簿記からファイナンスに至る会計の歴史を俯瞰=「会計の世界史」

 田中靖浩著「会計の世界史」(日経出版社)を読了しました。6月25日付のこのブログで、前半とビートルズの部分だけを読んで色々とケチを付けてしまいましたが、後半は著者の専門である会計の話がふんだんに盛り込まれ、しかも、しっかりと年号も入っておりました。とても面白い本でした。

 前回も書きましたが、もし高校生の時にこの本を読んでいたら、私も将来、公認会計士を目指していたかもしれません。1919年に近代的な管理会計が始まって100年。今はちょうど端境期に来ています。

 大雑把に言いますと、16世紀のイタリアのベネツィア(家族で資金調達)とフィレンツェ(仲間から資金調達)で始まった「簿記」が、17世紀、世界で初めて株式会社(東インド会社)をつくったオランダ(見知らぬ株主から資金調達)、そして蒸気機関の発明で産業革命を成し遂げた英国で財務会計が発達し、それが米国でさらに効率的な管理会計(「科学的管理法の父」フレデリック・テイラー)に発展し、20世紀末のグローバリズムにより、会計は「過去の後追い」から「未来のキャッシュフロー」を予測するファイナンスになった、という歴史的経過を辿っているのです。

 と、書いても分かりにくいかもしれませんが、この本では色々挿絵や図解で説明してくれているので初心者にとっても分かりやすいです。

ヤブカンゾウ

 会計とは直接関係ないのですが、関連した話が実に興味深いのです。例えば、第2次世界大戦中、ドイツの空襲に悩まされていた英国はある発明で問題を解決することができます。それがレーダーの発明です。このレーダーを発明したのが、産業革命の蒸気機関を発明したジェームズ・ワットの子孫のロバート・ワトソン・ワットだったというのです。

 また、米国でアメリカンドリームを実現したのは、最初の創業者とか開発者ではなく、後から「資本の論理」で実権を握った者だったという話も興味深かったです。

 これはどういうことかと言うと、例えば、米国の大陸横断鉄道を企画してリンカーン大統領に訴えて実現させたのは、セオドア・ジュッダでしたが、彼は鉄道会社から「追い出されて」しまいます。代わりに実権を握ったのが「ビッグフォー」と呼ばれた4人の実力者で、その中には、弁護士からカリフォルニア州知事などになったリーランド・スタンフォードがいます。この人は、後にスタンフォード大学を創設して後世に名を残しています。

 1848年、カリフォルニアで金鉱が発見され、ゴールドラッシュになります。第1発見者だった製材所で働くジムとその土地の所有者のサッターは大儲けして、めでたし、めでたしで終わるはずだった…。しかし、ジムは荒くれ者につけ狙われ、貧困のうちに生涯を終え、サッターは土地の権利を主張しても無視され、息子を暴漢に殺害されるなど、これまた不幸のうちに亡くなりました。結局、一番儲かったのは、周囲の者でした。シャベルなどを売る雑貨商や、作業がしやすいジーンズを売って莫大な利益を得たリーバイス兄弟らだったのです。

 1859年、ペンシルベニア州タイタスビル。鉄道員で「大佐」と呼ばれたエドウィン・ドレークは米史上初めて石油の採掘に成功します。これで大金を手にするかと思いきや、パートナーの出資者から「追い出され」、わずかな年金で寂しい老後を送ります。彼に代わって大成功を収めたのが、有り余る原油の精製に目を付けたジョン・ロックフェラーでした。彼は、我こそが基準だとばかりに「スタンダード・オイル」を創設し、合併と買収で全土展開し、「石油王」と呼ばれるようになります。彼も若者の教育に熱心で、財政難で閉校寸前だったシカゴ大学に多額の寄付をして復興します。(そのシカゴ大学で「管理会計」の新講座を立ち上げたのがジェームズ・マッキンゼー教授だった)

 南北戦争後、アトランタで「コカ・コーラ」を発明したジョン・ペンバートンも、巨額融資を受けた友人らから「資本の論理」で追い出されます。

 そう言えば、アップルの創業者スティーブ・ジョブズも、自分のつくった会社から追い出されましたね。復帰してからiPhoneを生み出して見事な復活を遂げますが、56歳の若さで病気で亡くなってしまいました。米国では、どうも創業者、パイオニアは不幸に見えます。

ヤブカンゾウ

 このほか、本書では鉄鋼王カーネギー(自ら創設したカーネギーメロン大学とNYカーネギーホールに名を残す)や、投下資本利益率(ROI)=利益率×回転率の公式を生み出したピエール・デュポン(仏革命を逃れて新大陸に渡り、火薬の製造で莫大な利益を得たデュポン一族の子孫で、後にナイロンストッキング開発など化学製品の大企業に発展させた)らが登場します。名前だけはよく聞いたことがある人名や会社の成り立ちがよく分かりました。

 世界史も「会計」をキーワードにすると、これほど見方が変わるのかと驚くほど面白い本でした。

会計のお勉強で世の中が違って見えてきた!

