも、この本は現代人の必読書でしょう。私ごとき凡夫が「是非とも読むべきですよ」と主張しても、まあ、ほとんどの方は読むことはないでしょう。その方が、為政者にとっても、政商にとっても、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)と呼ばれる米中のIT巨大企業にとっても好都合だからです。

 無知な人間は、せいぜい個人情報を搾取して利潤しか追求しないこれらIT企業の策略にはまって、身ぐるみ剥がされればいいだけの話です。でも、そんな無知は罪ですよ。

 そんなことを言っている私自身も無知な人間でした。ここに書かれていることのほとんど知りませんでした。唖然とするばかりです。

 例えば、コロナ禍で自宅でのリモート勤務やセミナーのオンライン開催が多くなりましたが、その際、流行のように使われたのが、ZOOMです。このZOOMは、カナダのトロント大学グローバルセキュリティ研究所の実証検査によって、会議の暗号化キーが中国の北京のサーバーを経由していたことが分かったといいます。

 そこで、同研究所は、このようなセキュリティ上の問題があるため、現時点では以下のような強力なプライバシー保護及び機密性を必要とする場合、ZOOM使用は推奨しないと警鐘を鳴らしています。それは

1,スパイ活動を懸念する政府関係者

2,サイバー犯罪や産業スパイを懸念する企業

3、機密性の高いテーマに取り組む活動家、弁護士、ジャーナリスト

以下略

 この箇所を読んで、私なんかぶっ魂げてしまいました。例えば、現在、インテリジェンス研究所が、機密性の異常に高い「諜報研究会」を毎月開催されておりますが、コロナ禍のため、ZOOMによるオンライン会議となってます。大丈夫かなあ~と心配してしまいました。

福島県 裏磐梯・曽原湖

 広告・コンサル業界世界最大の米アクセンチュアが推進しているデジタル構想にスマートシティというものがあります。これは、交通、ビジネス、エネルギー、オフィス、医療、行政などの様々な都市機能をデジタル化した街のことで、無人スーパー、無人銀行、無人行政など便利さの面で申し分ありません。現在、福島県の会津若松市がモデル都市と選ばれて、実証実験されているといいます。(他に、私もお世話になった北海道の更別村、仙台市、前橋市、浜松市、河内長野市、高松市、北九州市などがスーパーシティに応募しています)

 ただし、スマートシティには便利さと引き換えに落とし穴もあり、著者はその一つとして、個人情報の扱いが緩くなる難点を挙げています。それに、ジョージ・オーウェルの「1984」のような息苦しい監視社会になる懸念は払しょくできないことは確かです。

 日本でその音頭を取っている、というか、お先棒をかついでいるのが「スーパーシティ構想の有識者懇談会」の座長である竹中平蔵氏です。表の顔は慶応大学名誉教授のようですが、裏の顔は、人材派遣会社パソナの会長であり、オリックス、SBIホールディングスなどの社外取締役です。牽強付会、我田引水的手法で自分たちに都合の良いように法律を改正したり、為政者に働きかけたりする「政商」とも言われています。

 例えば、こんなことがあります。

 ソフトバンクとヤフーが設立したPayPayと提携し、NTTデータの決済システムCAFISを通さなくても住信SBIネット銀行から低コストで行える入金サービスを開始した人としてSBIホールディングスの北尾吉孝社長がおります。そのPayPayのようなノンバンクの決済業者が、既に確立された安全性に定評のある全国の銀行ネットに参入する道筋をつけたのが、同ホールディングス社外取締役の竹中平蔵氏である、と著者の堤未果氏は書いております。

 また、竹中平蔵氏が社外取締役を務めるオリックスもまた、自社が手掛けるPayPayを日本に導入する際の仲介ビジネスによって潤うだろう、とまで堤未果氏は特記しています。

 さらに、「LINE Pay」は韓国、アリババが大株主の「PayPay」は中国、「アマゾンペイ」は米国と、日本で使われている資金移動業者の多くが外国資本で、日本の法規制が及ぶとも限らず、そもそも、〇〇ペイには、万一不正使用された場合、「預金者保護法」のような共通のルールはない、とまでいうのです。

 この本の後半は教育ビジネスについて割かれていますが、他にもたくさん、「デジタル・ファシズム」による弊害が、これでもか、これでもかといった調子で描かれています。私が茲で書くより、直接本書を読むことをお薦めします。

 私の読後感は最初に書いた通りですが、我々、現代人は便利さと引き換えに、大切な個人財産と魂まで悪魔に売り渡してしまったような気がしました。

デジタル監視社会で窒息しそうだ=生かさぬように殺さぬように

 実に頭が痛い話です。

 サラリーマンには、年末に保険控除や家族・配偶者手当などを申請する「年末調整」というものがあります。それは、2枚ぐらいの紙で、既に色々と書かれている用紙に自分の名前や保険の種類などを書いて、領収書を添付すればそれで終わっていたのですが、今年から急に、何と、オンラインで一(いち)から申請せよ、との通達が舞い込んできたのです。

