ある同時通訳者の悲喜こもごも

昨日の日曜日は、明治時代から続いていると言われる「仏友会」に2年ぶりに参加してきました。(東京・本郷)

仏友会とは、宗教とは関係なく、東京外国語大学でフランス語を専攻で学んだ同窓会のことです。何と、最高齢は、1956年卒業の中村さん。最年少は現役の大学4年生でしたから、年齢差は62歳もありました。

毎回、卒業生の中で活躍されている方を講師としてお呼びして、お話を伺い、その後は、この時季に相応しいお楽しみのボージョレヌーボーを味わうという、とっても粋な会です。

今回の講師は、同時通訳者の袖川裕美さんという同期の女性ですから、是が非でも参加するつもりでした。私の学生時代の複数の友人にも参加を呼びかけたのですが、残念ながらいずれも欠席の通知。流石に「冷たいなあ」と思いましたが、もうこの歳になると各々諸般の事情がありますからね。一人で参加しました。

そしたら、総勢67人も参加しました。同期のYさんが初参加で、卒業以来数十年ぶりの再会でした。

私はこの会には15年ぐらい前から参加しており、その経験の中での判断ですが、これだけの人数が参加したのは最大でしたし、講師の話の面白さも最高でした。

袖川さんは、2年前に「同時通訳はやめられない」(平凡社新書)を出版し、朝日新聞の「天声人語」にまで取り上げられました。

私も仕事の関係で多くの同時通訳の皆さんにはお世話になったので、その仕事の重圧と準備の大変さはよく知っています。また、私自身も時たま、通訳の仕事をしているので、よく分かりますが、逐次通訳と同時通訳のレベルは、まるで月とスッポンです。同時通訳が大学院レベルだとしたら、逐次通訳は小学生レベルです(笑)。

そのリスニング能力と、即時・瞬時に日本語に置き換える能力は、まさに神業です。先ほどご紹介した本の表紙帯に「もう…逃げ出したい!」とありますが、よーく分かります。

とにかく、話し言葉ですから、相手は何を言うのか分からないのです。政治や経済の話をしていて、急に、今流行りのアイドルや漫画の話をするかもしれません。日本人が誰も知らない細かい地名や人名や風習、歴史用語、もしかしたら、専門家しか分からない医学用語や科学用語が出てくるかもしれません。突拍子もないことや、矛盾したこと、勘違い、言い間違いも、それは、それは頻出します。

発音のナマリが激し過ぎて、聴き取れない場合もあるでしょう。逐語訳しても、さっぱり意味が通じない場合もあるでしょう。

恐らく、人工知能でもできないのではないでしょうか。

同時通訳の方も人間ですから集中力はそれほど続きません。テレビを見ていても、5分か10分ぐらいの頻度で通訳が交代している感じです。袖川さんによると、15分が限界だそうです。

◇45分間の「拷問」

それが、な、な、何と、彼女は45分間もたった一人で同時通訳をする羽目になったことがあったというのです。しかも、あの歴史に残る今年6月にシンガポールで行われた初の米朝首脳会談です。トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長のあの歴史的会談です。

それを、某テレビ局でたった一人で45分間も同時通訳する羽目になったというのです。まず、15分で限界を感じて意思表示し、30分でやめようとブースから出て行こうとしたら、ディレクターに必死に懇願されて止められ、とうとう最後までやり遂げたらしいのですが、頭の中が空になるほどシンドイ思いをしたそうです。

そりゃそうでしょうねえ。労働基準法違反じゃないでしょうか。

でも、本人は、局の方からもエージェントからも大変感謝されると、極度の疲労が喜びに変わったそうです。

◇至福のマクロン氏のウインク

このほか、フランスのマクロン氏が大統領になる前の2014年に、オランド大統領の経済相として来日した際、テレビ番組で通訳をしたのが彼女だったそうで、下準備に大変苦労したこぼれ話を披露してました。

