またまた遅ればせながら、2017年8月20日に初版が出た矢部宏治著「知ってはいけない 隠された日本支配の構造」(講談社現代新書)を読みましたが、内容に関しては嫌になってしまいましたね。勿論、著者を中傷しているわけではなく、よくぞここまで調べ上げたものだと感服しています。恐らく各方面からの抑圧や脅迫もあったでしょうから、彼の勇気には頭が下がります。
「はじめに」に書いてありましたが、著者の矢部氏には「また陰謀論か」「妄想もいいかげんにしろ」「どうしてそんな偏った物の見方しかできないんだ」などと批判が寄せられるそうです。彼はあまりいい気持ちはしないとはいうものの、腹が立たないというのです。むしろ、「これが自分の妄想ならどんなに幸せだろう」といいます。
確かに、この本にはどんな教科書にも参考書にも書かれていない戦後史の中の裏面史といいますか、日本人の誰も知らないような米軍との密約が懇切丁寧に描かれています。(多少、「言葉遣い」が扇情的ですが…)
これでも私自身はゾルゲ事件などに関心があったため、ここ15年ぐらいは、戦後史に関する書物も色々と目を通してきましたから、ここに書かれた密約については、全く知らなかったわけではなく、椅子から転げ落ちるほど衝撃があったわけでもありませんが、どうしてそんな密約ができたのかといったその経緯や背景について細かく説明してくれるので、大いに勉強になりました。
特記したいのは、沖縄だけでなく、首都東京も含めて、日本全土の制空権は米軍にあり、戦後70年以上経った21世紀になっても、今でも日本は「占領状態」が続いているという事実です。 東京のど真ん中である六本木と南麻布にも非常に重要な米軍基地があり、勿論、そこは治外法権で、日本の法律が及ばない警察捜査権も裁判権もありません。六本木の六本木ヘリポート (またの名を麻布米軍ヘリ基地、赤坂プレスセンターとも) は、一昨年、トランプ大統領が来日した際、安倍首相とゴルフをした埼玉県の霞ヶ関カンツリー倶楽部から専用ヘリでここまで降り立ったことから注目されましたね。
南麻布には、日本の将来が決定される憲法より上に存在する「日米合同委員会」が開催される ニューサンノー米軍センターがあります。
都内の米軍基地は、東京都の公式ホームページでも公開されておりました。
「本当は憲法より大切な『日米地位協定入門』」「日本はなぜ、『戦争ができる国』になったのか」などの著書もある矢部氏は、どうも「反米極左主義者」のレッテルを貼られているようですが、左翼の理論的主柱である丸山真男さえ批判しております。
日本国憲法について矢部氏は、「その草案を書いたのは、百パーセント、占領軍(GHQ)であり、日本人の書いた条文はない」として上で、特に、憲法9条のルーツを辿ります。
それによると、まず、まだ太平洋戦争が始まっていない1941年8月14日の時点で、ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相が会談して、まもなく米国が対日戦に参戦することを前提に二カ国協定を結びます。(これが(1)大西洋憲章です。)
翌42年1月1日、米英はこの大西洋憲章に基づき、ソ連と中国を含めた26カ国の巨大軍事協定を成立させ、第2次大戦を戦う体制を整えます。その参加国が「連合国」(United Nation)と呼ばれ、その協定が(2)連合国共同宣言です。
連合国の勝利が確実となった44年10月、米、英、ソ、中の4カ国で、国連憲章の原案となる(3)ダンバートン・オークス提案をつくります。
最後に、欧州戦線がほぼ終わりに近づいた45年4月から6月にかけて、(3)の条文をもとに、米サンフランシスコで50カ国で会議を開き、(4)国連憲章をつくります。これが戦後の国際連合(United Nations)になるわけですから、私はいつも思うのですが、国連というのは誤訳で、「連合国」、もしくは「第2次世界大戦勝者連合」が正しいですね。
さて、憲法9条のルーツである大西洋憲章第8項には、「戦争放棄」と「武装解除」が書かれています。つまり、平和を希求する日本人が戦争放棄したわけでも、武装解除したわけでもなく、勝者の連合国軍が、二度と歯向かうことがないように敵の武装を解除して、戦争を放棄させたというのが事実なのです。そんな重要なルーツを丸山真男は分かっていない、と矢部氏は批判するわけです。
ただし、この「戦争放棄」も「武装解除」も1950年に勃発した朝鮮戦争で方向転換されます。米軍は日本に自衛隊を創設させ、再軍備させます。しかも、今でも密約で取り決められているのですが、いざ、有事の際は、日本の自衛隊も米軍司令官の指揮下に入るというのです。私も知らなかったのですが、これが「指揮権密約」と呼ばれるもので、当時の吉田茂首相が1952年7月23日(クラーク大将)と54年2月8日(ハル大将)の2回、米軍司令官と会い、この密約を結んでいたというのです。
まあ、この本にはこのように、対米従属主義と治外法権と米国の植民地状態のことばかり書かれているわけですから、よほどのマゾヒストでない限り、日本人として面白いわけがないですね。右翼も左翼も関係がないのです。
それにしても、世界史的に見ても、例を見ない奇妙な占領状態です。しかし、「日本は米軍の『核の傘』で守られているから、『思いやり予算』で米軍の駐留費用を負担するのは当然」だと思っている人も多いことでしょう。ということは、このような占領状態に甘んじているのも、そして、その状態を選んでいるのも、結局、日本国民ということになりますね。