再び 「甘粕正彦」の話。同書には、実に多数の有名無名の人物が登場します。それだけに、巻末に索引があればなあ、と思います。
この中で、著者の佐野眞一氏が最も、思わさせぶりな書き方をしている人物の一人に、茂木久平という人がいます。甘粕に取り入って、満洲映画協会東京支社長になる人物です。
佐野氏はこう書きます。
”満洲の甘粕”の周辺には、右翼とも左翼ともつかない正体不明の男たちが数多く出入りした。茂木はいかがわしさという点で、その筆頭格にあげられる人物だった。”阿片王”といわれた里見甫の生涯を追ったノンフィクションを書いたとき、最後まで正体がつかめなかった人物が茂木久平だった。
それくらい、胡散臭そうな男なのです。
この茂木は、早稲田大学時代、後に作家となる尾崎士郎の親友で、尾崎の代表作「人生劇場」に登場する高見剛平のモデルなんだそうです。
売文社に出入りして、大杉栄や伊藤野枝の最初の夫である辻潤らに頻繁に会っているんですね。それでいて、左翼ではなく、周囲は誰も茂木のことを「右翼だった」と証言しているのです。
甘粕が仮出獄後、フランスに逃亡する際に「ばいかる丸」の船内で、茂木と甘粕は知り合うのですが、その辺りの詳細は同書を読んでください(笑)。
茂木に関して、桁外れの超弩級のエピソードが、あのレーニンから「日本に革命を起こす軍資金だ」と偽って5万円を騙し取ったという話です。5万円というのは、今では、1億5千万円という価値があります。その後、この数字は一人歩きして、300万円だったという説も出ています。今の貨幣価値でいうと、90億円だというのです。
嘘か誠かよく分かりませんが、昔の人は随分スケールが大きかったんですね。