インタビューが終わって、一堂が帰る際に、マクロン氏が振り返って、黒子であるはずの彼女に向かって、「お疲れさま」という意味でウインクしてくれた時は、それまでの疲れがいっぺんに吹き飛んだそうです。彼女は「一生の宝にしたい」と大袈裟な感想を漏らしてました。

とにかく、同時通訳という仕事は半端じゃない能力と百科事典のような豊富な知識、日々の研鑽が必要とされます。まさに、ジャーナリストです。外国語だけでなく、それ以上に日本語力も試されます。

それに、情報はすぐ古びてしまうので、毎日、いや毎分、毎秒、常に更新していかなければなりません。ですから、過去のキャリアが役立つというわけでもないのです。同時にスポーツ選手のような瞬発力も必要とされます。とにかく、何が起きるか分からないから、下準備が大変なのです。彼女は「準備は、5日間でも足りない」と言ってましたからね。

◇ロングマン辞書を制覇

その前提として、語彙力がありますが、彼女は、あのロングマンの辞書を、最初から最後まで辞書編纂を兼ねて全て読んだそうですから、まあ、それぐらいのことをしなければ、基礎体力はつかないことでしょう。(もちろん、彼女には留学や海外勤務経験、それに同時通訳で有名なアカデミーでの修行経験など積み重ねておりました)

感心したり、感服したり、大笑いしたりしながら、彼女の話を聴きました。参加して本当によかったでした。(幹事の皆様、大変ご苦労さまでした)

スペイン堪能記ー余話

ピカソ「ゲルニカ」

まだスペインから帰って早々ですので、いまだに「スペイン病」を引きずっております(笑)。

今日なんかは、東京・銀座の有名スペイン料理店「エスペロ」にランチしに行ってしまいました。

ランチ1200円と、小生としては、ほんの少し割高でしたが(10ユーロと考えると断然安い!スペインでは、ランチでも17~30ユーロが相場で結構高い)、上写真右のガスパッチョ(冷製野菜スープ)なんかは美味で、本場とさほど変わらない味でした。

この店は、パエリアの国際大会で優勝したことがあるらしく、店頭に誇らしげに表彰状を飾っておりました。

店内を見渡すと、闘牛のポスターばかりでした。

今回のスペイン旅行で残念ながら、闘牛を見ることができませんでしたが、本場スペインではどうやら「下火」になっているようです。2日目のミハスでランチしたレストランは、元闘牛場で、食堂に改装したものでした。

バルセロナでは、ガイドさんが「ここの闘牛場は先週、閉鎖されました」と仰るではありませんか!

色々、聴いてみると、どうやら、入場料がかなり割高で、地元の人があまり行かなくなり、主に観光客相手になってしまったとのこと。「残虐」ということで、動物愛護団体などから闘牛を中止するよう様々な形で要望があったらしい、ということでした。

私自身は20代の若き頃、ヘミングウエイの「日はまた昇る」を読んで、感動して、「いつか、闘牛を見てみたい」と思っておりましたが、恐らく、もう見ることはできないでしょうね。

今回のスペイン旅行の一つが、ピカソの「ゲルニカ」を見ることでしたから、実現したときは、「かぶりつきの席」で、10分間ぐらいジーと見詰めていました。そして、見れば見るほど、よく分からなくなる不思議な絵でした。

私の記憶が確かなら、1937年のスペイン内戦の際、バスク地方ゲルニカが、ナチスドイツ軍による無差別都市爆撃を受けたことから、当時パリにいたピカソは、新聞報道や写真などを参考に一気に描き上げたものでした。ヒトラーは、フランコによる要請で他国のスペインを爆撃しましたが、その2年後に開始される第2次世界大戦を見据えて、空爆の演習を兼ねていたとも言われます。(フランコは、これを取引に、スペインは第2次大戦に参戦しないことをヒトラーに約束させたという説もあります)

