侮辱罪の功罪について

 侮辱罪が厳罰化され、今夏に施行されるといいます。もちろん、人様を自殺にまで追い込むほどの根拠のない誹謗中傷する人には厳罰を与えるべきです。当然です。でも、時の権力者に対する批判など言論活動までもが自粛されることが懸念されます。

 サントリーからタダでお酒をもらって、ホテルから酒類持ち込み料までタダにしてもらって、それでもって、自分に投票してくれる地元有権者を特別格安料金で、花見まで付け加えて接待する我田引水の王者を批判して、「侮辱罪です」と言われたりしたら、大変困りますよ。「公然と人の社会的評価を害した場合に適用される」ということですから、明らかに、我田引水の王者の社会的信用を貶めていることになりますから。

 だって、黒川弘務元東京高検検事長などの例があるように、検察官も裁判官も時の権力者に都合の良い人物が選ばれているのではないかという不信感が根底にあります。一体、どれくらいの国民が「国民審査」の存在を知っているのかも疑問です。

 となると、賢いブロガーは、なるべく現代人と関わりを持つことを避けるようになります。所詮、他人の不正や悪事を非難しても、一時的に痛快感を味わうかもしれませんが、ブログともなるとずっと残りますからね。これがネットの恐ろしいところです。

 それに、マスコミ情報を信じて、犯人を非難したら、後でそれが冤罪だったりすることもあり得るわけです。マスコミ情報だって、警察情報をそのまま取材して書いているだけですからね。

 遥か昔の牧歌的時代の話ですが、私もよく知っている毎日新聞のM記者が、容疑者に向かって「おまえ、やったんだろう」と言ったところ、怒りに駆られたその人から大声で怒鳴られながら、追い掛け回されたそうです。恐らく、その人は潔白だったんでしょう。M君も警察発表から容疑者だと信じて、質問しただけでしたが、「殺されるかと思った」と振り返っていました。

 新聞記者なら「当事者」と実際に会うことができますが、普通の人は新聞やテレビの二次情報に接するしかありません。M記者のように、事実かどうか確かめようもありません。

 それに、昔ならSNSなんかありませんから、お茶の間や学校のクラスでの噂話で終わっていた話でした。誰だって、人の悪口を言った覚えはあるはずです(笑)。でも、昔なら消えてなくなっていた話が文字化されると、残って、当事者の目に触れることになってしまいます。

 本人が気軽に投稿したつもりでも、責任重大になってしまうわけです。

 とはいえ、新聞記者諸君、どうか、怖れることなく、政治家や政商、高級官僚、強者に対する批判の舌鋒は、鈍ることがないよう、宜しく御願い致します。

 人間というものは、強欲と嫉妬心と名誉心の塊ですから。

代わりはナンボでもいます

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 渡部健(わたなべ・けん)です。よく間違われますが、今、話題沸騰中の渡部建(わたべ・けん)さんではありません。健康の健です。

 コロナ禍の中、世間の皆様には久しぶりに明るい話題を提供してしまいました。特に、15歳も年下の超美人女優と結婚したことから、もてない男たちからの羨望、やっかみ、誹謗中傷、糾弾は、相当なものがありましたが、今回のスキャンダルで、彼らからの皮肉を込めた嘲笑と拍手喝采にはかなり堪えました。

 カイロ大学ではなく、神奈川大学首席卒業を自称していますからね。インテリの皆様からは付け焼き刃のグルメぶりを見抜かれて、それが、単なる、若いお姉ちゃんとお付き合いする方便に過ぎないことまで見破られてしまいました。今回、コロナ禍なのにお持ち帰りまでしまったことで、馬脚をあらわしてしまったわけです。不徳の致すところであり、大変猛省しております。

 それにしても、日本人というのは、他人の不幸は蜜の味で、スキャンダルが大好きですね。おかげで、テレビもラジオもレギュラー番組からの降板を余儀なくされてしまいました。芸能界は弱肉強食の世界ですから、これをチャンスに次々とライバルが後釜を狙っています。一部、相方の「小島だよ」君が代演してくれるのは有難いのですが、他の奴が起用されるのは我慢できません。

 しかし、ディレクターさんからは「余人に代えがたい」なんて言われ続けていましたが、嘘偽りだったんですね。代わりのものなんか、他にもナンボでもいます。あれだけテレビに出まくっていたみのもんたさんの代わりに、今、有吉弘行さんと坂上忍さんが後釜に居座っております。広域任侠団体との交際が発覚して芸能界引退に追い込まれた島田紳助さんの後名跡には、今田耕司さんが襲名し、見事にお株を奪っております。皆、あんな人気者だったみのさんや紳助さんのことを忘れてしまっています。

