アンドレア・ボチェッリはやはり「神の歌声」でした

2008年4月19日

 

17日の夜は、有楽町の国際フォーラムにアンドレア・ボチェッリの公演を聴きにいきました。

 

8年ぶりの来日です。1994年のCDデビュー以来、全世界で実に6000万枚以上の売り上げを誇るテノール歌手です。日本ではよほどの通の人しか知られていないかもしれませんが、サラ・ブライトマンとのデュエット「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」を歌った人い言えば思い出す方も多いかもしれません。目が見えないハンディを乗り越えて、世界的な成功を手中にした人です。

 

最近のクラシック界の動向を追っているわけではありませんが、パヴァロッティ亡き後の世界を代表するテノール歌手と言っていいのではないでしょうか。公演では、非常に感動してしまいました。楽器の極地は、「人間の声」と言われていますが、人間の声の中でも、やはり、テノールが極地の中の極地だと実感しました。共演したバリトンのジャンフランコ・モントレソルが、ボチェッリの引き立て役になっていましたし、聴いていて心地よかったのは、やはりバリトンよりテノールの方でした。

ボチェッリに対する批判の一つに、クラシックとポップスを両方歌うので、「節操がない」というものがあります。私はこの批評は当たっていないと思います。アンコールで、やっと「「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」とプッチーニの「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」(トリノ冬季五輪で荒川静香さんが有名にしてくれました)まで披露してくれましたが、全く違和感がなかったですからね。

ボチェッリの宣伝文句に「貴方は神の歌声を聴いたか」というコピーがあり、大袈裟だなあ、と思っていましたが、この文句に偽りはありませんでした。神の声、天上の声でした。100人近いコーラスとソプラノのマリア・ルイージャ・ボルシ、黒人女性歌手のヘザー・ヘッドリーらとオーケストラを率いて熱唱2時間。何と心地良い時間を味わうことができたことでしょう。

 

公演を見逃した人は、衛星放送のワウワウで5月21日19時50分からこの日のライブを放送します。え、ワウワウに加入していない?(実は私もそうですが)他のライブがDVD化されていますから、買うなり借りるなりして実際に見てください。

その声量には驚かされますよ。

「私家版・ユダヤ文化論」

公開日時: 2007年11月3日

久しぶりに脳天がぐじゃぐじゃになるくらい刺激的な論考に出会いました。

内田樹「私家版・ユダヤ文化論」(文春新書)です。小林秀雄賞を受賞した話題作だったので、致し方なく買って、そのままにしていたのですが、フトと思い出したように手に取って、読み始めたら、もう止まらない、止まらない。面白くて、面白くて、ページを繰るのがもったいない気持ちになってしまいました。

すごい本です。人間の思考法を根底からひっくり返すような挑発的な言辞が羅列されています。

この本を「理解」することは、読者のそれまでの生活、信条、読書遍歴、嗜好、志向、思考がすべて問われている、と言っても過言ではないでしょう。

この本では、「ユダヤ人とは何か」というテーマで一貫して問われています。

この話は1回だけでは終わらないので、初回は、皆さんも意外と知られていない歴史上、そして現代でも活躍している「ユダヤ人」と呼ばれている人たちを本書から引用してみます。

【学者】

スピノザ、カール・マルクス、フロイト、レヴィ=ストロース、アインシュタイン、デリダ

【映画】

チャップリン、マルクス兄弟、ウディ・アレン、ポール・ニューマン、リチャード・ドレイファス、スティーブン・スピルバーグ、ロマン・ポランスキー、ビリー・ワイルダー、ジーン・ハックマン、ダスティン・ホフマン

【クラシック】

グスタフ・マーラー、ウラジーミル・アシュケナージ、バーンスタイン

【ポップス、ロック】

バート・バカラック、キャロル・キング、フィル・スペクター、ボブ・ディラン、サイモン&ガーファンクル、ビリー・ジョエル、イッギー・ポップ、ルー・リード、ジェーリー・リーバー&マイク・ストーラー、ジーン・シモンズ(kiss)、バリー・マニロウ、ベッド・ミドラー、ニール・ヤング、ブライアン・エプスタイン(ビートルズのマネジャー)

ユダヤ人は世界の人口のわずか0・2%しか占めないのに、1901年に創設されたノーベル賞で、2005年度までの統計によると、ユダヤ人が占める割合は医学生理学賞で26%、物理学賞で25%、化学賞で18%にも達するのです。彼らはどうして、これほどまでにも優秀で他から抜きん出ているのでしょうか?遺伝?熱心な教育熱?それとも、選ばれた民であるから?

そもそもユダヤ人とは誰を指すのでしょうか?

なぜ、これほどまで彼らは迫害されるのでしょうか?

すべての「答え」が本書に詰まっている、という言い方はできませんが、少なくとも、考えるヒントだけはぎっしりと詰まっています。

読者に考えさせるのが、この本の主要目的でもあるからなのです。

(続く)

館野泉さん 復活…

公開日時: 2005年4月23日

10年前の今頃、これでも私はクラシック音楽の担当記者で、すべてのクラシックを聴いてやろうと意気込んでおりました。その頃、知ったのがフィンランド在住の日本人ピアニストの舘野泉さんという人でした。大抵のピアニストなら、ショパンかベートーベンを弾きたがるのに、この人はシベリウスとか、あまり知られていないフィンランド人の作曲家の曲を演奏するので「随分変わった人だなあ」と印象に残っていたわけです。

彼が1996年にリリースしたCD「北斗のピアノ」はまさしくフィンランドの作曲家らによるピアノ名曲集です。この中のシベリウス作曲「樅の木」は、美智子皇后陛下が失語症になられた時に、特別に舘野さんを皇居に招いて弾いてもらった曲だそうです。

その舘野さんが、2001年1月にフィンランドの第二の都市タンベレでの演奏会直後に脳溢血で倒れたというニュースを耳にしました。その後の懸命なリハビリで、一昨年8月に奇跡的なカムバック。ただし、右半身の感覚がまだ戻らず、左手だけでの演奏会だった、という話です。昨年5月には東京を中心にいくつかの演奏会を開き、間宮芳生氏が彼のために作曲した左手のための「風のしるし」が初演され、大好評だったそうです(リハビリの苦労話はインターネットで見られます)。

「左手のための」といえば「左手のためのピアノ協奏曲」が有名です。この曲はラベルが、1932年に第1次大戦で右腕を失ったオーストリア人のピアニストの依頼によって作曲されたものです。このピアニストはあの哲学者のウィットゲンシュタインのお兄さんだったんですよね。

舘野さんは、リハビリの最中、時には「もう2度とピアノが弾けないのではないか」と絶望したそうですが、息子さんからブリッジが作曲した左手のための「3つのプロビゼーション」の楽譜をプレゼントされ、これが立ち直るきっかけになったそうです。国際的に活躍している日本人は松井やイチローだけではありません。舘野さん、頑張れ!