最新映画より小津安二郎など旧い作品の方が観たくなりました

 2024年(令和6年)、新年明けましておめでとう御座います。本年も宜しくお願い賜わります。

 扨て、「一年の計は元旦にあり」とよく言いますけど、あまり、しゃちこばらずに今年はどんな一年にしようか、考えてみました。

 一言でいいますと、アナクロニズム(時代錯誤)と批判されようが、もうあまり流行は追わずに、アナログ人間でもいいから、ゆったりとシンプルに過ごしていこうという心構えです。

 昨年末に観たヴィム・ヴェンダース監督の「パーフェクト・デイズ」の影響かもしれません。役所広司演じる主人公の平山のように、あそこまで、カセットテープやネガフィルムカメラに戻る気持ちはないのですが、便利さや効率ばかりを追及するデジタル人間にならなくても、アナログ人間的生き方でも許してもらえるのではないか、と思うようになったのです。

 昨年は、スマートフォンのiPhoneⅩから5年ぶりに20万円以上もするiPhone15Proに買い換えました。4Gから5Gにもなったので、データ送受信速度も目を見張るほど速くなるものと期待したら、楽天モバイルのせいか、殆ど変わりません。アプリもそのまま移行したので、内容も変わらず、変わったのは少しだけバッテリーの持ちが良くなったぐらいです。たったそれだけですよ! スマホの進化は、終わったといいますか、頭打ちになったということなのでしょう。

 昨今、AI(人工知能)やロボットばかり注目されていますが、普段の生活にそれほど必要なのか、私は懐疑的です。本当の人間らしさとは何かを考えた時、そして、心の豊かさを求めようとした時、やはり、AIやデジタルより、アナログ的思考ではないかと思っています。

 私には、人生の全てをアルゴリズムで決められてたまるか!といった感情があります。

さいたま新都心

 昨年末の大晦日に、NHKの紅白歌合戦を何十年ぶりか見たところ、出演者のほとんど知りませんし、怒られますが、歌って踊っている若い歌手は、皆同じ顔に見えて区別がつきませんでした。名前だけは知っている乃木坂だったか、欅坂とかいう若い女性グループは、4~5人なのかと思ったら、40~50人もいるではありませんか。あれじゃ、宝塚です(もっとも、昨年事件を起こした宝塚ですから、出演出来なかったことでしょうが)。私と同世代の郷ひろみさんは、流石に高齢となり、高音の伸びがなくなり、ブレイクダンスまで挑戦しようとしましたが、やっと周囲に支えられてポーズを取るのがやっと、です。何か、痛々しいなあ、と思い、テレビを消してしまいました。性加害事件で旧ジャニーズ事務所所属のタレントが44年ぶりに不出場ということでしたが、似たような、と言っては顰蹙を買うかもしれませんが、他に若い男性グループが沢山出演していたので、「ジャニーズ不在」と言われても分かりませんでした。

 何か、「終わった人」の老人のつぶやきを聞かされているようで申し訳ないですねえ(笑)。

 最初にヴィム・ヴェンダース監督の「パーフェクト・デイズ」の話をしましたが、最新の映画はFXやCGを使った暴力やアクションものが多くなり、年配者にはとても付いていけなくなりました。今は色々と便利になりましたから、私は、今年は最新封切映画より、旧い映画を観なおしたりすると思います。

 この年末年始は、ビデオ録画していた小津安二郎監督の「お早う」(1959年)と「秋刀魚の味」(1962年)を観ました。昨年は没後60年、生誕120年の節目の年で大いに注目された小津安二郎ですが、やはり、いいですね。ヴィム・ヴェンダース監督が影響受けただけあります。

 「お早う」は、東京郊外の新興住宅街を舞台に、テレビを買って、とねだる子どもたちとそれに振り回される家族の日常が描かれた何でもない内容なのですが、何とも滋味深いものがありました。佐田啓二と久我美子主演。公開された1959年は、テレビの普及率は24%、価格は7万円でした。当時のサラリーマンの月給は1万7000円程度でしたから、4カ月以上分と高価でした。騒動になるのは当たり前で、当時最新の話題を盛り込んだホームドラマだったわけです。東京郊外は何処なのかと思ったら、佐田啓二と久我美子が駅のプラットフォームで一緒になる場面があり、その駅は「八丁畷」でした。川崎市にある京浜急行の駅でした。