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 そう、大変失礼ながら、代わりはナンボでもおらすのです。実際、「余人に代えがたい」と閣議決定までして定年延長した東京高検の黒川弘務検事長(当時)でさえ、賭け麻雀という偉業を成し遂げて破門(本当は辞任)に追い込まれましたが、林眞琴・名古屋高検検事長(62)が後任として就任しました。林検事長は7月にも検事総長のポストが予想されています。

 さてはさて、御しやすい黒川高検検事長の検事総長就任を隠密に図りながら、本人の「オウンゴール」で果たせなかった安倍晋三首相は「任命責任を痛感している」「さまざまな批判を国民から頂いている。真摯に反省し、職責を全うしたい」などと、口先ばかりの弁解に終始しています。

 でも、さすがに、今回は国民の堪忍袋の緒が切れたようです。後手後手のコロナ対策、時代遅れのアベノマスク、申請してもなかなか降りない一律10万円と、持続化給付金のよく分からないトンネル法人への業務委託問題等々、問題が山積しながら、来週17日で国会を閉じようとしています。毎日新聞の調査では、安倍内閣支持率が、危険水域の30%を切りました。そうなると、代わりはナンボでもいるのです。石破茂さん、岸田文雄さん辺りが意欲を示しておられるようですが、ちょっとインパクトに欠けますね。毎日マスクを代えて、局長や副知事会見で済ましていいような些末な発表事項までテレビに出まくって、露出度を高めて再選を狙っている「カイロ大学首席卒業」の小池百合子都知事の手口を見習ったらいいのではないかと思います。

検察庁法改正で「暴政」を見てみたい

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フランス語で「自爆テロ」のことを Attentat-kamikaze と言うんだそうです。kamikazeとは勿論、「神風」のこと、特攻隊のことです。欧米人は日本語を取り入れる際、karoshi(過労死)だとかhentaiだとか、あまりいい言葉を採用したがりませんね。嫌な性格だなあ…(苦笑)。

 付け焼き刃の知識で言えば、神風特攻隊は、大西瀧治郎少将(終戦時自決)らの発案によるものですが、東京帝大の平泉澄教授の「皇国史観」と筧克彦教授の「神ながらの道」思想により、天皇は現人神であり、御国のために散華することは臣民の務めであるということを尋常小学校の時から教育させられ、それがニッポン男子の誉れだと賛美されました。私自身、歴史を勉強する際、いつも、自分がその時代に生まれていたらどんな行動をするのか想像しますが、もし、戦時下の若者だったら特攻隊に志願していたんじゃないかなと思っています。

 聞いた話ですが、私の父親は大学受験に失敗して、18歳で陸軍に志願して一兵卒となりました。所沢の航空少年隊に配属されましたが、幸か不幸か、先天的色覚障害だったため、パイロットになれず、整備兵に回され、戦地に向かう航空機を見送っていたそうです。もし、父親がパイロットになっていたら、当然ながら、自分はこの世に存在していなかったろうなあ、と機会あるごとに考えたりしています。

さて、今、検察庁法改正案を安倍政権が今国会で強行採決しようとして、国民的関心を呼んでいます。野党は「このコロナ禍の最中、まるで火事場泥棒だ」と猛反発し、芸能人の皆様までツイッターで「#検察庁法改正案に抗議します」と投稿し、470万件以上のツイートに発展しました。

 中でも「身内」の元検事総長松尾邦弘氏までもが15日に記者会見して定年延長を目論む検察庁法改正案に検事OB連名で反対を表明し、17世紀の政治思想家ジョン・ロックまで持ち出して、「ロックは、その著書『政治二論』(岩波文庫)の中で『法が終わるところ、暴政が始まる』と警告している。心すべき言葉である」と主張していました。流石ですね。箴言です。

 私自身は、今年1月31日の閣議で、東京高検の黒川弘務検事長の定年を8月7日まで半年間延長する決定をした翌日からこのブログで反対表明をしてきましたが、少し気持ちが変わってきました。どうせ「多勢に無勢」ですから、民主主義の原理で自民党と公明党による強行採決で法案は通ってしまうことでしょう。これで、安倍政権に近いと言われる黒川氏が検察庁トップの検事総長になるわけですから、ジョン・ロックの言うところの「暴政」なるものが見られるわけです。

 安倍首相のからむ森友・加計学園問題や、「桜を見る会」の前夜の後援会員優遇パーティーが公職選挙法と政治資金規正法の違反容疑ではないかという弁護士有志による刑事告発も、そして今、公選法違反に問われている河井克行・前法相と妻の案里参院議員の件も、63歳の黒川氏が検事総長になれば、本当に鶴の一声で、捜査が中止されたり、不起訴になったりして、有耶無耶になたりするのか、「暴政」を見届けたくなりました。