「ゲルニカ」は、一気に描き上げたといっても、縦3.49メートル、横7.77メートルというかなりの大きさですから、ピカソはその前に45枚の習作デッサンを描きました。それら習作も会場の国立ソフィア王妃芸術センター(マドリード)で展示されておりました。

ピカソが何故、この絵を白と黒だけで描いたのか、色んな説がありますが、白黒でも凝視すると、真っ赤な太陽や血の色などの色彩が網膜に浮かぶようでした。ついでに阿鼻叫喚の悲鳴や泣き声まで聞こえるようでした。

天下の「ゲルニカ」ですから、写真撮影は禁止でした。左右に屈強のガードマン2人が配置されておりましたが、かなりの至近距離まで近づいて見ることができ、感激しました。

バルセロナ ガウディ作「グエル公園」

今回のスペイン旅行で、「スペイン語不足」を痛感しました。

トイレに行くと「caballero(カバジェーロ)」と書かれた入り口は、「紳士」用だということが後になってようやく分かりました(苦笑)。(senora=セニョーラ、淑女は、すぐ分かりました)

ビールは、Cerveza(セルベッサ)、赤ワインは Vino tinto(ビーノ・ティント)、グラスで注文するならCopa(コパ)、ボトルなら、Bottella(ボテージャ)。

うーん、フランス語とも単語がじぇんじぇん違いますね。ポルトガル語とはほとんど似ているでしょうが。。。

何しろ、taberna(タベルナ=居酒屋)は、「食べるな」と言われてるようで、吃驚しますよね。

昨日書いたスペイン語のバカ=牛は、正確にはVaca(バカ)=雌牛でしたね。アホ=ニンニクは、ajoで、アッホとも発音するらしいですね。

加藤画伯の御令室によると、首都マドリードの Madrid は、本当は「マドリー」と言うのが正確なんだそうですね。最後の「d」は発音しないとか。

あと、スペイン語の疑問文は、最初に「?」の真っ逆さまを書きますよね?書き言葉は、読者に最初から、次に書かれているのは疑問文ですよ、と注意喚起するためなんでしょうか?

スペイン語に詳しい方は、どうか、コメントで御教授願います。

還暦留学のすすめ

ここ両日、少し涼しくなりました。

とは言っても都心の気温30度ですから、ここ10日間近く続いた35度、36度、37度の猛暑があまりにも暑かったということでしょう。気象庁も「生命に関わるほど危険」と警戒警報を出すほどで、今月だけで全国で100人以上の人が熱中症で亡くなっております。

築地蜂の子 A定食 880円

貧乏暇なしで、昨晩は、S君の送別会を同僚のY君と一緒に銀座の焼き鳥屋さんNで挙行しました。(イニシャルばかりで暗号みたいですね=笑)

会社の定年は60歳ですが、65歳まで定年延長で居残れます。しかし、現役時代の4割程度という労基違反もんの給金ではやってられない、ということで、彼は60歳でスパッと辞めることにしたというのです。

でも、ロシア人と違って、日本人の平均寿命は伸び、あと20年、30年は生きている可能性が高いです。年金だけでは生活は苦しいです。そこで、これからどうすんの?とS君を参考人招致したところ、「訴追される恐れがありますので」と口を閉ざすばかり。仕方ないので、証人喚問、留置所喚問、尋問、反問、御下問…ありとあらゆる手段を使って口を割らせたところ、どうやら英国のエセックス州にある大学院に留学するというのです。

専攻は、International Developmentとかいう分野で、ズバリ植民地政策なんだそうです。この分野は、米国などより、植民地支配の長い歴史のある英国が世界で一番進んでいるらしいのです。

彼は、修士号か何か取得できたら、何処かの国際機関か、NGOかNPOかに就職できればというのです。還暦過ぎた第二の人生はかなり充実したものになりそうで、正直、私も羨ましくなりました。

◇◇◇◇◇

最近の日本の若者は保守的で、内に篭って外国に留学したがらないという記事をよく目にします。

私は無理に外国語を勉強する必要もないし、わざわざ留学する必要もないと思っており、地方で慎ましく生きている若者は立派だなあと思ってますから、マスコミの論調には違和感を覚えます。

