魂が汚れました=石井妙子著「女帝 小池百合子」を読了して

 石井妙子著「女帝 小池百合子」(文藝春秋)を読み終わりましたが、やはり、当初から予感した通り、魂が汚れました。もし、この本に書かれていることが全て事実なら、「何故このようなあくどい詐欺師が世の中に存在し、いまだに最高権力者として胡坐をかいているのだろうか」と信じられないくらいです。

 何しろ「女帝 小池百合子」氏が再選した東京都知事の椅子は、人口約1300万人、都庁職員約3万8000人、警視庁や学校職員、消防士まで含めると16万人。年間予算は13兆円で、スウェーデンの国家予算に匹敵するという国家元首並みの権力なのですからね。

 確かに、著者も認めているように、学歴など政治家の実力とは関係ありません。しかし、出てもいないのに「カイロ大学首席卒業」でアラビア語はペラペラだと偽ったり、父親が政治好きの野心家で投機的な事業に失敗しては借金を踏み倒したりして家計は火の車だったにも関わらず、「裕福な芦屋のお嬢様」だったと振る舞ったり、乗る予定もなかった飛行機が二度も墜落し、自分は運が良い人間だとアピールしたり、とにかくあることないことを美談に仕立てたり…嗚呼、読んでいて途中で腹が立ってきました。

 このブログの11月19日の「生まれか、育ちか?=石井妙子著『女帝 小池百合子』を読んで」という記事の中で「多少、露悪趣味的なところがあり、いくら公人とはいえ、ほんの少しだけ小池氏が可哀想でもあり…」と書きましたが、訂正します。もうこの人には全く同情しませんよ。

備前焼 ぐい吞み(紀文春作)工房:岡山県和気町

 昭和平成の裏面史を語る上で欠かせない政界と裏社会に通じた「武闘派」とも呼ばれる、あの著名なナミレイ社長の朝堂院大覚(松浦良右)氏でさえ、小池一族、特に小池百合子氏の父勇二郎氏に振り回された一人で、著者の取材にこんなことまで答えています。

 「(勇二郎氏は)とにかく大風呂敷で平気で嘘をつく。ワシの前でもや。嘘をつくなと怒って、ポカっと殴ってやっても、ケタケタ笑っておる。…恥という感覚がないから突進していく。無茶苦茶な行動力はあるんや。でも、だからといって何ができるかというたら何もできない。法螺を吹いているだけや」

 ちなみに、勇二郎氏がカイロに日本料理店「なにわ」を出店した際、資金的に面倒を見たのがこの朝堂院氏でした。

 小池百合子氏が、「アラブ通」を看板に、「女の武器」でミニスカートをはいてキャスターに抜擢され、政界進出の際は、時の有力政治家だった細川護熙、小沢一郎、小泉純一郎各氏らを踏み台にしてのし上がっていく様は同時代人として見てきたというのに、彼女の裏の顔を知らず、みーんな騙されてきたんだなあ、と腸が煮えくりかえりそうでした。

 その点、著者が声を大にして批判するように、テレビや大新聞など彼女の虚像を作り上げたマスコミの責任は本当に大きいと思いました。小池百合子氏がカイロ遊学時代に同居した早川玲子さん(仮名)が命懸けで真実を告白したというのに、大手マスコミはほとんど取り上げず、裏を取ろうとさえしませんでした。

 3年半掛けてこの本を取材執筆した著者の力量に感服しつつ、見てはいけない嫌なものを見てしまった感じで、本当に魂が汚れました。

 追記ながら、小池百合子氏は、著者の取材依頼には一切応じず、本出版後も事実無根の名誉棄損で訴えていないようです。

 

生まれか、育ちか?=石井妙子著「女帝 小池百合子」を読んで

 「電車内無差別放火殺人未遂事件」「投資詐欺事件」等々、昨今跋扈する事件のニュースに接すると、世の中には、「罪悪感がない人」「自責の念に駆られない人」「良心の呵責がない人」が確実に存在することが分かります。それは、脳の仕組みから来るのか、DNAから来るのか、突然変異なのか、育った環境がそうさせるのか(nature or nurture)、よく分かりませんが、こういった悪質な事件が世に絶えないという事実が、そういった人が存在するということを証明してくれます。

 「平気で嘘をつく人」も、大事件を起こす人と比べればかわいいものかもしれませんが、その人が異様な権力志向の持ち主で、目的を達成するために手段を選ばないタイプの人であれば、多くの人に甚大な影響を与えます。

 今読んでいる石井妙子著「女帝 小池百合子」(文藝春秋)は、2020年5月30日初版ということですから、1年半も待ったことになります。「待った」ということは、そういうことです(笑)。著者の石井氏は、彼女のデビュー作「おそめ」を読んでますし、大宅壮一賞を受賞するなど大変力量のあるノンフィクション作家であることは認めており、一刻も早く読みたかったのですが、どうもこの本だけは「所有」したくなかったのです。

 個人的感慨ではありますが、何となく魂が汚れる気がしたからでした。

 まだ読み始めたばかりですが、私の予感は当たっていました。主人公は、個人的にはとても好きになれない、近づきたくもない、平気で嘘をつく人でした。

 例えば、2016年の東京都知事選で、ライバル候補の鳥越俊太郎氏について、彼女が「鳥越氏は(がんの手術をした)病み上がり」と選挙運動中に中傷した場面が何度も何度もテレビに流れます。両者は、「テレビ対決」となり、鳥越氏は、小池氏に「あなたは私のことを『病み上がり』と言ったでしょ」と非難すると、彼女は「私、そんなこと言ってません」と堂々と否定したというのです。