桂林から陽朔までの、漓江川下り Copyright par MatsuokaSousumu@Kaqua

もう2週間以上も前に発売された古い週刊誌を新刊として正規の価格(740円)で買ってしまいました。えっ?(笑)。

「週刊ダイヤモンド」6月10日号の特集「これからの必須スキル 会計&ファイナンス まるごと一冊 超理解」が読みたかったからです。バックナンバーとして書店で購入しました。

私もかつて、すめらまじきことは宮仕えなりをしておりましたが、仕事がスポーツ観戦だったり、映画や演劇鑑賞だったりしたものですから、ついに最後までとうとう、会社の経理会計関係を勉強せずに中退してしまいました(笑)。

要するに、決算書も貸借対照表も読み解くことができないのです。単なる数字の羅列しか見えず、見ただけで頭が痛くなりました(苦笑)。

しかし、自己責任、都民ファーストの時代になると、そんなこと言ってはられません。この週刊誌を読んだ私は、声を大にして言いたい。「人間は二種類しかいない。決算書が読める人間と読めない人間の二種類だ!」

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さて、例によって、特集の内容をほんの少しメモってみます。

●経理専門でないのなら、まず、小難しい簿記や仕訳の知識は必要ない。「財務3表」がざっくり読めればそれで良い。

●「財務3表」とは、(1)損益計算書(PL)(2)貸借対照表(BS)(3)キャッシュフロー計算書(CF)のこと。

●損益計算書(PL)は、(1)売上総利益(2)営業利益(3)経常利益(4)税引き前当期利益(5)当期純利益ーの五つの利益を抑えれば良い。

●貸借対照表(BS)は、(1)流動資産(2)固定資産=以上「資産」(3)流動負債(4)固定負債=以上「負債」(5)純資産ーの五つの箱で考える。

●貸借対照表のBSは、balance sheet(バランスシート)のこと。このbalanceは、均衡という意味ではなく、残高という意味で使われている。よって、バランスシートの正確な和訳は「残高一覧表」となる。(知らなかった!)

●キャッシュフロー計算書(CF)は、(1)「営業活動によるキャッシュフロー」(本業で現金がどれだけ増減したか)(2)「投資活動によるキャッシュフロー」(投資でどれだけ現金が増減したか)(3)財務活動によるキャッシュフロー」(借金や返済でどれだけ現金が増減したか)ーの三つの袋を見れば良い。

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★2016年度決算で、ソフトバンクは日本企業としてはトヨタに次ぎ2番目となる純利益1兆円を達成した。しかし、その一方で、ソフトバンクには有利子負債が実に14.9兆円もある。有利子負債率は60.3%。
有利子負債とは、いわば銀行などからの借金。ちなみに帝国ホテルの同期の有利子負債はゼロ、つまり無借金経営だ。
戦後最大の大型倒産は、2000年10月の協栄生命保険で、負債総額が4.5兆円だから、14.9兆円の借金がいかにも桁違いだということが分かりますねえ。(あたしなら、枕を高くして眠れない)

★ついでながら、ソフトバンクの孫社長は、後継者に一旦指名しながら、やっぱりやーめたインド系の副社長だったニケシュ・アローラさんに88億円もの退職金を支払ってお引き取りを願いました。

88億円でっせ!!

他人事ながら、そして、本当はどうでもいいことですが、孫さんの金銭感覚は人智を超えてます。

★外食産業には、原価である食材費が30%、人件費が30%、家賃や諸経費が30%、残りの10%が利益となるようにする「黄金比率」がある。経営者は、原価率と人件費を抑えて収益を確保しようとする。
ところが、今、サラリーマンの間で爆発的に人気になっているのが「いきなり!ステーキ」。ここの原価率は破格の55%なのだ。1000円のメニューならそのうち550円が原価となる計算。「いきなり!ステーキ」は、店を立ち食いにして回転率を高くして、人件費を抑えて販管費率を極力下げて、利益を確保している。

ふーん、なるほどね。目から鱗が落ちます。

専門家に限って、「二流の経営者は数字ばかり見てる」と貶し、「夢と希望がなければ勝ち残れない」なぞと宣いますけど、やはり、世の中、数字で動いてます。

13連敗(読売軍)とか、28連勝(藤井四段)とかね。