現代人の悩みの8割は人間関係だと思っています。
「ウチのポチが言うこと聞いてくれないの」という有閑マダム(死語)もいらっしゃるかもしれませんが、大抵は「ウチの嫁が寄り付かず孫の顔も見られないの」とか、「先生が依怙贔屓する」とか、「マコトさんの気持ちが分からなくなった」なぞといった類のものが多いことでしょう。
私も現代人ですから、御多分に漏れず、似たようなものです。恐らく、仕事の関係で、有名無名に関わらず、普通の人よりちょっと多くの人と会ってきましたが、本当に色んな人を見てきました。まあ、ほとんが信頼が置ける真面目そうな人でしたが、中には、他人を出し抜いて自分の手柄にして出世しようとする人、平気で嘘をつく人、約束を守らず適当な人、自己中心的で人を支配しようとする人、仕事をさぼって楽して金を稼ごうとする人…等々もいました。いわゆる、とんでもない奴、困った人たちです。
直接関わらなくても、大嘘をついても平気な政治家、自分の快楽のために何人もの若い女性を誘惑して殺害してしまう人、か弱い老人を騙してオレオレ詐欺を働く輩、狂気的な連続殺人をする犯罪者らは毎日のようにニュースで見聞きさせられます。
こういう人達には罪悪感がないのか? 良心の呵責も、自責の念もないのか? 自己嫌悪にもなったこともないのか? そういう思いと疑念を抱きながら何十年も過ごしてきましたが、中野信子著「サイコパス」(文春新書、2016年11月初版)を読んで色々と腑に落ちました。4年前に出た本ですが、さほど古びず、読み終わってしまうのが惜しいほど面白くてたまりませんでした。
中野氏は脳科学者ですから、こういった罪悪感のないサイコパスは、脳の扁桃体(人間の快・不快や恐怖などの情動を決める場所)の活動が低く、物事を長期的な視野に立って計算して、様々な衝動にブレーキをかける前頭前皮質との結びつきが弱いことなどを指摘しています。科学的なエビデンス(この言葉、個人的に嫌いだなあ)を言われると納得できますね。
また、サイコパスには脳科学者らが唱える遺伝説と教育学者や社会学者らが唱える環境による後天説(こちらは、サイコパスと言うよりソシオパスと言うらしい)があるらしいのですが、私自身は両方の要素が複雑に絡み合っているんじゃないかなと思います。
とにかく、サイコパスには凶悪犯罪者とか詐欺師といったマイナスのイメージが強いのですが、実は社会的に成功した経営者とか、外科医や冒険家、開拓者、そしてマスコミ(これは実に分かる!)に多いとも言われてます。不快や恐怖感を味わうことが少ないので大胆なことができるということなのでしょう。サイコパスは100人に1人の確率でいるということですが、本来なら、人を出し抜いたり、犯罪を犯したりする輩は淘汰されるはずですが、生物学的に1%の確率で生き残っているという事実は、それだけ存在意義があるということなのでしょう。中野氏はサイコパスと思われる人物として、織田信長や毛沢東、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ、月面着陸に成功したアポロ11号のアームストロング船長らを挙げていました。
このように物事にはプラスとマイナス面、ポジティブとネガティブな部分があるということなのでしょう。
私はどちらかと言えば、物事を悲観的に考えがちで、不快や不安や恐怖を感じやすいタイプなのですが(ということはサイコパスではなく、ジャーナリスト失格か?)、中野氏によると、不安感というものは、先を見通す力、将来を考える力があるからこそ芽生えるといいます。逆にサイコパスの人たちは、不安感が少ないのであまり先のことは考えず、浮ついた気持ちで刹那的な快楽を求め、ブレーキが効かないので反社会的な行動を取りがちだというのです。
これは、実に目から鱗が落ちるような話でしたね。私自身は、いつも自責の念に駆られたり、自己嫌悪に陥ったりしますが、「失敗を繰り返さない学習能力がある」「おかげで反社会的な行動はしない」などとポジティブに思い込んだ方が良さそうです。
久しぶりに示唆に富む良い本を読ませて頂きました。