 小池百合子氏が公職に立候補するたびに「学歴詐称」問題が浮上していた「カイロ大学 首席卒業」の経歴についても、アラビア語の口語もできない彼女が、現地人でさえ難解の文語までマスターしてわずか4年で卒業できるのは奇跡に近い、と証言する人が多いのです。例えば、日本人で初めてカイロ大学を卒業した小笠原良治大東文化大学名誉教授は、群を抜く語学力で一心不乱に勉強したにも関わらず留年を繰り返し、卒業するまで7年かかったといいます。カイロ留学時に部屋をシェアしていた同居女性早川玲子さん(仮名)も「カイロ大学は1976年の進級試験に合格できず、従って卒業していません」と明言しても、小池氏はテレビカメラの前で、自信たっぷりに「卒業証書」なるものをチラッと見せて、もう漫画の世界です。(嘘か誠か、カイロ市内では偽の大学卒業証明書はよく売られているとか)

銀座「ルーツトーキョー」大分黒和牛ステーキ定食(珈琲付)1500円

 でも、「この親にしてこの子」(またはその逆)とよく言いますから、小池百合子氏より、その父勇二郎氏の方が遥かに破天荒かもしれません。政治家や有力者に近づいて、よく分からない事業を始めて失敗したり、突然、昭和43年に参院選に立候補して落選したり(この時、選挙戦を手伝ったのが、後に自民党衆院議員になる鴻池祥肇氏だったり、後に東京都副知事に上り詰める浜渦武生氏だったりしていたとは!)、日本アラブ協会に入会して、直接アラブ諸国から石油を輸入しようと図ったり、(これがきっかけで、エジプトの高官に自分を売り込み、娘のエジプトとの関係につながっていく)、大言壮語で、平気で嘘をついて、借金を返さなかったり…、いやはや、とてつもない香具師と言ってもおかしくはない人物だったからです。

 超富裕層が住む芦屋のお嬢様を「売り」にしていた小池氏の住んでいたかつての自宅を著者が訪れると、正確にはそこは「芦屋」ではなかったことも書かれています。(マスコミが彼女の虚像を流布した責任が大きいと著者は批判しています)大した家産もないのに見栄をはることだけは人一倍大きかった小池家でした。雑誌等に載った学生時代の同級生らの談話を集めたり、周囲に取材したりして、その「実体」を暴く手腕は、著者の石井氏の真骨頂です。でも、多少、露悪趣味的なところがあり、いくら公人とはいえ、ほんの少しだけ小池氏が可哀想でもあり、見てはいけないものまで見てしまった感じで、最後まで読破することが何となく苦痛です。

 ここまで暴かれてしまえば、普通の人ならとても生きていけないのですが、小池氏はこの本をわざと読まないのか、読んでも全く気にしないのか(「嘘も百回言えば真実になる」と言ったナチスの宣伝相ゲッペルスの名言が思い浮かびます)、その後、一向に不明を恥じて公職を辞任しようとした試しは一度もありませんでした。

 人としての品性や品格が凡人とは全く違うことを再認識せざるを得ませんが、どうして、このような人間が生まれて育ってしまうのか、といったその由来、経歴、因果関係は、この本を読むとよーく分かります。今さらながらですが、大変な力作です。

東京アラートを発しないのは小池知事の選挙対策か?

 東京・銀座 朝日稲荷神社

  新型コロナの感染者は、首都東京ではここ数日50人超と、なかなか減りませんね。「東京アラート」(6月2~11日)が発令された頃は、30人前後でしたから、本来なら再びアラートを発しなければならないのですが、再選を狙う小池百合子知事はその素振りも見せません。

 選挙対策なんでしょうか?

  しかも、アラートを発する感染者数は基準を超えているというのに、その基準は見直して、「新指標」として、今度は病床数の「余裕の数」で判断しようとしてます。為政者たちに都合の良いように勝手にルールを変更しているようにみえます。(6月29日現在の入院者数は1000床の病床数に対して272人、重症者は100床に対して12人)

 選挙対策なんでしょうか?

 いや、台所事情もあるようです。東京都は4月15日に新型コロナウイルス対策に伴う補正予算案として東日本大震災やリーマン・ショックを大きく上回る総額8000億円を超える規模を組みましたが、どうやら、再び、店舗に自粛要請して、休業補償給付をしようものなら、枯渇しそうだという話です。東京都の予算は、スウェーデンの国家予算に匹敵するらしいですが、まあ、どこの国でも事情は同じです。

 ですから、為政者は、どうも「自粛、自粛」と言いにくくなり、今度は「自衛しろ」という始末。「感染したらあんたらの責任ですよ」と言わんばかりです。識者の中には「行政放棄だ」と批判する人もいますが、見方を変えれば、「当局による監視態勢が緩和された」と言えなくもないですね(笑)。

 昨日は、東京だけでなく、首都圏のさいたま市や宇都宮市内のキャバクラ、ホストクラブで集団感染が発生し、ニュースを見ていたら、栃木県知事が「県外から来た人でした」と、ウイルスを持ち込んだ人が県外の人だったことを明らかにしていました。まあ、それは事実のようですが、そこまで強調しますかね?また、埼玉県知事は、緊急記者会見し、「東京での会食は控えるよう」アラートまで発令していました。これでは、ますます、藩閥政治が復活したみたいにみえます。しかし、「自分の藩だけ、感染者を出さなければいい」という話でもないでしょう。

 恐らく、コロナとの付き合いは長期戦になることでしょう。私自身も、7月になれば、「県外から」東京にまで出てきて、夜の街に繰り出そうかと思っていましたが、感染者が減らない状況で躊躇しています。まさか、マスクをしながら呑むわけにはいかないでしょう(笑)。

 いずれにせよ、為政者や他人に丸投げすることなく、自分で考えて覚悟するか、もしくは楽観主義で自分自身を洗脳してから、繰り出すつもりです。