思考停止の私と鈴木商店の話=武田晴人著「財閥の時代」

 すぐ、本や社会的事件に影響を受けてしまうのが私の職業病であり、悪い癖です(笑)。

 ロシア軍による非人道的なウクライナ戦争のおかげで、確かに悲観的になってはおりますが、長年の菩薩さまのような修行のおかげで、どういうわけか、精神的には安定しています。最大の秘訣は、若い時のように悩まないようにしたことです。考えないことにしたのです。

 「思考停止じゃん」と批判されようが、それでいいのです。かつては「内なる声を聞け」と自分に言い聞かせていたことがありました。しかし、人間は判断を間違えたり、記憶違いしたりします。それよりか、「ホモ・デウス」のハラリ氏の言う通り、人工知能やアルゴリズムに任せた方が正確で間違いないかもしれません。

 AIを使えば、もう「ランチは何しようか?」「服は何を着ようか?」なんて迷うことはありません。とは言っても、人間の自由とは、何を選ぶか、といった選択権の自由が大半を占めているので、AIに任せてしまえば、自由の放棄であり、人間性の放棄になります。そんなんで良いのか? そもそも、その人間性とは一体何なのかー?

 答えはすぐ出て来ないので、只管、勉強して知識を更新していくしかありませんね。

 ということで、今は読みかけて中断していた本を再開しています。武田晴人著「財閥の時代」(角川ソフィア文庫、2020年3月25日初版)です。この本は国際経済ジャーナリストの友人から薦められたのですが、面白いですね。

 幕末明治の財閥の歴史から筆を起こし、今は昭和初期に入ってきました。財閥といえば、「天下無敵」でプーチンのように向かう所、敵なし、といった感じかと思っていたら、結構、経営者の判断ミスで倒産した財閥もかなり多かったんですね。我々は勝ち残ったものしか見ていませんからね。

 かつては三井物産、三菱商事と並ぶ勢いのあった鈴木商店の倒産はあまりにも有名ですが、豆粕相場に手を出して失敗した古河商事や、三井、大倉組と並ぶ三大商社とも言われた機械関係の商社・高田商会、このほか、久原商事や藤田銀行、そして東京渡辺銀行、中井銀行、左右田銀行といった大手が関東大震災や金融恐慌などの煽りを受けて休業・倒産したことをこの本で知りました。

ムスカリ

 この中で、特に取り上げたいのは、やはり鈴木商店です。御存知ない方もいらっしゃるかもしませんが、この鈴木商店の流れを汲む直系、傍系の大企業が現在でも大活躍しています。安倍元首相も勤務した神戸製鋼、帝人(帝国人造絹糸)、双日(日本商業会社⇒日商岩井)、J-オイルミルズ(豊年製油)、ニップン(日本製粉)、富士フイルム(大日本セルロイド)、IHI(播磨造船所、鳥羽造船所)、サッポロビール(帝国麦酒)、出光興産(帝国石油、旭石油)、太平洋セメント(日本セメント)、東京電力(信越電力)等々です。(カッコ内は鈴木商店時代)

 鈴木商店は、明治初めに鈴木岩治郎・よね夫妻が神戸で開業した輸入砂糖を扱う小さな商店でした。岩治郎が早い時期に亡くなったため、経営は、金子直吉、柳田富士松ら番頭に任されました。日清戦争後に割譲された台湾との取引で、鈴木商店は大飛躍します。目を付けたのは台湾産の樟脳でした。樟脳といえば、私自身は防虫剤ぐらいしか思いつかなかったのですが、調べてみたら、カンフルとも呼ばれ、興奮剤にも使われます。カンフル剤とは樟脳剤のことだったんですね。ほかに、香料や防臭剤、それに火薬やセルロイドの原料にも使われます。用途抜群なので、これで鈴木商店は売上を伸ばしていたのです。

 鈴木商店はその後、製鋼、人絹、電力、オイル等業種を拡大して三井、三菱と肩を並べるほど大成長しました。それが倒産に追い込まれた原因は債務超過でした。番頭の柳田富士松も亡くなり、金子直吉に全ての権限が集中する独裁体制になり、財務管理が行き届かなくなりました。過剰な融資は、台湾銀行から受けていました。台湾銀行は政府系の植民地中央銀行です。関東大震災後、鈴木商店は、台湾銀行を経由した震災手形の割引で大量に政府資金を受けていたことから、「鈴木商店は、政府からの救援で延命している」と批判されるようになりました。

 結局、台湾銀行による新規貸し出しが停止された鈴木商店は、昭和2年4月上旬に閉店に追い込まれました。昭和2年は、片岡直温蔵相の不穏当な発言により、東京渡辺銀行の取り付け騒ぎが起こるなど、昭和金融恐慌が勃発した年でした。

 うーん、またまた衒学的(ペダンチック)な話になってしまいましたね。誰かさんからまた怒られそうです。

【関連記事】

・2022年3月10日付「政商の正体を知りたくなって=武田晴人著「財閥の時代」を読んでます」

神戸製鋼の事件は大変なことに発展するかも?

「いづ源」の京寿司と握り

神戸製鋼の検査データ改竄事件は、11日付ニューヨークタイムズの一面を飾る程、世界的な大ニュースになりました。

最初の公表では、改竄されたのはアルミや鉄粉などなので、被害は飲料缶や自動車部品程度かと思いきや、昨日は川崎会長兼社長というど偉い方が出てきて、「データ改竄はかなりの範囲に及ぶ恐れがある」と明らかにしたらしく、そうなると、大変なことになりますね。

私の旧友で、有名私大を出て、大手鉄鋼会社に勤めている者がおります。彼によると、鉄鋼会社の社員は、非常に官僚的で(ほんまもんの官僚の皆さんには申し訳ないですが)、「俺たちが国を支えている」という意識が強いらしいですね。

まさに、ビスマルクの言う「鉄は国家なり」です。おお、頼もしいですねえ。

しかしですね。このように、神戸製鋼の事件が、アルミから鉄本体に発展し、まさに国家を支えている鉄道や橋梁や道路などのインフラに使われている鉄自体に問題があったとしたら、危なっかしくて、橋なんか渡ってられませんよね?

確か、安倍首相は、米国の大学に留学して、加計学園さんと刎頚の友となって帰国して、就職した会社は神戸製鋼でしたよね。

あ、今は選挙中なので、「選挙妨害」などという理不尽なレッテルを貼られると困るので、神戸製鋼ラグビー部はかつて、平尾、大八木ら日本代表を擁して日本選手権7連覇を果たした歴史的強豪だということを明記しておきましょう(笑)。

神戸製鋼は、明治7年、川越藩士だった鈴木岩次郎が創業した鈴木商店が明治38年に、前身の小林製作所を買収してグループ傘下にしたものでした。

今ではすっかり忘れ去られた鈴木商店は一時期、三井、三菱の大財閥に並ぶかそれ以上の大商社にまで発展しますが、昭和2年の金融危機を端緒に廃業します。

しかし、この鈴木商店の流れをくむ企業が現在でも活躍しており、今でも、OB会か、懇話会みたいなものがあるようですね。双日、サッポロビール、アサヒビール、太平洋セメント、帝人など錚々たる一流企業です。

勿論、その中心は、年商1兆7000億円弱を誇る神戸製鋼です。