ランチで2~3万円はとても、とても=「銀座百点」12月号を読んで

 「銀座百点」という冊子があります。1955年に創刊、ということは今年で65周年にもなります。

  銀座に出店している小売店から大型店まで会員になっている協同組合「銀座百店会」が発行しています。紳士服の英國屋、カバンのタニザワ、真珠のミキモト、文房具の伊東屋、それに三笠会館や歌舞伎座、近年銀座に進出したユニクロまで現在会員数は125店に上ります。


 銀座百店会の広報誌的役割を持つのがこの「銀座百点」です。広報誌的とは言ってもあまり宣伝臭くなく、創刊号から久保田万太郎、吉屋信子、源氏鶏太ら一流作家が執筆し、また同誌に連載された作品で、向田邦子「父の詫び状」、池波正太郎「銀座日記」などがベストセラーになったりしています。

 年間定期購読料は4248円ですが、私は銀座の店で食事をしたり、物を買ったりした時、加盟店の店頭に「ご自由にお持ち帰りください」と置いてある時があるので、たまに貰っていくことがあります。

 先日は、銀座の天ぷら「ハゲ天」に久しぶりにランチをし、ハゲ天も銀座百店の会員で、お店にこの冊子の最新12月号が置いてあったので、お店の人に断って持ち帰ったのです。

 久しぶりに読んでみたら、私の大学時代の同級生・生駒芳子さんが「審美眼が求められる街」というタイトルで、エッセイを書いておられました。出世されましたねえ(笑)。彼女はファッション雑誌「マリー・クレール」の編集長なども歴任したファッション評論家ですが、10年前に、金沢に行って伝統工芸に目覚めてからは、「伝統工芸・ファッションプロデューサー」の肩書で今はお仕事されているようです。

 彼女が駆け出し雑誌ライターだった頃、東銀座のマガジンハウス(恐らく当時は平凡出版だったかも)にほぼ毎日、朝まで詰めて原稿を書いていたらしく、その時に一番楽しみにしていたのが、歌舞伎座の裏にあった「さつまや」というご飯屋さん。「そこで頂くおでんやお魚定食は、美意識に溢れた本物の味」と書かれていたので、「行ってみようかなあ」と思ったら、程なくして閉店してしまったそうです。嗚呼、残念でした。

 ほかに、私も25年ぐらい昔、六本木の事務所でインタビューしたことがある作曲家の三枝成彰さんが「いつまでも特別な場所」というタイトルで、同氏が贔屓にしている行きつけの銀座の店を書いておられます。

 そしたら吃驚、ビックリ、そのまたびっくりです。

 三枝氏ご贔屓の「すきやばし次郎」はミシュランが認めた超一流の寿司店ですが、確か、ランチでも3万円はくだらない値段です。数寄屋橋通りのおでん店「おぐ羅」は、グルメネットの相場を検索してみると、7000円ぐらい。歌舞伎座の向かいの路地にある京料理「井雪」は、「日本料理の神髄が味わえる」らしいのですが、5万円から6万円。新橋演舞場近くにあるステーキ店「ひらやま」は、「肉好きの方には是非一度、行っていただきたい」と三枝先生は仰いますが、ランチが1万5000円~2万円、ディナーは5万円~6万円が相場のようです。

東銀座「井雪」 「日本料理の神髄が味わえる」そうですよ。

 並木通りのフレンチレストラン「ロオジエ」は、三枝氏がよく行かれる店のようですが、こちらもランチが1万5000円~2万円、ディナーは5万円~6万円。「金春湯」の近くにある高級居酒屋「大羽」も「好きな店だ」と書かれてますが、2万円~3万円。

 まあ、これぐらいにして、凡夫の私が吃驚仰天するのはお分かりになって頂けたかもしれません。何しろ、私は「銀座で500円のランチが食べられた!」と嬉々としてブログに書くような輩ですからね。人間的にも器が小さい、小さい。我ながら嫌になりますよ。

 でも、オペラも作曲される三枝氏のような大物の有名作曲家ともなると、毎日のようにランチ2~3万円、ディナー5~6万円は普通で何ともないんですね。協奏曲や管弦楽曲などのほかに、映画音楽やテレビニュースのテーマ曲、CMなど作品の印税が入って来るからだと思われます。人間的にも器が大きくなるはずです。