生まれか、育ちか?=石井妙子著「女帝 小池百合子」を読んで

 「電車内無差別放火殺人未遂事件」「投資詐欺事件」等々、昨今跋扈する事件のニュースに接すると、世の中には、「罪悪感がない人」「自責の念に駆られない人」「良心の呵責がない人」が確実に存在することが分かります。それは、脳の仕組みから来るのか、DNAから来るのか、突然変異なのか、育った環境がそうさせるのか(nature or nurture)、よく分かりませんが、こういった悪質な事件が世に絶えないという事実が、そういった人が存在するということを証明してくれます。

 「平気で嘘をつく人」も、大事件を起こす人と比べればかわいいものかもしれませんが、その人が異様な権力志向の持ち主で、目的を達成するために手段を選ばないタイプの人であれば、多くの人に甚大な影響を与えます。

 今読んでいる石井妙子著「女帝 小池百合子」(文藝春秋)は、2020年5月30日初版ということですから、1年半も待ったことになります。「待った」ということは、そういうことです(笑)。著者の石井氏は、彼女のデビュー作「おそめ」を読んでますし、大宅壮一賞を受賞するなど大変力量のあるノンフィクション作家であることは認めており、一刻も早く読みたかったのですが、どうもこの本だけは「所有」したくなかったのです。

 個人的感慨ではありますが、何となく魂が汚れる気がしたからでした。

 まだ読み始めたばかりですが、私の予感は当たっていました。主人公は、個人的にはとても好きになれない、近づきたくもない、平気で嘘をつく人でした。

 例えば、2016年の東京都知事選で、ライバル候補の鳥越俊太郎氏について、彼女が「鳥越氏は(がんの手術をした)病み上がり」と選挙運動中に中傷した場面が何度も何度もテレビに流れます。両者は、「テレビ対決」となり、鳥越氏は、小池氏に「あなたは私のことを『病み上がり』と言ったでしょ」と非難すると、彼女は「私、そんなこと言ってません」と堂々と否定したというのです。

 小池百合子氏が公職に立候補するたびに「学歴詐称」問題が浮上していた「カイロ大学 首席卒業」の経歴についても、アラビア語の口語もできない彼女が、現地人でさえ難解の文語までマスターしてわずか4年で卒業できるのは奇跡に近い、と証言する人が多いのです。例えば、日本人で初めてカイロ大学を卒業した小笠原良治大東文化大学名誉教授は、群を抜く語学力で一心不乱に勉強したにも関わらず留年を繰り返し、卒業するまで7年かかったといいます。カイロ留学時に部屋をシェアしていた同居女性早川玲子さん(仮名)も「カイロ大学は1976年の進級試験に合格できず、従って卒業していません」と明言しても、小池氏はテレビカメラの前で、自信たっぷりに「卒業証書」なるものをチラッと見せて、もう漫画の世界です。(嘘か誠か、カイロ市内では偽の大学卒業証明書はよく売られているとか)

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 でも、「この親にしてこの子」(またはその逆)とよく言いますから、小池百合子氏より、その父勇二郎氏の方が遥かに破天荒かもしれません。政治家や有力者に近づいて、よく分からない事業を始めて失敗したり、突然、昭和43年に参院選に立候補して落選したり(この時、選挙戦を手伝ったのが、後に自民党衆院議員になる鴻池祥肇氏だったり、後に東京都副知事に上り詰める浜渦武生氏だったりしていたとは!)、日本アラブ協会に入会して、直接アラブ諸国から石油を輸入しようと図ったり、(これがきっかけで、エジプトの高官に自分を売り込み、娘のエジプトとの関係につながっていく)、大言壮語で、平気で嘘をついて、借金を返さなかったり…、いやはや、とてつもない香具師と言ってもおかしくはない人物だったからです。

 超富裕層が住む芦屋のお嬢様を「売り」にしていた小池氏の住んでいたかつての自宅を著者が訪れると、正確にはそこは「芦屋」ではなかったことも書かれています。(マスコミが彼女の虚像を流布した責任が大きいと著者は批判しています)大した家産もないのに見栄をはることだけは人一倍大きかった小池家でした。雑誌等に載った学生時代の同級生らの談話を集めたり、周囲に取材したりして、その「実体」を暴く手腕は、著者の石井氏の真骨頂です。でも、多少、露悪趣味的なところがあり、いくら公人とはいえ、ほんの少しだけ小池氏が可哀想でもあり、見てはいけないものまで見てしまった感じで、最後まで読破することが何となく苦痛です。

 ここまで暴かれてしまえば、普通の人ならとても生きていけないのですが、小池氏はこの本をわざと読まないのか、読んでも全く気にしないのか(「嘘も百回言えば真実になる」と言ったナチスの宣伝相ゲッペルスの名言が思い浮かびます)、その後、一向に不明を恥じて公職を辞任しようとした試しは一度もありませんでした。

 人としての品性や品格が凡人とは全く違うことを再認識せざるを得ませんが、どうして、このような人間が生まれて育ってしまうのか、といったその由来、経歴、因果関係は、この本を読むとよーく分かります。今さらながらですが、大変な力作です。