国粋主義的、超国家主義の臭い=北京冬季五輪の真っ最中に考える

 目下、北京で冬季五輪が開催されていますが、テレビだけが雄叫びをあげているだけで、あまり盛り上がっていませんね。※個人の感想です。

 北京冬季五輪は、スポーツの祭典というより、すっかり国際政治の駆け引きの場と化してしまいました。ヒーローは金メダルを獲ったアスリートではなく、政治家です。

 その最たる御仁が、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(68)です。彼は「ぼったくり男爵」の異名を持ちますが、元五輪選手というより政治家です。冬季五輪の競技でもないテニスの彭帥選手とわざわざテレビ電話で会談したり、直接会食したりして、疑惑の火消し役を務めた功績で、北京市中心部の公園に、何んとも立派な銅像が建てられました。汚職疑惑などで悪名高かったIOC元会長のサマランチさんは歴史に残る凄い人でしたが、バッハさんはそのサマランチさんを超えた感じです。

 彭帥選手の疑惑というのは、中国の元副首相(最高指導部・党中央政治局常務委員)張高麗さん(75)から性的関係を迫られたというものでしたが、その後、本人も曖昧にしたりして、何もなかったことになりました。

 疑惑といえば、新疆ウイグル自治区で虐待や人権侵害が叫ばれ、西側諸国による「外交ボイコット」まで発展しましたが、中国最高指導部(チャイナ・セブン)に言わせれば、「そういう事実はない」の一点張り。どうでもいい話かもしれませんが、そう断言する中国外交部報道局の趙立堅副局長(49)は、いつもテレビカメラを睨みつけ、怖い顔をしていますね。これも※個人の感想です。

 それでいて、中国国内の街の至る所で、無数の監視カメラが張り巡らされたおかげで、交通違反や犯罪まで減少し、すっかり治安が良くなったようです。無暗にクラクションを鳴らしただけでも交通違反となり、監視カメラとAIによってドライバーが特定され、反則金と顔写真まで電光掲示板で晒されるということで、北京市内もすっかり静かになったといいます。

 天才作家「1984」のジョージ・オーウェルでさえ、ここまで「予言」できなかったことでしょう。

例の往復はがきで応募した「ドナルド・キーン文学散歩」は「落選」してしまいました。ずわんねん。

 何と言っても、オリンピックは「国威発揚」の場ですから、世界経済大国第二位になった中国も自信満々です。それと並行するかのように、中国の若い人の間で「漢服」のファッションが流行っているそうです。漢服とは、漢民族の伝統的な服装のことです。私は誤解しておりましたが、中国の伝統的衣装といえば、チャイナドレスだと思っていましたが、あれは清帝国を成立させた満洲の女真族の伝統衣装だったんですね。日本の和服も漢服の影響を受けているという説もあります。

 私が学生だっ1970年代は、中国からの留学生は皆、「人民服」を着ていたものでした。今はすっかり様変わりして漢服の流行で、怖いもの知らずの副局長を筆頭に、中国は自信で漲っています。

 まあ、異国の話ですから、「お好きなようにしてください」ですが、何処か排外主義的、国粋主義的、超国家主義の臭いをうっすらと感じるような感じないようなそんな気がします。(断言できないのは、異国からの検閲を極度に恐れているからでした。)

「新疆ウイグル自治区の現代史」と「感染症と情報と危機管理」=インテリジェンス研究所主催「諜報研究会」を初めてZoom聴講

Tokyo landscape Copyright par Duc de Matsuoqua

◇「Zoom会議」初体験

 土曜日、生まれて初めて「Zoom会議」なるものに参加しました。インテリジェンス研究所(山本武利理事長)主催の「第33回 諜報研究会」の講演です。

 参加、とは言っても、聴講といいますか、舞台のそでからそっと覗き見するような感じでしたが…。でも、割合簡単に聴講できました。iPadにZoomのアプリをダウンロードし、主催者から送られてきたメールの「ミーティングに参加する」というタッグをクリックしただけで、簡単に繋がりました。

