「天才と発達障害」との関係

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 たまたま本屋さんで見つけた岩波明著「天才と発達障害」(文春新書)を読了しました。最近、自宅近くの本屋さんがつぶれまくって、このようなセレンディピティ(素晴らしい偶然の発見)に出会う機会も少なくなってきているのが残念です。

 著者は、東大医学部を卒業した発達障害が専門の精神科医です。本書では、古今東西、世に天才と呼ばれた人たちを取り上げ、「彼らは、実はADHD(注意欠如多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム障害)の特徴を示していた」などと、書かれた作品や周囲が残した証言などから、何でも天才と発達障害を結び付けている感がありましたが、実際に、臨床実験などでも証明されているようです。

例えば、作家には、うつ病や躁うつ病など精神疾患に罹っている人が多いという記述があり、そう言えば夏目漱石も芥川龍之介も太宰治も北杜夫らもそうでしたね。

 作家や芸術家や天才には精神疾患が多いとはいえ、その逆も然り、とはいきませんが、ASDと呼ばれた人の中には、全国の鉄道路線と駅名を全て暗記してしまう人もいます。普通の人とは集中力と根気力が違うのでしょう。

引退した野球のイチローも天才と言われましたが、彼は常人ではとてもできない単調な素振りを毎日何百回も続け、毎日、同じカレーを食べ続けたりする「努力の天才」とも言えます。超人的能力は、やはりASDのような毎日反復しても飽きない格別な能力の賜物のような気がして来ます。

岡山城

 本書で取り上げられている古今東西の有名な天才として、賭博依存症だったモーツァルトやドストエフスキーのほか、今で言う発達障害の傾向があったダーウィンやアインシュタイン、ゴッホやウイットゲンシュタイン、野口英世、南方熊楠らの逸話を取り上げています。

 私は知らなかったのですが、作家のジェームズ・ジョイスやコナン・ドイル、英首相だったチャーチル、劇作家のテネシー・ウイリアムズ、女優のヴィヴィアン・リーまで発達障害や精神疾患を抱えていたんですね。

 類まれな文学的才能に恵まれ、ノーベル賞を受賞したアーネスト・ヘミングウエイは、若い頃は傲慢で周囲の人間は付き合いづらかったらしいですが、晩年はうつ病に悩まされ、創作力も落ちて、税金が支払えなくなるという不安に陥り、最期は猟銃自殺しています。精神疾患は家族性なもので、父親のクラレンスも、うつ病から拳銃自殺し、妹のアーシェラと弟のレスターも自殺したといます。しかも、ヘミングウエイの最初の妻ハドリーとの間の息子ジャックの娘、つまり孫に当たるマーゴも、モデル、女優として活躍しながら、発症して自殺し、ヘミングウエイの三男グレゴリーも精神疾患から変死したことなどもよく知られています。

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 東大医学部には天才の研究のための資料として、傑出した人の脳標本が保存されています。夏目漱石は聞いたことがありましたが、このほかに、中江兆民、内村鑑三、桂太郎、浜口雄幸らもあるそうです。

 天才とは全般的に学業成績が秀でているというのではなく、つまり、勉強ができるから天才だというわけではなく、一つのことでも根気よく集中することができて、普通の人ではとてもできないことを成し遂げる才能だと言えます。そして、周囲との協調性がなく、被害妄想から薬物依存症になるなど、凡人から見ると、どうも不幸な生涯を送ったようにも見えます。

 著者は「天才と呼ばれる人たちは扱いにくい人たちである。彼らは発達障害の特性を持つことが多く、人の話は聞かず、独断で物事を進めてしまう傾向が大きく、自分勝手で衝動的なことも多い」としながらも、「天才や異能を排除する社会は何よりも面白みのないものになってしまうに違いない」「天才を使いこなせない日本社会の現状を変えて行かなければいけない」などと主張しています。

 確かに同感ではありますが、正直、実生活では天才とはあまりお付き合いしたくないですね。でも、どういうわけか、私の友人の多くは、世間的に有名ではないかもしれませんが、天才肌が多いんです。私が言いたいこと分かりますよね?(笑)