何故、日本人は勤勉で不安を感じやすいのか=中野信子著「シャーデンフロイデ」を読んで

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 最近どうもツイていなくて、ほんの少し落ち込んでいます。

 まあ、そう大した話でもないんです。

 例えば、九州の叔母さんから蜜柑が送られてきたので、そのお返しに通販で北海道の御菓子を送ったところ、10日も経ったというのに先方から御返事がない。「届きましたか?」と聞くのも変ですし、モヤモヤしてしまいます。たかが、御菓子で1週間も2週間も掛かるんでしょうか?

 もう一つ、やっとパソコンのプリンターを購入し、1週間前に届きましたが、無線LAN方式になっていて、どうしても、パソコンとプリンターが繋がりません。幸い、スマートフォンはアプリを入れて、どうにか繋がりましたが、やはり、パソコンでなくては意味がありません。これも、原因が分からず、モヤモヤしてしまいます。

 あとは、目の前でバスや電車に乗り遅れるとか、期待して初めて食べに行った銀座のランチが美味しくなかった、とか、まあ「軽症」の不運でしたが、私にとって重症の不運もありました。

 3年程前に、変動金利型10年満期の個人国債を購入したのですが、金利があまりにも低いし、1年経てば中途解約できるので、先日、思い切って解約したところ、何と、約5000円も損失額を出して返金されました。「元本保証」だったはずなのにどういうことだ!!

 調べてみたら、中途換金の場合、元本+経過利子相当額-中途換金調整額で「払戻金」が計算され、財務省のホームページにも「元本割れしないから安心」なんて書いてますが、嘘こけー!ですよ。実際は、中途解約金とか手数料とか証券会社から差し引かれるので、前述通りマイナスになってしまいました。これは私が実体験したので、本当の話です。やはり、自分は投資家に向いていないと思ってしまいました。(21日に発表された2021年度予算案は106兆円で、そのうち借金に当たる国債発行額は43兆超円で歳入の40.9%にも上るとか。日本は大丈夫かなあ?)

会津の赤べこ、ついに買っちゃいました

 まあ、こんな調子で少し落ち込んでしまっているわけですが、いわば、軽い「不安神経症」だと思われます。何で、日本人にこのような症状を持つ人が多いのかと思いましたら、ちゃんと脳科学的に説明できるんですね。

  先日、このブログで中野信子著「サイコパス」(文春新書)を取り上げましたが、同じ著者が書いた「シャーデンフロイデ」(幻冬舎新書、2018年1月20日初版)が一番良かった、と旧友の森川さんが薦めてくれたので、読んでみました。確かに、こちらも実に面白い。シャーデンフロイデ Schadenfrreude とはドイツ語で、シャーデンとは「損害、毒」、フロイデとは「喜び」という意味だそうです。そう言えば、ベートーヴェンの交響曲第9番「歓喜の歌」は、An die Freude ( アン・ディー・フロイデ)でしたね。

 シャーデンフロイデには、「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンという物質が大きく関わっています。例えば、困った人を助けたりすると快楽ホルモンのオキシトシンが分泌される一方、人に対する嫉妬や妬み、組織や社会の輪を乱す者に対する制裁心や、別に関係もないのに有名人の不倫を叩いたり、自警団のような過剰な正義感などもオキシトシンと関係があるといいます。つまり、喜びと害毒の両極端の感情を作用するわけです。

 本書の中で、一番興味深かったのは、なぜ、日本人は正義感が強くて真面目で、規律正しく、大人しく全体行動に従う人が多いのか、といった分析でした。まず、日本は古代から稲作農業が中心で、米作りには集団による協同作業が必要になります。こうした向社会性が強い場では、個性が重んじられる合理主義より集団の意思決定が尊重されます。つまり、異分子は排除され、反集団的な人の遺伝子は絶えたということなのでしょう。

 もう一つ、日本は世界的に災害大国だということです。地球全体の総面積のわずか0.28%しかない日本列島で、マグニチュード6以上の大地震の約2割も起き、災害被害総額も世界の約2割も占めているというのです。こういった土地で生き延びて繁殖するためには、助け合いや集団行動が不可避になっていくわけです。

 また、日本人には不安を感じにくくする物質セロトニンが少ないため、不安を抱きやすいという説があります。脳内でセロトニンを合成する部位におけるタンパク質の密度が低いSS型とSL型を持っている日本人は98%もいるといいます。密度が低いと物事をいい加減に考えることができず、事前に準備をする勤勉なタイプが多いということになります。逆に密度が高いLL型は、まあ、無鉄砲で果敢にリスクを取るタイプでしょう。こちらは、日本人の2%だといいます。サイコパスが人口の1%だと言われていますから、本書には書いていませんが、恐らく、日本人のサイコパスは、この2%の密度が高いLL型の中に入ると思われます。