 会社のLANの通達文書には、そのマニュアルが50ページ近く添付されていて、若い人ならスラスラできるでしょうが、「えー、こんなもん出来るかあー」と叫びたくなりました。

 でも、よく考えてみると、年間給与、つまり年収を記入したり、家族構成を記入したりするわけですから、システム会社に情報が筒抜けです。

 これには怪しい伏線がありました。これまで、社内LANなり、社内メールなり、会社のシステム局が外部と委託したりして一応自前でやっておりました。それが、今年4月から急に、社内LANもメールも、それら全体を統括するシステムを米マイクロソフトに丸投げしてしまったのです。社員に対して経緯の説明は一切ないので詳細は分かりません。ただ、「システムを切り替えかえたので、新しい、ソフトにメールアドレスを移行してください」などといった指導があっただけでした。

 その裏に隠された重要性に気付いた社員はほとんどいませんでした。

 今読んでいる本は、実に憂鬱な話ばかりです。読んでいて嫌になります。

 堤未果著「デジタル・ファシズム」(NHK出版新書)です。いわゆるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)や中国のアリババやテンセントなどネット界の巨人によって、個人情報が思う存分に吸い取られて搾取される実態が赤裸々に描かれています。心ある人なら、必ず読むべきです。

 著者の堤氏に言わせれば、彼らのビジネスモデルは、インターネットという無法地帯の仮想空間で、人間の行動を監視し、収集し、データを変換して、加工した「未来の行動予測」を商品として市場で売ることで、国家をはるかに超える巨大権力を手にしている、というものです。

 この本では、その具体例がボカスカと列挙されています。日本の例については、回を改めていつか書いてみたと思いますが、本日は、外資に食われたフィリピンの例です。同国内の電力事業は2社の国営企業が完全に独占し、利益拡大のための経費削減と、競争の欠如からくる手抜き仕事でサービスは極めて劣悪だったいいます。そこで、ドゥテルテ大統領が奮起して、民間の電力会社を参入させ、お蔭でサービスが劇的に改善します。しかし、そこには落とし穴があって、その民間企業に「国家電網公司」という中国企業の資本が入っており、そのうち、この中国企業が電力会社の株を買い占め、幹部をフィリピン人から中国人に替え、同時に扱う部品も中国製を増やしていきます。そして、気が付いたら、フィリピンの送電網を動かすサーバー設備が中国の南京市に移されていたというのです。

 となると、どうなるのか。もはや何があってもフィリピンは中国に逆らえないことになることは誰でも想像できます。(堤氏は書いていませんが、ドゥテルテ大統領の祖父は中国出身の華僑ということで、もともと中国寄りの人物と言われていますから、こうなることは予想していたのではないかと思われます)

 ◇トロント市はITガリバーを追い出す

 その全く逆に、ネットのガリバー企業を追い出した市の例も出てきます。グルメ王の辻下氏もお住まいのカナダのトロント市です。同市は2017年、グーグル系列のIT企業にデジタル都市建設を発注します。当初は「夢の未来都市」「住民目線のニーズに応えた新しいライフスタイル」といった甘い言葉に魅惑されていた市民も、次第にその「負」の部分に気付き始めます。市内中にセンサーが張り巡らされ、住民の行動を逐一、スマホから追跡し、収集した膨大なデータは「参考資料」としてグーグルの姉妹会社に送られる…ある市民が何月何日何時何分にどんなゴミを捨て、誰と会って、どこで何を食べ、飲んだか、そういった情報まで調べられていたというのです。

 これには市民たちの不満は日増しに募り、猛反発の運動が起こり、2020年5月、ついにグーグルの系列会社はトロント市からの撤退と計画中止に追い込まれたというのです。

 まさにデジタル監視社会の最たるものです。こんな社会では、窒素しそうで、生きている心地すらしません。

 そんな恐ろしい監視社会が日本でも進行中です。しかも、デジタル庁なぞは名ばかりで、米国のGAFAにほぼ丸投げ状態だというのに、優しい、政治に無頓着な日本人たちの個人情報はダダ洩れで、悪魔たちに付け入る隙ばかり与えております。

 庶民ができるささやかな抵抗は、せめて、グーグルで検索せず、Gメールは使わず、iPhoneもやめ、勿論、フェイスブックも辞め、アマゾンで買い物はしないことです。でも、禁断の蜜の味を知った日本人にそんなことできますか?

  私は、手始めにスマホの「位置情報」を切断することにしました。便利さの代償があまりにも大きいことをこの本で気付かされたからです。