🎬「孤狼の血 level 2」は★★★

 コロナ感染拡大が止まらず、過去最多(昨日20日は、全国で2万2586人)を更新しているというのに、久しぶりに映画を観に行って来ました。特に観たい映画があったわけではありませんでしたが、夏休みなので、現実離れした明るく元気になれるような映画が見たいと思いつつ、結局観たのはヤクザ映画でした(苦笑)。

「孤狼の血 level 2」(1974年生まれの白石和彌監督作品)です。3年前の役所広司主演の「孤狼の血」を観てしまったので、その続きのつもりで観てしまいました。宣伝費も製作費と同じぐらいかけているようです。新聞で全面広告を打っておりました。(これは、ある映画関係者から聞いた話です)

 前作から3年後の平成〇年。広島の裏社会が舞台で、伝説の刑事・大上(役所広司)亡き後、その遺志を継いで、若き刑事・日岡(松坂桃李、1988年生まれ)が今度は主人公となります。前作では、日岡は、大上の後をついて失敗ばかりしていた新米刑事でしたが、今では、大上に代わって、警察権力を使って、暴力組織 を取り仕切り、ベンツを乗り回すほどです。しかし、そこに、出所してきた組長上林(鈴木亮平)によって、再び抗争の火蓋が切られ…。

 1983年生まれの鈴木亮平さんは、東京外国語大学英語専攻卒で英語がペラペラのインテリさんで、大河ドラマ「西郷どん」では主役の西郷隆盛を務めましたが、今回は、絵に描いたようなおっとろしい悪魔のような悪役です。全身の俱利伽羅紋々は、背筋が凍るほど…と書きたいところですが、彼の耳は宇宙人のように見えました(失礼!)。ですから、ヤクザ映画の様式美のような型にはまった悪役だというのに、現実味を感じることができませんでした。

 「日本人の俳優は、ヤクザ役をやると、誰でもピカイチになれる」とよく外国人識者に揶揄されますが、その罠にはまった感じでした。鈴木亮平さん、眉毛を剃って凄味が倍増しましたが、そこまでやらなくても…といった感じで、醒めてしまいました。

近くの映画館の会員になりました(会費年間500円で1回100円割引になるのでお得でした)。映画館と同じテナントに入居しているインドネシア料理店「スラバヤ」のランチ「ナシゴレン・セット」1220円

 女優戸田恵梨香さんと結婚された松坂桃李さんは今や絶好調なんでしょうね。彼が扮する日岡刑事も、あそこまでナイフで刺されたり、銃で撃たれたりすれば、普通なら死んでいるはずなのに、すぐ回復してピンピン飛び跳ねている。まあ、それが、フィクションの世界ですから、黙ってエンターテインメントとして楽しめばいいんですけどね。

 原作が1968年生まれの柚月裕子さんということで、女性だということで前回は吃驚しましたが、やはり、残念ながら、元読売新聞記者の飯干晃一(1924~96年)原作「仁義なき戦い」の方が、組織を現場で取材していたせいか、その緻密さとハラハラドキドキ感の面では及ばない感じました。これは、あくまでも個人の感想ですが。

「狐狼の血 」は★★★★★

本来なら、岩波ホールでかかっている真面目な「マルクスとエンゲルス」を観るつもりでしたが、金曜日の各紙夕刊(ご存知、金曜日夕刊は、映画批評を各紙特集しております)を読んでいたら、東映のヤクザ映画「狐狼の血」が全面広告までして、かなりお金(製作、宣伝費)を掛けていることが分かり、意外にも私の信頼する著作家も推薦し、そう言えば、銀座の地下街でも、かなり大きなポスターを貼って広告しているなあ、と目立ち、どういうわけか催眠術にでもかかったかのようになり、気が付いたらネットで予約していました(苦笑)。

翌日になって「何で、『仁義なき戦い』のオマージュみたいな映画を予約してしまったんだろう」と後悔してしまいましたが、仕方なく観ることにしたわけです。

そしたら、最初から最後まで、騙されっぱなし。つまり、映画という虚構の世界にドップリ浸かってしまい、最後は、ポロリと涙まで出てくるではありませんか。作り物と分かっていながら、最後までうまく乗せられ、騙されました。

何しろ、原作は柚月裕子さんの同名作で、日本推理作家協会賞を受賞しているらしいですね。この美人作家さんは、心底「任義なき戦い」の大ファンなんだそうで、本当に、この作品へのオマージュとして書かれたようです。舞台は広島の呉市(映画では架空の呉原市)で、暴対法が施行する前の昭和63年(1988年)の話になっているようです。ちょうど30年前です。

30年前ともなると、もう一世代前の昔の話で、こうして映画になると、歴史になってしまった感じでした。黒電話や、当時の「最新型」の自動車も登場して懐かしい限り。(今の若い人は黒電話など知りませんから、受話器も番号の回し方も分からないそうですね)

内容を書くとネタバレになるので、あまり触れないようにしますが、予告編でちらっと見た役所広司が、服装といい、物言いといい、てっきりヤクザの親分役かと思ったら、マル暴担当の刑事大上(おおがみ)役。役所は、善人役より悪役がハマる俳優ですが、最後にどんでん返しがあります。

この役所広司の「相棒」として付き添う新米の若い刑事日岡役が、松坂桃李。何で、こんなヤワな俳優を採用したのか、観る前は、違和感を覚えてましたが、まさに、彼の「成長物語」であり、適役、ハマり役。白石和彌監督の手腕には感服しました。

意外な人も出ていて、後で確かめてみたら驚きもありました。倶利伽羅モンモンのいかにも悪そうな加古村組の「真珠男」は誰かと思ったら、お笑いに近い北海道の演劇集団で大泉洋の仲間である音尾琢真、失踪した金融業の男の妹で、大上刑事と昵懇になる潤子役は、MEGUMI、薬局のアルバイト薬剤師桃子役は、阿部純子だったんですね。

私は、悪い癖で、主役よりも脇役の演技に注目してしまいます(笑)。

考えてみれば、主役の松坂桃李は、1988年生まれですから、この時代を知らないわけです。全くのフィクションの世界を、ゼロから実に多くの人間が関わって共同作業で作る映像芸術の醍醐味を味わった感じでした。

ただし、グロテスクな場面が多いので、よゐこの皆さんにはお薦めしません。ストレスの溜まってる人なら解消になるかもしれませんが、私は観てよかったので、相当ストレスが溜まってるんですね(笑)。