 新型コロナの影響で、同研究所の講演会はもう一年近くZoomで開催されていましたが、私の場合、長時間に耐える家のWi-Fi環境が整っていなかったため、見合わせておりました。今回参加できたのは、携帯スマホを楽天モバイルに換え、これは無制限にデータが使えてテザリングを利用すれば、パソコンなどに繋がることも分かり、早速試してみたのでした。

 今時の大学生は、ほとんどこうしたオンライン授業が主流になった、と聞いてますが、やはり、講義は「生の舞台」には劣りますね。ま、言ってみれば、歌舞伎の舞台中継をテレビで見ているようなものです。

◇複雑な新疆ウイグル自治区の成立

 肝心の講演ですが、お二人の講師が登壇しました。最初は、東大先端科学技術研究センターの田中周(あまね)特任研究員による「新疆における中国共産党の国家建設:1949-1954年の軍事的側面を中心に」で、もう一人は、加藤哲郎一橋大学名誉教授で、「パンデミックとインテリジェンス」のタイトルで、実に複雑な奥深い、そして何よりも大変難解な講義をされておりました。

 最初の田中氏の新疆ウイグル自治区の「歴史」は、全く知らないことばかりでした。新疆ウイグル自治区といえば、イスラム教のウイグル族が住む地区で、最近では、米トランプ政権のポンペオ国務長官が「中国政府はウイグル族に対してジェノサイド(集団虐殺)を犯している」と非難し、次のバイデン政権のブリンケン国務長官も同意を表明して、俄然、世界的にも注目されていることは皆様ご案内の通り。

 田中氏の講演は、1949年~54年の中国共産党政権による”新疆併合””の話が中心で、そこに、ソ連スターリンの意向や、毛沢東や周恩来は新疆を早く「併合」したくても、他の地域との戦闘などでなかなか進出できなかった(毛沢東の実弟毛沢民は、新疆のウルムチで暗殺された)ことや、新疆地区内部にも共産党派と反共派と国民党派などが複雑に絡み合っていたことなどを初めて知りました。

 確か、中国には56の民族があり、宗教も違えば文化も言語も違います。広大な面積の全土を「統一」することは至難の業です。中国共産党が新疆ウイグル自治区を何よりも欲しかったのは、同地区には「白と黒」の経済の要(かなめ)があったという話が一番興味深かったでした。白とは綿花で、黒とは石油のことです。

◇核実験の場になった新疆

 そして、何よりも、ある参加者が「質問コーナー」で指摘されておりましたが、1960年の中ソ対立をきっかけに、中国共産党は核武装に踏み切り、その核実験を行ったのが、この新疆ウイグル自治区だったというのです。その質問者の方々らは、2011年の東日本大震災と福島原発事故の後、密かに放射能測定器を持参してこの地区に入ったところ、いまだに福島のホットスポットより高い放射能の測定反応があったという話には驚いてしまいました。

◇旧内務省官僚の復活

 続く、加藤一橋大名誉教授による「パンデミックとインテリジェンス」は、映画「スパイの妻」や731石井細菌部隊の話あり、スパイ・ゾルゲ事件の話あり、太田耐造ら「思想検察」を中心にした戦時治安維持の話あり、戦後も、旧内務省官僚の復活と再編を目論むような危機管理と国家安全保障体制の話(今、菅首相と最も頻繁に面会しているのは警察官僚出身の北村滋・内閣情報官=1956年12月生まれ、東大法学部卒、1980年警察庁入庁=であること)などあり、あまりにも複雑多岐に渡り、勿論、いずれも共通の「糸」で繋がりますが、ちょっと一言でまとめるには私の能力の限界を越えておりました。

◇世界でも遅れている日本の感染症対策

 ただ、一つ、特筆したいことは、今の新型コロナウイルス感染症対策の専門家会議の主要メンバーは、国立感染症研究所(⇦伝染病研究所)、医療センター(⇐陸軍病院)、慈恵医大(⇦海軍病院)関係者らが含まれているとはいえ、感染症研究については、日本は戦後、がん研究やゲノム分析の方に人材や資源を投入したため、大幅に予算も削減され、先端研究の面で大きく世界から取り残されてしまったという事実です。

 ですから、日本先導のワクチン開発がなかなか進まなかったという指摘には大いにうなずかされました。