「現代のアヘン戦争」フェンタニルから情報問題を考える

  私は毎朝、出勤する前にTBSラジオの「森本毅郎・スタンバイ!」を聴いています。その日の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の都内最終版とスポーツ紙(報知、スポニチ、日刊、サンスポ、東中、デイリー)のニュースをコンパクトにまとめて、日替わりにコメンテーターが解説するスタイルです。

 その5人のコメンテーターのうち、2人も私の会社の先輩、後輩に当たる人なので、一緒に仕事をしたことはありませんが、よく存じ上げている方なので、身近に感じています(笑)。要するに取材方法といいますか、ニュースソースといいますか、情報の取捨選択の仕方がどうしても会社の方式(社風)から抜けきれないので、想像がつくという意味においてです。

 最近は、遅くとも朝7時半には家を出るので放送の全部は聴くことができませんけど、本日(12月7日、木曜日)はたまたま所用で有休を取っていたので、朝8時からのコメンテーターによる「深堀解説」を聴くことが出来ました。この日のコメンテーターは日経BP出身のジャーナリスト渋谷和宏さんで、「現代のアヘン戦争」の話でした。

 「現代のアヘン」というのは、フェンタニルと呼ばれる鎮痛剤のことで、医療用麻酔として本来は使われているのですが、合成オピオイドという麻薬性鎮痛剤なので、乱用すると死に至る危険があるというのです。効果はヘロインの50倍、モルヒネの100倍と言われています。

◇あのプリンスも過剰摂取で死亡

 米国ではこの薬物乱用によって、2020年には5万8000人、21年には7万1000人もの人が亡くなったと言われています。あのロック界のスーパースター、プリンスも、ジョージ・ハリスンとバンドを組んだこともあるトム・ペティも、そしてラップ歌手のクーリオも、このフェンタニルの過剰摂取で亡くなったと言われています。

 このフェンタニルは、中国から輸入されているということで、「現代のアヘン戦争」と米国が騒いでいるわけです。表向きは輸入禁止にしても、密輸の形で入って来るか、メキシコ経由で加工されたものが米国に入って来るということで、先のバイデン大統領と習近平国家主席との会談でも、この問題が取り上げられたというのです。

築地本願寺

 この話、知らなかったですね。私は一応、ジャーナリズムの仕事に携わって、毎日、新聞6紙に目を通し、テレビニュースもフォローしているつもりなんですが、これではジャーナリスト失格です。

 コメンテーターの渋谷氏も、随分よく調べているなあ、と感心しましたが、実は、問題のフェンタニルが、ラジオで音声で聴いただけなので、ペンタミンと言っているのか、フェンタミンと言っているのか、聞き取れなかったのです。仕方がないので、スマホで検索してみました。そしたら、国際情勢アナリストの山田敏弘さんという人が今年4月に、何と、時事通信のJIJI.comに「『現代のアヘン戦争』米中間の深刻な懸念」というタイトルで、このフェンタニルのことを詳細に書いていたのです。しかも、内容は、渋谷氏が話していたものと似通っていましたから、恐らく、渋谷氏はこの記事を参照した可能性があるような気がしました。

 まあ、それを言ったらキリがない話でありまして、時事通信に寄稿した山田氏のニュースソースも、彼が一時在職したことがあるロイター通信や、AP通信やニューヨーク・タイムズやワシントンポストやウォールストリート・ジャーナルやガーディアンの記事だったりするわけです。つまり、彼がバイデン大統領に直接取材して談話を取ったわけではなく、外国メディアからの「引用」だというわけです。

築地本願寺

 私はFacebookを始めとしたSNSにはなるべく近づかないようにしています。YouTubeもそうですが、「興行師」サイドは、SNSを、莫大な収益をもたらす宣伝媒体といいますか、洗脳宣撫活動として使っているからです。ニュースの信憑性には大いに欠けるので時間の無駄です。

 とは言いながら、「現代のアヘン戦争」を書いた国際情勢アナリストの山田敏弘さんについて、よく知らなかったので検索してみましたら、他人のSNSの記事から引用した、推測に溢れた「まとめ」記事が出てきて、思わず騙されて読んでしまいましたよ(苦笑)。でも、内容が全く想像の域を出ていません。素人が書いたからでしょう。

 要するに、他人が書いたあやふやな推測記事を引用したものなので、それらは二次情報であり、三次情報だったりするわけです。一次情報に接することが出来る人は、プロの記者や事件事故の当事者に限られていますが、最近のネット社会では、霞ケ関の省庁や地方公共団体もホームページで積極的に情報を公開するようになったので、普通の人でもアクセスすることが出来るようになりました。素人でも、記者会見などの報道資料を読むことが出来るのです。

 無味乾燥の面白くもない、データ解読に必要な知識を要する読みにくい情報も多いのですが、それこそが真の一次情報なのです。