 日本人の98%が勤勉タイプだとしたら、自然災害が多い日本では、セロトニンが少ない方が生き延びやすかった、つまり、不安で心配性の方が予防策を講じられて有利になったことから、そういうタイプの人が生き延びて遺伝子が残ったと考えられるというのです。一方、米国人にセロトニンが多い人が見受けられるのは、リスクを取ってでも新大陸に向かう不安を感じにくいタイプの人が生き延びたためだといいます。

 面白いですね。私自身が不安を感じやすいこと、大きなリスクを取ってでも投資したいと思わないことが、見事証明されたような感じです。つまり、私自身、セロトニンが少ない日本人の典型だったということになります。

 となると、人の性格や人格など、何でも、遺伝子のせいにすることができるかもしれません。所詮、人間だって、単なる生物です。「俺のせいじゃない。DNAのせいだ」と。-ここまでくると、脳科学は免罪符みたいに感じますね(笑)。

 

凶悪犯も詐欺師も冒険家もジャーナリストもサイコパス?=物事には両面あり

  現代人の悩みの8割は人間関係だと思っています。

 「ウチのポチが言うこと聞いてくれないの」という有閑マダム(死語)もいらっしゃるかもしれませんが、大抵は「ウチの嫁が寄り付かず孫の顔も見られないの」とか、「先生が依怙贔屓する」とか、「マコトさんの気持ちが分からなくなった」なぞといった類のものが多いことでしょう。

 私も現代人ですから、御多分に漏れず、似たようなものです。恐らく、仕事の関係で、有名無名に関わらず、普通の人よりちょっと多くの人と会ってきましたが、本当に色んな人を見てきました。まあ、ほとんが信頼が置ける真面目そうな人でしたが、中には、他人を出し抜いて自分の手柄にして出世しようとする人、平気で嘘をつく人、約束を守らず適当な人、自己中心的で人を支配しようとする人、仕事をさぼって楽して金を稼ごうとする人…等々もいました。いわゆる、とんでもない奴、困った人たちです。

 直接関わらなくても、大嘘をついても平気な政治家、自分の快楽のために何人もの若い女性を誘惑して殺害してしまう人、か弱い老人を騙してオレオレ詐欺を働く輩、狂気的な連続殺人をする犯罪者らは毎日のようにニュースで見聞きさせられます。

 こういう人達には罪悪感がないのか? 良心の呵責も、自責の念もないのか? 自己嫌悪にもなったこともないのか? そういう思いと疑念を抱きながら何十年も過ごしてきましたが、中野信子著「サイコパス」(文春新書、2016年11月初版)を読んで色々と腑に落ちました。4年前に出た本ですが、さほど古びず、読み終わってしまうのが惜しいほど面白くてたまりませんでした。

 中野氏は脳科学者ですから、こういった罪悪感のないサイコパスは、脳の扁桃体(人間の快・不快や恐怖などの情動を決める場所)の活動が低く、物事を長期的な視野に立って計算して、様々な衝動にブレーキをかける前頭前皮質との結びつきが弱いことなどを指摘しています。科学的なエビデンス(この言葉、個人的に嫌いだなあ)を言われると納得できますね。

 また、サイコパスには脳科学者らが唱える遺伝説と教育学者や社会学者らが唱える環境による後天説(こちらは、サイコパスと言うよりソシオパスと言うらしい)があるらしいのですが、私自身は両方の要素が複雑に絡み合っているんじゃないかなと思います。

  とにかく、サイコパスには凶悪犯罪者とか詐欺師といったマイナスのイメージが強いのですが、実は社会的に成功した経営者とか、外科医や冒険家、開拓者、そしてマスコミ(これは実に分かる!)に多いとも言われてます。不快や恐怖感を味わうことが少ないので大胆なことができるということなのでしょう。サイコパスは100人に1人の確率でいるということですが、本来なら、人を出し抜いたり、犯罪を犯したりする輩は淘汰されるはずですが、生物学的に1%の確率で生き残っているという事実は、それだけ存在意義があるということなのでしょう。中野氏はサイコパスと思われる人物として、織田信長や毛沢東、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ、月面着陸に成功したアポロ11号のアームストロング船長らを挙げていました。

 このように物事にはプラスとマイナス面、ポジティブとネガティブな部分があるということなのでしょう。

Kyoto

 私はどちらかと言えば、物事を悲観的に考えがちで、不快や不安や恐怖を感じやすいタイプなのですが(ということはサイコパスではなく、ジャーナリスト失格か?)、中野氏によると、不安感というものは、先を見通す力、将来を考える力があるからこそ芽生えるといいます。逆にサイコパスの人たちは、不安感が少ないのであまり先のことは考えず、浮ついた気持ちで刹那的な快楽を求め、ブレーキが効かないので反社会的な行動を取りがちだというのです。

 これは、実に目から鱗が落ちるような話でしたね。私自身は、いつも自責の念に駆られたり、自己嫌悪に陥ったりしますが、「失敗を繰り返さない学習能力がある」「おかげで反社会的な行動はしない」などとポジティブに思い込んだ方が良さそうです。

 久しぶりに示唆に富む良い本を読ませて頂きました。