今更ながら、外山滋比古著「新版 思考の整理学」を読んで

 新聞の広告で「東大&京大で一番読まれた本」「刊行から40年読み継がれて287万部 ロング&ベストセラー」の宣伝文句に惹かれて外山滋比古著「新版 思考の整理学」(ちくま文庫)を有楽町の書店で購入し、読んでみました。

 うーん、あまり、批判はしたくはないのですが、えっ?この本が40年も読み継がれて287万部も売れて、東大、京大で一番売れている本なの? というのが正直な感想でした。偉そうですね。

 40年も経てば、古典の名著と言えるのかもしれませんけど、この本の中で取り上げられたコンピューターの話はさすがに、パソコン時代を乗り越えた現代のスマホ優勢時代では、古びてしまっており、また、40年前なら「セレンディピティ」という言葉も新鮮で、斬新過ぎて、格好良い響きがあったかもしれませんが、その後、勝間和代さんが著書でかなり世間に浸透させて、今や少し聞き慣れ過ぎた言葉になってしまっています。

 読者感想文の中に「もっと若い時にこの本に出合っておけばよかった」というのがありましたけど、やはり、その通りです。若い人向き、特に大学の卒論を執筆しようとしている人向けに書かれているようなフシがあり、もう年老いた「手遅れ」の人が読んでも感動しないのは当たり前かもしれません(苦笑)。

 本を読めば、大抵、引用したい心に引っかかる文章があるものですが、この本で引用したいと思った箇所は、「思考の整理学」の本筋とは全く関係がない包丁を長持ちするための秘訣でした。包丁はさびやすく、直ぐ切れにくくなりますが、その対策としてこんなことが書かれています。

 使ったあと、湯に浸してから乾いたふきんでふいておけばいい。なぜそんな簡単なことが知られていないのか。一説によると、早く包丁をだめにした方が、買い換え需要が増えて業者の利益になる。長持ちさせる方法など教えるのは自分の首をしめるようなものだ、というのである。(185ページ)

 著者の文章は、新聞記事のようにセンテンスが短く、歯切れが良い。だから読みやすい。だから、売れてロング&ベストセラーになったのではないかと推測します。

 悔しかったらお前も、ロング&ベストセラーを書いてみろ、ということですか。

本は読むな?

 

衝撃的なインタビューの記事(毎日新聞3月21日付夕刊)を読みました。ここ数年で一番、印象に残った記事ではないかと思います。

84歳の評論家、外山滋比古(お茶の水女子大名誉教授)さんです。「75歳ぐらいから知的活力が湧いてきた。これは大変な発見でした」といから驚きです。

私は、読んでいなかったのですが、1983年に発表した「思考の整理学」(筑摩書房)がロングセラーを続けているという話です。86年に文庫化され、この一年だけで27万部も増刷され、44万部も売れているそうです。

執筆のきっかけは、優秀な学生ほど卒論の内容が面白くなく、不勉強の学生の方が発想が奇抜で興味深い卒論を書いてきたからだそうです。これがきっかけに、

知識と思考力は比例しない。極論すると、知識が増えると思考力が下がり、知識が少ないと思考力が活発になるのではないかーという仮説ができたというのです。

彼の発言を少し換骨奪胎して引用します。

「あまり本を読んじゃいけないと考えたんです。本を読みすぎると、どうしてもその知識を借りたくなる。知識がなく、頭が空っぽであれば、自分で考えざるをえなくなる。そのために、新しいことを本で知らないこと。どうせ読むなら賞味期限20年も過ぎた古い本か古典を読むことです」

「思考力を養うには、あまり役に立たない、むしろ有害な知識を忘れること。一番良いのは、体を動かして汗を流すこと。体操、散歩、風呂がいい。酒を飲んで忘れるのもいいが、急激すぎる。じわじわ忘れていくのがいい」

「人間を育てるということは、いい教育、いい環境を与えることではない。むしろ、劣悪な環境を乗り越える力を持たせることによって、能力は高まる。テストの点数を取るのは苦手でも、逆風に耐える力で、人間力は決まる」

ね、すごい意見でしょ?もう、仮説も、意見も超えて、定説に近いかもしれません。

私もそれこそ、本ばかり読んできた人間なので、深く考えさせられ、その逆転の発想で、目から鱗の落ちるような衝撃を受けたのです。あまり、本を読んでこなかった人には、全く、何の衝撃も受けることはないでしょうね(笑)。

75歳を過ぎて、知的な活力が湧いてきたというのは、「信長の棺」で75歳でデビューした作家の加藤廣さんの例でも明らかですが、加藤さんの読書量はそれこそ膨大です。

ただ目先のことに拘らず、「古典を読め」と私は解釈したのですが…。