おめでとう!「港の人」創立10周年

 帯広

 

畏友里舘勇治君が創業した出版社「港の人」が今年、創立10周年を迎えました。「ああ、あれから十年も経ったのか」と感慨に耽ります。途中で投げ出したり、挫折することなく、出版不況と言われる中でよくここまで続けてきたものだと本当に感心してしまいます。

 

たとえが変ですが「港の人」は、有名な見城徹氏の「幻冬舎」とは全く対極にある出版社です。創業者で編集責任者でチーフプロデューサーでもある見城氏は強烈な個性の持ち主で、文壇だけでなく政財界から芸能界にまで顔が広く、ベストセラーを立て続けに出版し、日本人なら知らない人はいない大出版社に育て上げました。社名の幻冬舎も大作家の五木寛之氏に付けてもらったくらいです。

 

片や「港の人」は、全く出版社らしくない名前で、詩人の北村太郎の詩集から「勝手に名前を取った」と里舘君は言います。ですから「『港の人社』ではない」と断言しますが、知らない人からみれば、何の会社か、人間なのか分かりませんよね(失礼)。出す本も幻冬舎が派手な広告と芸能人の告白本などでミリオンセラーを立て続けに記録するなら、港の人の出版部数は極めて少なく、万人が知っている書物があるわけではない。本社も鎌倉にあるので、地方の小出版と言ってもいいでしょう。

 

里舘君は、いわゆるギラギラした金儲け主義の起業家とは程遠く、外面は気弱そうで、「独立しても大丈夫かなあ」といった感じの人でした。しかし、あに諮らんや。内面に秘めた情熱は超人の域に達し、気骨の精神の塊でした。文学や詩に対する造詣と鑑識眼だけは人に譲れぬ信念を持つ人でした。「港の人」の出版方針に二つの柱があり、一つは、日本語、社会福祉、児童文化、教育などの学術図書。もう一つが詩集、エッセイ、評伝、芸術などの人文書になっていますが、まさに彼の信念の種子を現実化したものを次々と世に問うてきました。

 

流行とは全く無縁で、まさに地を這うような愚直なやり方で自分の信念の具現化だけに邁進してきたのです。この10年、本当に凄まじい逆風と大雪が降ったことでしょう。しかし、彼は倒れませんでした。今、ふと、彼は柳のような男だなあ、と思いました。強風に晒されても、風の吹くまま大きく揺れ動きながら、それでも決してポキッと折れない。出版界でも売らんかな主義の蔓延る中、あくまでも小部数でも質の高い良書を出版しようと努力してきた里舘君の信念には本当に頭が下がります。

 

この文章に興味を持った方は、是非「港の人」のホームページhttp://www.minatonohito.jp/index_main.htmlを覗いてみてください。そして、興味がある本が見つかれば注文していただければなあ、と思います。

 

 

追記…この文章は、里舘君には内緒で勝手に書いています。もしこの事実を知ったら「褒めすぎですよ。やめてくださいよ」と笑いながら許してくれると思いますが…。