 「秋刀魚の味」はもう観るのは3回目ぐらいですが、細かい場面は忘れているので何度観てもいい(笑)小津監督の遺作です。笠智衆演じる初老のサラリーマン平山と、岩下志麻演じるその娘路子(みちこ)の縁談話を軸に展開されるこれまたホームドラマです。秋刀魚の味といいながら、秋刀魚が出て来ない不思議な映画で、つまりは秋刀魚の味は初老の平山の感慨のメタファーになっているという説もあるようです。岩下志麻は「極道の妻」のせいで、怖いイメージが強過ぎてしまいましたが、役柄とはいえ、若い時は純朴、おしとやかで、天下一の別嬪さんだったことが分かります。

 とにかく、小津監督が好んで使った女優さんは、他に杉村春子、三宅邦子、原節子、岡田茉莉子ら、大変失礼ながら、今の女優さんにはない品格と内面的美貌がありました。男優も笠智衆、佐田啓二を始め、中村伸郎、東野英治郎、山村聡、加東大介ら重厚で、一度見たら忘れられないアクの強そうな脇役も揃え、脳裏に焼き付いてしまいます。台詞がなくても、背中で演技が出来る名役者ばかりです。(小津組ではなかった高峰秀子や京マチ子、若尾文子らも、今の役者と比べて存在感が全く違います。)

 アナクロながら、最新映画よりも旧作映画の方にどうしても関心が向かってしまうのもそんな理由からでした。

 

「日本のいちばん長い日」の映画化はもう無理

日本の夏、緊張の夏

渓流斎です。

昨年は、旅行で異国の地に行っておりましたので、好きな映画も見られませんでした。

そこで、昨年見られなかった映画で、どうしても見たかった作品の一つである原真人監督作品「日本のいちばん長い日」のDVDのレンタルを借りて見てみました。

がっかりでしたね。
配役を見てみませう。

阿南惟幾(陸軍大臣) – 役所広司
昭和天皇 – 本木雅弘
鈴木貫太郎(内閣総理大臣) – 山崎努
迫水久常(内閣書記官長) – 堤真一
畑中健二(陸軍少佐、軍務課員) – 松坂桃李

家で寝そべって見ていたら、疲れていたので、途中で寝てしまったぐらいです。

ご案内の通り、この作品の映画化は今回が2度目です。原作は、今は歴史探偵として大活躍の半藤一利さんが1965年に発表したもので、発売時は、大宅壮一編の名前で発売されました。半藤さんが当時、文藝春秋の社員だったため、とか、販売戦略のためとか、色々理由があったようですが、真実は知りません。

それが、ベストセラーになり、1967年に映画化されるわけです。

実は、この渓流斎、この作品を父親に連れられて封切りで見ているんですよね。確か、後楽園にあった映画館です。当然今はありませんが、とにかく、記憶があやふやで水道橋にあった映画館だったことは覚えています。

白黒映画でしたが、長く記憶に残る鮮烈な映画でした。特に、畑中少佐役の黒沢年男が、常軌を逸して近衛師団第一師団長の森中将を殺害し、その後、手が硬直して、日本刀が手からなかなか離れない場面には、度肝を抜かれました。ハイライトシーンだっと思います。

昭和天皇の玉音放送の録音盤を出せ、と脅されて頭に拳銃を突きつけられたNHKの放送局員は、確か、若き加山雄三さんだったはずです。

今は便利で、チラッと「1967年版」の概要を見てみたら、腰を抜かすほど吃驚。監督は、名匠岡本喜八で、脚本は「七人の侍」の橋本忍さんではないですか。

配役は、

阿南惟幾(陸軍大臣) – 三船敏郎
昭和天皇 – 八代目松本幸四郎
鈴木貫太郎(内閣総理大臣) – 笠智衆
迫水久常(内閣書記官長) – 加藤武
畑中健二(陸軍少佐、軍務課員) – 黒沢年男

このほか、志村喬、山村聡、宮口精二、北村和夫、中村伸郎、加東大介ら当時の豪華オールキャスト総出演です。

これでは、「2015年版」は、勝てるわけありませんね。確かに製作費は67年版の数十倍かもしれません。CGを駆使して戦時中の「書割り」が本物そっくりに再現されたかもしれません。

しかし、悪いですけど、役者が大根でした。特に主役は、台詞の棒読みでした。67年版は、敗戦からまだ22年。当時の緊迫した状況は、身に染みて分かっていた世代が多く生き残り、俳優の中には最前線で戦った人もいました。

ですから、無理なんでしょうね。戦後70周年版は、異様に目ん玉だけがギラギラしたヤクザ風の若い俳優が軍人役で沢山登場しましたが、眼だけで演技してるだけで、身体性が伴っていない。まさに、顔のアップの多いテレビ用なんですよね。

期待する方が悪かったのでしょうか?