背広1着100万円=NHK「世界ふれあい街歩き」ロンドン編

 以前は、全くといっていいぐらい、ほとんどテレビは見なかったのですが、最近では結構見るようになりました。もっとも、「見る」とはいっても、大抵はナマではなく、ビデオ録画したものですが。

 よく見る番組は、やはり、大半は歴史ものか、旅行ものです。特に好きな番組は、NHKの「世界ふれあい街歩き」という番組です。この番組は、カメラを旅人目線に設置して、世界中の有名、無名の街を、まさに地元の人と触れ合いながら旅をする1時間の番組です。途中で、博物館の館長らが出てきて、その土地の歴史を説明してくれたり、くさい演技をする地元の女子大生がその土地の名物グルメを紹介したりするコーナーもあり、毎回、パターンは同じですが、結構知らないことばかりなので楽しめます。

 BSだけでなく、地上波でも再放送したりしているので、私なんか、30分ぐらい見て、やっと初めて、「あっ! 前に見たことがある!」と気付いたりします。(随分、加齢力が付いてきました。)

 番組では、街で偶然すれ違った人に声を掛けると、「ウチにいらっしゃい」と自宅に招待してくれたり、朝出会った人が、夕方に偶然にパブや劇場などで再会したり、何処かで音楽が聴こえる、と思って近づいたら、偶然、午前中に一度会った人がバグパイプを吹いていたりするような同じパターンが、毎回、毎回、様式美のように繰り返されます。

 それにしても、あまりにも「偶然」があり過ぎます。さすがに、最後のテロップで「コーディネーター」の肩書の人が登場したりするので、「偶然」ではなく、かなり事前からちゃんとアポイントを取っているのは確実で、偶然を装って、演技をしてもらっていることが容易に想像できます。そりゃそうでしょう。いきなりカメラを持った日本人が、顔の目の前にやって来たりしたら、誰でも怪しむはずですよ。

 先日は「格式高きクールな街 ロンドン メイフェア&ソーホー」というタイトルで、ロンドン一の高級住宅街を特集しておりました(再放送か再々放送)。メイフェアは、May fair で、17.8世紀に、ここで5月にマーケット(定期市)が開かれたことから付けられたそうです。昨年逝去したエリザベス女王(2世)もこのメイフェアの祖母の家で生まれたといいます。

 高級住宅街ですから、王室御用達の店も立ち並びます。特に有名なのは、日本語の「背広」の語源になったとも言われるサヴィル・ロウ地区です。この辺りに十何軒か洋服仕立て屋さんがありますが、番組では「偶然に」入った店が「ヘンリー・プール」Henry Poole という店でした。数ある洋服店の中でも最古の老舗らしく、1806年創業です。首相を務めたウィストン・チャーチルが若い頃から贔屓にしていたといわれ、今でも彼の顧客名簿と型紙が残っていました。調べてみたら、フランスのナポレオン三世まで海を越えて愛用したようです。ナポレオン三世の写真を見たら、以後は、「おっ?あの服はヘンリー・プールかな?」と考えるようにします(笑)。

 番組では、この店の支配人らしき人にインタビューしておりましたが、驚いたことに、背広1着のオーダーメイド代が6000ポンドから、日本円にして100万円からというので魂げてしまいましたよ。支配人は「20年は持ちますから、それほど驚くべき価格ではありません」と胸を張っておりました。

 もう一つ、たまたま通りすがりにあった会員制の社交場「ジェントルマンズ・クラブ」も紹介されていました。室内には宮殿のような豪華な調度品が並ぶ邸宅は、もともとは銀行家のJPモルガンのロンドンの自宅だったといいますから、これも驚くばかりです。ここの会員になるには、6人の会員からの推薦がなければならないのですが、年会費は「意外に安く」、1600ポンド(27万円)だと言っておりました。

 これまたヤラセ、おっと失礼、偶然にも、室内で3人の紳士会員が談笑しておりましたが、3人とも全員、恐らく、ヘンリー・プールで誂えた100万円の高級スーツを身に纏い、「ここでは服装規定dress code はありませんけど、それなりの格好をしなければ…」と、穏やかにクイーンズ・イングリッシュで応答しておりました。

 下衆な勘繰りではありますが、会員の皆様方は一体、どんな話をされるんでしょうか? 恐らく、天下国家や株やファンドの値動きやウクライナ戦争の話なんかでしょうか? ジャーナリストの会員さんもおりましたが、まさか、英オーディション番組で決勝進出した、とにかく明るい安村や広末涼子の話なんかしないことでしょうね。