出来れば全部観たい=山本勉監修「運慶✕仏像の旅」

 山本勉監修「運慶✕仏像の旅」(JTBパブリッシング、2017年9月1日初版)は、もう直ぐ読了しますが、旅行の際には携帯して参照したい本です。

 この本を読んで、全国にある運慶作の仏像を全て、とまでは言わなくても、出来るだけ多く拝観したい誘惑に駆られてしまいました。私が現地で実物を観たのは、東大寺南大門の金剛力士立像と高野山金剛峰寺の八大童子立像ぐらいで、後はふだんは非公開だったりして、東京国立博物館などの特別展で、無著・世親菩薩立像(興福寺)や重源上人坐像(東大寺)などを拝観させて頂いたぐらいです。何と言っても、運慶20代のデビュー作と言われる奈良・円成寺の大日如来坐像(迂生が新橋の奈良県物産館で購入したあのモデル像です=下の写真)の実物には、まだお目にかかったことはありません。

 焼き物の世界で「備前に始まり、備前で終わる」と言われたりするように、彫刻の世界では「運慶に始まり、運慶で終わる」と言っても過言ではないんじゃないでしょうか。いや、彫刻の世界ではなく、日本の美術史上と言っても良いかもしれません。私自身は「印象派」を大学の卒論に選んだせいか、泰西美術については、かなり海外の美術館巡りもして観てきましたが、年を取ると日本に回帰してしまい、北斎、光琳、若冲、等伯、雪舟の方が技巧的に優れ、日本人の感性に合うことを認識するようになりました。さらに、平面画よりも立体の方が凄いと思うようになり、その天才と抜群の知名度から究極的には仏師運慶が日本美術を代表するナンバーワンではないかと思うようになったのです。

 この本は、何と言っても写真が凄い迫力です。写真提供として「文化庁」や「奈良県立博物館」などのクレジットもありますが、仏像の鼻先の数センチから接写したような、土門拳ばりのアップ写真もあり、圧倒されます。また、この本は、仏像研究の権威である山本勉先生の「監修」となっており、実際に寺院を参拝する監修者の山本勉氏の御尊顔が何度も登場されております。

 仏教美術の研究は21世紀になっても着実に進歩を遂げ、神奈川県称名寺光明院の大威徳明王像は1998年に体内から取り出された納入文書が2007年に開封され、初めて運慶作と判明されたことをこの本で知りました。先に少し触れた東大寺を再興した重源上人坐像も銘記も史料もないので、快慶作など諸説ありましたが、山本氏は「無著・世親像の作風の共通を見て、作者は運慶説が有力」としてます。

 そして、何よりも、新興宗教団体「真如苑」が2008年3月に、米ニューヨークで行われたオークションで、約14億円で落札した大日如来坐像(半蔵門ミュージアム)が、栃木県足利市の樺崎寺(廃寺)に安置されていた運慶作ではないかと推定されました。この像をX線撮影すると体内に五輪塔などが埋め込まれていることが分かり、足利市光徳寺蔵の運慶作大日如来像との共通点も見られ、重要文化財に指定されました。運慶作はほぼ間違いないことでしょう。これも、運慶作と推定する論文を発表した山本勉氏の功績のようです。その後、山本氏は、この像を所蔵する半蔵門ミュージアムの館長になられました。

 その一方で、京都・高山寺に移した運慶作の廬舎那(るしゃな)仏像や賓頭盧尊者(びんずるそんじゃ)像、鎌倉の源実朝持仏堂の釈迦如来像、大蔵薬師堂(北条義時が創建した覚園寺)の薬師如来像、北条政子発願の勝長寿院五仏堂の五大尊像などは、残念ながら現存していないといいます。

 先に、私は「運慶は日本美術史上ナンバーワンだ」と書きましたが、実際は、運慶一人だけで制作した仏像は少なく、運慶の父康慶を始祖とする奈良仏師の慶派(同僚の快慶や子息の湛慶、康勝ら)による共同制作が多いのです。運慶は、勿論、自ら鑿(のみ)を手にしますが、職人をまとめたり指示したりする棟梁か、依頼者と折衝する総合プロデューサーの役割を担っていたと思われます。鎌倉時代になり、時の権力者の源頼朝や北条時政、政子、和田義盛らからの依頼による仏像制作も多くなります。この本の71ページに京都・六波羅蜜寺の運慶坐像(伝湛慶作)の写真が掲載され、私も初めて運慶さんの御尊顔に接しましたが、河童みたいな顔で(失礼!)、妥協はしない意志の強さと自負心が表れていますが、何処か計算高い如才のない面も見え隠れします。人間的な、あまりにも人間的な…。

 ということで、余計に運慶が好きになり、800年経っても現存する運慶作の仏像を求めていつか巡礼したいと思います。

運慶作「国宝 大日如来坐像」(奈良・円成寺)のモデルを入手できました

 昨日はランチで、新橋にある「奈良まほろば館」に行って参りました。奈良まほろば館は、いわゆる奈良県の物産店ですが、店内には簡単に飲食出来るコーナーもあります。ここの「柿の葉寿司セット」が食べたくなったのでした。

