🎬「彼らは生きていた」は★★★★★

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 100年以上昔の第一次世界大戦(1914~18)のドキュメンタリー映画「彼らは生きていた」(ピーター・ジャクソン監督)を土曜日に観てきました。

 東京・有楽町の映画館で午前9時45分からの上映。63席しかないので、チケットは25分前に完売してしまいました。その様子をその場で見た私は、チケットはネットで購入していたのでセーフ。次の上映時間は夜の9時10分からですから、遠方から来られた方は絶望的な表情を浮かべていました。でも、こういう良心的な映画をご覧になる方がたくさんいるとは、世の中、捨てたもんじゃありませんね。私も含めて遠方の方は、良質な映画鑑賞の場合、次回はネット購入をお薦めします。

 この作品は、ジャクソン監督が、大英帝国戦争博物館に所蔵されていたモノクロの未公開フィルムを最新技術でカラー化し、当時従軍した兵士のインタビューの肉声をバックに重ねたものですが、信じられないほど画像が鮮明になり、つい最近に起きた戦争にさえ錯覚してしまいます。1961年生まれのジャクソン監督は、この映画を同大戦に従軍した自分の祖父に捧げていました。

第一次大戦では、戦場での兵士の移動は、トラックやジープがまだなく、徒歩か馬で、映画では、爆撃機は登場しませんでしたが、既に新兵器である戦車(タンク)が開発され、重機関銃、毒ガスまで使用されていました。

  第一次大戦では、7000万人以上の軍人が動員され、戦闘員900万人以上、非戦闘員は700万人以上死亡したといわれます。映画では、フランス国内の戦線で対峙した英国とドイツが、互いに迷路のような塹壕を掘り合って、陣取り合戦のような肉弾戦が中心でしたから、両軍ともに甚大の戦死者を生みます。

 おぞましい戦闘シーンや、腐乱した戦死者の遺体など出てきますが、よくぞこんなフィルムが残っていたと感心します。

 多くの日本人は、第1次世界大戦については、太平洋戦争ほど関心がないというのが本音かもしれません。私自身も、レマルクの「西部戦線異状なし」を読んだぐらいで、どちらかと言うと第2次世界大戦の方がもっと詳しく知りたい派です。

 しかし、欧州人にとっては、欧州大陸そのものが戦場となり、勝者も敗者も、いずれも甚大な損害を蒙ったことから、第1次世界大戦への関心度は、日本人と比較にならないでしょう。

 この映画の原題は、They shall not grow old で、敢えて逸脱して意訳すれば、「彼らの生きざまは並大抵ではなかった」辺りでしょうが、「彼らは生きていた」という映画タイトルは、実に巧いなと思いました。1914年のサラエボ事件を発端に、戦意が高揚し、マスコミが煽り立て、英国では、19歳から志願兵を受け入れるというのに、18歳、17歳、いや中には15歳や16歳まで年齢を偽って従軍していた様子から、この映画は始まります。

 100年前とはいえ、我々の父親、祖父、曾祖父の世代ですから、日々の喜怒哀楽は万国共通で、時代は変わっても本質は何も変わっていないことが分かります。

 兵士たちの食事は非常に粗末で、トイレがなく、穴を掘ったところに板を張って集団で用を足し、中には板が折れて、肥溜めに落ちる兵士もいました(尾籠な話で失礼)。

 塹壕は雨が降るとぬかるみになって、ネズミや病気が発生し、泥沼に落ちて亡くなる兵士もあり、苦心惨憺する有様も出てきます。このほか、英国軍のドイツ兵の捕虜に対する扱い方が、ちょっと紳士的に描きする嫌いがあり、本当かな、と思ってしまいました。

 1918年11月11日午前11時に休戦条約が調印され、大戦は終結しますが、帰還した兵士たちは、白い目で見られ、求職を断られるなど、市民生活とのギャップが描かれていました。帰還兵たちは「戦場に行った者しか分からない」と嘆いていましたが、この映画を観た観客は、塹壕での悲惨な戦闘を疑似体験しているので、非常に気持ちが分かります。こういうことは、時代を現代に置き換えても同じことでしょうね。