大手メディア報道は政府情報と政府情報を足した情報?=「教養としてのヤクザ」

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 溝口敦/鈴木智彦「教養としてのヤクザ」(小学館新書、2019年10月8日初版)という大学の講義のような本を書店で見つけ購入しました。

 溝口氏は、日本の組織犯罪問題の第一人者と言われる著名なノンフィクション作家ですが、若い頃、あの「アサヒ芸能」(徳間書店)の記者だったことは自身のプロフィルには書かれていませんね。 私も「食肉の帝王」「暴力団」など多くの著書でお世話になっております。鈴木氏は「ヤクザと原発」「サカナとヤクザ」(安倍首相夫人がこの本に感動し、著者は『ご進講』をお願いされたことを本人が語っています)などで話題になったジャーナリストで、若い頃、その筋の「実話時代」などで腕を磨いた人です。

 この巨匠ともいうべき筋金入りの2人の対談集ですが、2人の記憶力には恐れ入るばかりです。「ヤクザと食品」「ヤクザと五輪」「ヤクザと選挙」など実に多岐にわたって発言されておりますが、私が一番興味深く読んだのは「ヤクザとメディア」です。鈴木氏は「新聞やテレビの暴力団担当記者は、実際には暴力団を取り締まる警察の担当で、その警察から暴力団の情報をもらって書いている。記者の大半は、警察発表と検察発表を整合させて、これを『裏を取る』と言っているわけです。当該暴力団にアテるわけじゃないんです。彼らの裏取りは政府情報と政府情報を足して、それで合わせるから暴力団に接触なんかしない。そもそも『接触するな』って言われているから」と発言しています。

 その通りでしょうね。大手メディアは、戦場の最前線にしろ、危ない所には行きませんからね。世間では暴力団存在そのものに対する疑義があり、それは当然です。しかし、何でもそうですが、メディアが政府情報のみの一方的な報道だけでは、官報と変わりがなく、情報の受け手である市民の方もバイアスをかけて見る必要がありますね。

 鈴木氏は、こんな逸話も紹介していました。抗争事件があって、テレビ局が現場取材にいくと、組員が掃除をしていたので、「撮らせてください」と頼むと、組員は「オッケー」と言いながらも、「ただし、こっちも体面があるから、俺が怒っているところを撮れ」と言って、「オリャア、コリャア」という場面を撮ったらしいのです(笑)。漫画の世界ですね。

  何しろ、「教養本」ですから、この本を読めば社会の仕組みから、政治の裏世界までよく分かります。原発の汚染水処理も、東京オリンピックも、かなり暴力団が関わっていることも明かしています。

 このほか、今、タピオカがブームになって、かなり儲かっていますが、暴力団がこれに目を付けてかなり進出していることもこの本で初めて知りました。何しろ、原価は30~40円なのに、売値は500円ぐらい。都心の超一等地でも5坪ぐらいあれば簡単に開業でき、1店舗に付き月80万~100万円の利益が出るそうです。

 ほかにも、たくさんありますが、「裏社会を知らずにジャーナリズムを語ること勿れ」ですね。