鈴木秀子『死にゆく者からの言葉』  

とても素晴らしい本に出会いました。標題の鈴木秀子氏著「死にゆく者からの言葉」(文芸春秋)。

今まで、生涯で1万冊以上の本は読んできましたが、私のベスト100、いやベスト50に入ると思います。

何が素晴らしいか。一言で言えば、前向きに生きていく勇気を与えてくれるからです。

標題からわかるように、この書は、ホスピスの仕事に携わっている著者が、余命幾ばくもない人が最期に残した言葉をまとめたものです。

仕事とはいえ、普通、人は「赤の他人」に「心を割る」ことはありません。

しかし、彼女を前にすると、不思議と、どんな意固地で頑な人も最後は心を開いて、彼女にすべてを委ねます。
彼女は、特段のことはしません。苦しいと思われる「患部」に手を当てたり、話を聞いてあげたりするだけです。

もともと彼女にそのような「力」があったわけではありません。
この本の前半に少し触れいていますが、彼女自身が九死に一生を得て、「臨死体験」をしたからです。「臨死体験」したおかげで、彼女は何かに導かれるようにして、気がついたらホスピスの仕事を始めていました。

この本には色々なエピソードが出てきますが、ひとつだけ紹介します。

「運命の善意」という話です。主人公は49歳の女性で、出版社で編集の仕事をするバリバリのキャリアウーマンでしたが、末期の癌に侵されます。最初は自分の不運を嘆き、絶望に陥り、誰も側に寄せ付けません。著者も例外ではありません。著者も、直ぐ御託を並べて食って掛かる彼女に会うと不愉快になるので会いたくない、と正直に告白しています。
そんな彼女が著者の一言で、ころっと変わります。何と言ったかと言うと「生まれ落ちた時から運が悪いってどういうことですか」という質問でした。
彼女は、この言葉で電流に打たれたように、子供の時の記憶を蘇らせます。

詳細は省きますが、彼女は最期にこう悟るのです。

『偶然というものはない。起こることすべてがある意味で必然。起こる出来事に運命の善意が働いて、すべて良く、取り計らってくれる。私はこれといった仕事の成果を残したわけではなく、ただ辛い中で競争心だけを燃やして生きてきただけだった。人生に意味があるなんて思ってもみなかった。でも、今、私はよく分かったのです。「運命の善意」を知るために、私に辛い一生を与えられたのだ、と…』