誰しもが国際人になる必要もなく、むしろ、歌舞伎や伝統芸能の方が国際的に脚光を浴びるものです。つまり、ドメスティックであればあるほと、国際的に通用するということです。

中年でも熟年でも、やる気のある人が、大きな夢と目標を掲げて、S君のように留学するのが一番相応しいと改めて思いました。

【追記】

「学歴ロンダリング」なるものがあるそうで、最近になって初めて知りました。「留学」で箔を付けて帰国しても、コミュティカレッジ程度では、日本の専門学校と大して変わらないので、いい就職口がなし。頑張って、州立大学にでも進学しようとしても、途中で挫折して日本人同士でつるんで、挙句の果てには同棲したりして日本語しか使わず、英語能力の進歩なし。帰国しても多額の借金だけが残るという惨憺たる状況なんだそうです。

「留学に逃げた人」より ←クリックするとリンク先に飛びます

初めて「教えて!goo」に挑戦

初めて「教えて!goo」に挑戦しました。すると、4人目で明快な答えが返ってきました。あまりにも嬉しいので少し編集して再録します。

質 問

質問:財布事件とは?

先頃「ミリオンダラー・ベイビー」でアカデミー主演女優賞を獲得したヒラリー・スワンクが、ニュージーランドのオークランド空港の税関で、果物(りんごとオレンジ)を申告しないで持ち込んだことで150ドルの罰金を科せられました。スワンクはスポークスマンを通じて”That was the apple in the purse incident”と声明を出しましたが、このin the purse incidentがわかりません。イディオムだと思いますが、私の辞書には見当たりません。まさか財布事件だとは思えません。どういう意味でしょうか?
05-03-15 00:31

回 答No.1

incidentは「事件」という名詞以外に,「付随して」という形容詞の用法があります。「そのりんごは,財布にくっついてきたのよ」くらいの意味じゃないでしょうか。
回答者:wind-sky-wind
05-03-15 00:43

どんな人:一般人
自信: なし
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回 答No.2

purseというのは、財布に限らず、日本語で言うハンドバッグなんかも指すようです。
素直に「ハンドバッグにりんごが入っていた事件」という意味でいいのではないでしょうか。
回答者:d-y
05-03-15 00:55

どんな人:一般人
自信: なし
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回 答 No.3

回答no.2の方がおっしゃる通りだと思います。
つまり、That was “the apple in the purse” incident.ということですね。
回答者:wind-sky-wind
05-03-15 05:49

どんな人:一般人
自信: なし
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回 答No.4

アメリカに36年住んでいる者です。 私なりに書かせてくださいね。

これは「単なるバッグに入っていただけ」のことで、別に知っていながらやったことではない、と言う弁護の仕方ですね。

purseは女性が使うバッグの事です。 こちらでは女性のバッグの仲には男性では考えも付かないものが入っている、と言う感覚があります。 鍵とか化粧道具だけではなく、一年も前に取れてしまったボタンとか、もう有効期限が切れたスーパーのキューポンとか、(食べ残しの)チョコレートバーとか、いろいろ入れたままの女性が結構いるわけです。

この「入れたまま忘れてしまった」と言うのがこの文章の「みそ」なわけです。

つまり、この「事件」で他のxxxであれば、That was the xxx in the purse incidentと言われた事でしょう。

これでいかがでしょうか。 分かりにくい点がありましたら、補足質問してください。
回答者:Ganbatteruyo
05-03-15 15:02

自信: あり
良回答(20pt)
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回答に対するお礼

こちらは日本で36年間、英語を勉強している者です。氷解しました。霧が晴れた感じです。やっと明確な答えに遭遇しました。この記事は3月13日にAPが配信し、ニュージーランドのSunday Star-Times紙が13日付で一面で報じています。インターネットで検索すれば出ると思います。
本当に有難う御座いました。(渓流斎)

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