安保ただ乗り論は本当なのか?

  トランプ米大統領が日米安全保障条約の破棄を何度も示唆しているので、日本政府関係者は慌てふためいているかと思えば、極めて冷静です。「大統領選のキャンペーンのためのポーズ」と忖度しているようです。

 FOXビジネスニュースの電話インタビューで、トランプ大統領は「日本が攻撃された時、アメリカは第3次世界大戦を戦い、猛烈な犠牲を払うことになるが、アメリカが攻撃されて救援が必要なとき、日本はソニーのテレビで見物するだけだ」と、本人の持論である日本の「安保ただ乗り」を展開しています。イマドキ、家電界が韓国、台湾、中国製に席捲された日本で、ソニーのテレビを見ている日本人は少ないでしょうけど。

 それにしても、本当に日本は、米軍の「核の傘」の下で、安穏と、ただ乗りしているんでしょうか?

 調べてみると、日本政府が2018年度予算に計上した「在日米軍関係経費」は4年連続過去最大の8022億円。日本に駐留する米軍兵士・軍属は約6万1300人で1人当たりの経費は約1300万円だったということが分かりました。その内訳はー。

▼「米軍再編関係経費」2161億円

▼「沖縄に関する特別行動委員会関係経費」51億円

▼「在日米軍駐留経費」(いわゆる「思いやり予算」)1968億円

▼基地周辺対策費、米軍用地借り上げ料、漁業補償費、提供普通財産(国有地)借り上げ試算など3842億円

合計=8022億円

 この金額で、台頭する周辺覇権国に対する防衛費が賄えれば安いもんじゃないか、と言う人もいるかもしれません。でも、このとてつもない金額は、政治家が払うのではなく、日本人の庶民の血税から支払われていることを忘れてはいけませんね。

 そして、トランプさんが主張するような「ただ乗り」どころではない金額であることは誰でも分かります。それに加えて、金額に表れない騒音問題や日米地位協定による領空権、領海支配や治外法権などもあります。

 何よりも、2004年とちょっと古いですが、米国防総省が発表した米軍駐留各国の経費負担割合です。日本は74.5%と最大で突出しています。韓国は40%、ドイツは32.6%ですからね。

 同じ第2次世界大戦の敗戦国である日本が米軍駐留費の4分の3近くも負担しているのに、ドイツはわずか3割ちょっとで済んでしまっていますからね。同じ敗戦占領国でも、ドイツ人は、トランプさんの祖先を遡れば行き着くらしく、日本人は単なる黄色人種だから、見下されているようにみえます。

 トランプさんは米国の最高権力者ですから、このデータを知らないわけがありません。それどころか、「日本は米軍駐留費の100%負担しろ」と発言もしていますから、あまり人が良い人には見えませんね。

 そもそも、日本人は米国人に対して、一方的に甘い期待ばかり寄せているんじゃないでしょうか。

 敗戦国日本は、戦後復興のために、米国からガリオア資金(占領地域統治救済資金)とエロア資金(占領地域経済復興資金 )などによって救済されました。ということを歴史の教科書で習いました。そのお蔭で、われわれ戦後間もない日本人の子どもたちは、給食の脱脂粉乳で育ち、飢えを免れました。

 戦後教育によって、米国は「白衣の天使」のような存在と崇められましたが、ガリオア資金などは無償貸与ではなく、後から返還要求され、1972年までに完済したというではありませんか。また、脱脂粉乳は、豚のえさにもならず、余っていたので日本に輸出したらしく、この話は真実かどうか別にしてひどく驚いたものです。

 このように、安保条約は敗戦国日本にとっては不平等条約です。ですから、戦勝国が一方的に破棄するわけがありません。こんなことを書いても、なあんの足しにもなりませんが、大手メディアが報道してくれないもので…。

トランプ大統領が可視化した米国の日本占領体制

クロード・モネのジヴェルニーの庭 ©️Hina

◇神保太郎氏のメディア批評

社友の真山君から読むように勧められた今月発売の「世界」(岩波書店)2018年1月号の中の神保太郎著「メディア批評」(2)上すべりするトランプ来日報道―は実に面白かったです。

この神保太郎という人は、筆名で、大手新聞社に勤務するジャーナリストらしいのですが、どなたか不明です。月刊「文藝春秋」の名物政治コラムの赤坂太郎と同じように複数のジャーナリストの代表筆名の可能性もあります。

この神保太郎をネットで検索すると、「メディアの内部にいる人間が匿名でメディアを批判するとは如何なものか」と批判する地方新聞記者の方がおりまして、こんな批判をする当人が、面白いことに、どう画策したのか、今年4月から有名大学の教授になった、と自分のブログに誇らしげに書いてありました。

イタリア・ヴェローナ

さて、神保太郎氏は、11月に来日したトランプ米大統領の日本のメディアの報道の仕方を大批判されております。

安倍首相と一緒に、やれ、霞ケ関カンツリー倶楽部でゴルフをしただの、銀座の高級鉄板焼き屋でステーキを食べただのといった報道ばかりで、肝心要のことが抜けているというのです。

でも、ま、神保先生、それこそが覗き見主義のジャーナリズムの本領を発揮した最たるものじゃないでしょうか(笑)。概して、ジャーナリズムは他人の不幸やスキャンダルや戦争(の脅威)で飯を喰っていることはなきにしもあらずですからね。

◇治外法権を飛び歩いたトランプ大統領

本題に入りますと、トランプ大統領の来日は、戦後、日本が独立を回復してから、歴代大統領がやったことがない空前絶後のやり方だったというのです。

まず、米国から大統領専用機で日本の法律が及ばない、つまり治外法権の軍事基地(東京・福生市の横田基地)から入国し、ここから埼玉県の霞ケ関カンツリー倶楽部に飛びます。ゴルフをした後、ここからヘリコプターで六本木ヘリポートに降り立ち、東京都心の地に足を踏みます。この六本木ヘリポートも日本の法律が及ばない米軍施設で、国会や首相官邸は目と鼻の先にあるのです。

ノンフィクション作家の矢部宏治氏によると、これらの飛行経路である「横田空域」は、日米安保条約に基づいた米国支配の象徴とみなされてきたといいます。つまり、首都圏上空に設定されている米軍専用の空域で、日航や全日空さえ(我が国なのに)米軍の許可がないと飛行できないというのです。

永田町には「日本に反米政権ができたら、米国から刺客がやって来て、横田基地からヘリで六本木に飛び、ひと仕事終えたら横田から出ていく。行動の足はつかないので日本の警察は何もできない」という冗談があるんだそうですね。

初めて聞きましたが、おっとろしいブラックジョークです。

◇いまだに米軍占領下の日本?

こんな事実を大手メディアは、新聞もテレビもどこも、あまり報道しなかったのに、「週刊新潮」11月7日号が、「安倍総理はトランプ父娘の靴を舐めたか」の特集の中で、「戦後72年経てなお、我が国が事実上の『51番目の州』であることがそこに存在した」などと報じています。

つまり、今回のトランプ大統領の来日行為は、いまだ日本は米国の支配下、占領下にあることを白日の下に晒し、「可視化」したと言ってもいいのかもしれませんね。