 とはいえ、安倍一強独裁政権になってから、特定秘密保護法、共謀罪法、カジノ法などを成立させるなど既に暴政は始まっているというのに、どこのメディアも政治評論家も誰もそんなこと指摘しません。御用記者、御雇評論家ばかりです。

 いえいえ、安倍首相は、我々が選挙で選んだ合法、合憲の誇るべき首相です。-確かにそうかもしれません。ただし、小選挙区制度のお蔭で、候補者は40%の票を獲得すれば、60%は死票になってくれて当選しますからね。つまり、国民の半分以下の支持でも十分、国家の最高権力者に登り詰めることができるのです。

 18日付読売新聞1面トップは、「検察庁法案 見送り検討 今国会 世論反発に配慮」です。読売は機関紙と言われるほど安倍首相ご愛読の新聞ですから、情報は確かなんでしょう。なあんだ、「暴政」が見られないのか、と思いきや、ほとぼりが醒めた秋の臨時国会で採決するようです。

 やれやれ。

黒川弘務氏の最高検検事総長就任を阻止しよう

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

黒川弘務氏の最高検検事総長就任問題は、新聞の投書になるほど国民的関心が深まってきました。投書は、黒川氏に対して、「今夏に最高検検事総長就任の打診があったら辞退したらどうですか」と勧告するものでしたが、同感です。素晴らしいことです。先日、山本祐司著「東京地検特捜部」(角川文庫)を読了して、その意を強くしました。

 この本には、明治の日糖事件から、時の最高権力者だった田中角栄元首相が逮捕された昭和のロッキード事件まで政財界による疑獄事件を取り上げています。その中で、私自身が不勉強なため、知らなかった疑獄事件がありました。昭和43年(1968年)に発覚した日通事件です。運輸会社最大手の日本通運が、独占輸送をしている米麦などの政府食糧について、社会党の大倉精一(元日通労組委員長)と自民党の池田正之輔両衆院議員に対し、議会発言をしないよう働きかける見返りとして、日通が大倉に200万円、池田には300万円の現金を渡したとされる事件です。

料亭「花蝶」(今は新橋に近い東銀座にあり。当時もここにあったか不明。だって、高くて入れないんだもん!)

 この一連の日通事件の中に「花蝶事件」があります。これは、日通事件の渦中の68年4月19日に、新橋の料亭「花蝶」で井本台吉・最高検検事総長と自民党幹事長の福田赳夫(後の首相)と容疑者の池田正之輔代議士とが会食していたというのです。同年9月になって「赤旗」と「財界展望」が料亭の領収書を添えてすっぱ抜きました。井本検事総長は、池田代議士の逮捕には強硬に反対した人で、後に「この会食は日通事件とは関係がない。検事総長に就任したときに池田正之輔が祝いの宴を開いてくれたので、そのお返しとして一席設けただけだ」と弁明しています。 井本検事総長と福田幹事長は、ともに群馬県出身で、一高~東大の同級生です。

 「李下に冠を正さず」という諺がありますが、これでは、どうも検察のトップが政界疑獄を握り潰そうとしたかのような印象を強烈に残しています。逆に言えば、検察トップである最高検検事総長が「NO」と言えば、政治家の逮捕に手加減できる構図が浮かび上がります。

料亭「花蝶」(1968年当時の花蝶の流れを汲む料亭なのかどうか不明だが、新橋演舞場が目と鼻の先にあるので、恐らく、ここで検事総長と疑獄被疑者が会談したことでしょう)

 それを現代に当てはめれば、黒川弘務氏が安倍政権の強力な後押しで、最高検検事総長に就任すれば、安倍政権のスキャンダルを潰し、自民党員の選挙違反を曖昧にし、捜査に手加減をすることができることが容易に想像できるわけです。

 検察の世界では「被害者のいない犯罪」と呼ばれる三つの犯罪があるといいます。「汚職」「脱税」「選挙違反」です。

 先ほどの山本祐司著「東京地検特捜部」には、昭電疑獄から日通事件まで、特捜の鬼検事と言われた河井信太郎氏の残した言葉が掲載されています。

 「汚職、脱税、選挙違反などが蔓延すれば、法無視の荒廃した風潮を招く。やがて社会は自壊作用を起こし、国家は衰亡する」

 これは、1968年6月に著者のインタビューで語ったものですが、半世紀経った今、同じような状況になったということです。

 ロッキード事件を担当した検察OBも「世論の後押しで勇気づけられた」と後に語ったそうです。50年後の我々も、世論を高めて、黒川弘務氏の最高検検事総長就任を阻止しなければいけません。