 奈良には何度か行きましたが、どういうわけか真夏の思い出が多く、暑い最中を汗を拭き拭き、寺社仏閣巡りをするのですが、その近くで食べた柿の葉寿司やかき氷の方が寺社仏閣よりも印象に残ったりしてます。…駄目ですねえ。

新橋「奈良まほろば館」柿の葉寿司セットランチ

 食事を終えて、物産店ですから、ちょっと店内をひやかすことにしました。お菓子や素麺とかの土産物がありましたが、一番目を引いたのが仏像でした。以前、東京国立博物館でも展覧会が開かれた聖林寺の国宝「十一面観音像」もありましたが、確か、33万円! とても手が出ません(苦笑)。有名な興福寺の国宝「阿修羅像」もありましたが、こちらも30万円ぐらい。う-ん、これも、ちょっと…。

 そしたら、それらの隣にミニチュアの「大日如来像」がありました。こちらは、十一面観音像の10分の1以下の値段。それでも、結構高額なんですが、これなら手が届きます。それに、今の私の精神状態は、神仏に縋りついてでも、心の平安を渇望しているので、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、思い切って購入してしまいました(頭記写真)。

 そして、色々と調べてみましたら、この大日如来像のモデルは只者ではなかったのです。あの仏師運慶(?~1223年)のデビュー作だったのです!奈良市にある円成寺の国宝に指定されている大日如来坐像だったのです。平安時代末期の安元2年(1176年)の制作で、運慶がまだ20代の若々しさに溢れた仏像彫刻です。もう850年近い年月が経っているので、本物(高さ98.8センチ)は、金箔らしきものが剥げ落ちて黒くなっていますが、私が購入した「モデル」は、高さわずか9.5センチ。柘植の木肌が輝くようで、全く別物のような感じですが、そこはかとなく威厳さが漂っています。(MORITA社仏像ワールド製)

水仙

 しかも、智拳印が結ばれ、御顔立ちが綺麗で、御利益(精神的幸福)もありそうで、一心不乱に拝めそうです。大日如来は、真言密教における一切諸仏諸尊の根本仏ですが、私の干支の守護仏にもなっているようです。

 ちなみに十二支の守護本尊とは、千手観音菩薩(子歳)、虚空蔵菩薩(丑/寅歳)、文殊菩薩(卯歳)、普賢菩薩(辰/巳歳)、勢至菩薩(午歳)、大日如来(未/申歳)、不動明王(酉歳)、阿弥陀如来(戌/亥歳)となっております。

 人間はか弱い動物ですから、本当に苦しいときは、神仏に縋って、拝むか祈るしかありませんからね。

「運慶」見て来ました★★★★★

東京国立博物館平成館

東京・上野の東博で開催中の「運慶」を見て来ました。京都国立博物館の「国宝」と同じように、こちらも運慶展などと言いません(笑)。

京都のように、かなり並ばされるかなあ、と覚悟してましたが、小雨の悪天候のためか、週末なのに並ばれずに入れました。ただし、館内は二重三重の大混雑でした。

出展作品は、仏像や四天王が主ですから、本来なら荘厳なる寺院で敬虔なる面持ちで拝さなければならないのに、こうして美術作品のように鑑賞するのも何か変な感じがしました。

こちらにも「国宝」がありました(笑)。あの美術の教科書にも載っている東大寺の「重源上人像」も出品されていたので吃驚。作者名はなく、「運慶作とみられる」ということで展示されていたようです。割と小振りですが、生前の上人の性格から強い意志まで見事に表現しておりました。

運慶と言えば、誰が何と言っても、奈良・東大寺南大門の「金剛力士像(阿吽像)」でしょうが、まさか、東京まで運んで来るわけにはいきませんよね。

作品の殆どは、奈良・興福寺蔵のもので、ちょうど今、興福寺では国宝館の耐震工事や中金堂の復元などが行われているため、こうして、寺院外での展示が実現したのでしょう。

これだけ大天才の芸術家の運慶なのに、興福寺の仏師康慶の息子であること以外、生年不詳なんですよね。「風神雷神」の俵屋宗達もよく分かっておりませんが、大天才に限ってそんなもんかもしれません。

今回、私が最も気に入った展示品は、運慶の三男康弁(生没年不詳)の「天燈鬼・龍燈鬼立像」のうちの天燈鬼像でした。これも美術の教科書なんかによく載っています。

高さ約78センチ。普段は四天王に踏みつけられている邪鬼が主役です。天燈鬼は、2本の角と三つの目を持ち、燈籠を左肩に乗せて踏ん張ってます。いいですねえ。普段は、皆んなに恐れられ、汚わらしいと忌み嫌われ、差別されている鬼さんが主役です。本当は心優しい働き者なんですよ、とでも言いたげです。

この作品は、エヘン、国宝です。

東博を出て、昼時でしたので、上野名物トンカツ屋さんにでも行こうかと思いましたが、今は、哀しい哉、立ち喰い蕎麦の身分です。

しかし、わざわざ上野にまで出て来て立ち喰い蕎麦ではあまりにも味気ない。ということで、久し振りに上野警察署近くの「おきな庵」に行ってきました。知る人ぞ知る名店でいつも混雑してます。

思い切って、天麩羅蕎麦950円。やはり、邪鬼としては、身分不相応でした(笑)。