名脇役があってこその主役

 昨日、ジャズ・シンガーの新倉美子のことを書いたところ、京洛先生から「ああたは、新倉美子も知らないんですか」と、早速、京都から、上から目線で電話がかかってきました(笑)。

 京洛先生は、私よりも一回り年長、という老世代ですから、よく御存知なのでしょう。それでいて、京洛先生は若作りですから、京都の街中では、2人でいると、ちょくちょく私の方が年上に、つまり老けて見られてしまい、若く見られた彼は大喜びしているのです。ずるいですね(笑)。

 「画家の東郷青児の長女のたまみ(1940~2006)だってジャズ歌手だったんですよ。朝丘雪路、水谷良重と『七光り三人娘』を組んで舞台に立ったこともあります」

 さすが、物識りの京洛先生。何でも知ってますねえ。朝丘雪路は、画家伊東深水の娘、水谷良重は、父が14世守田勘弥、母が初代水谷八重子でした。

 「水谷良重はジャズ・ドラマーの白木秀雄と結婚しました。えっ?知らない?駄目ですねえ。白木は東京芸大出身ですよ。後に離婚しますが、水谷の『愛しているから別れます』は当時の流行語になったんですよ」

 えー、知らなかった。1963年のことですか。白木さんは、晩年が悲惨で、自分のバンドも解散し、渡辺プロダクションからも解雇され、最後は、赤坂の自室で、精神安定剤の過剰摂取で亡くなったようですね。享年39。

 そう言えば、芸能プロダクションのナベプロの渡辺晋氏も、ホリプロの堀威夫氏も、もともとはジャズ・ミュージシャンでした。

Alhambra, Espagne

 「やれスマホだ、やれインターネットだの言っても、アナログの知識がなければ、言葉も知らず、検索さえできないのですよ」と言いながら、京洛先生は、不良中学生時代に毎日のように嵌って観た東映時代劇など映画の名脇役の名前をズラズラと列挙し始めました。

 「新倉美子のお父さん辰巳柳太郎は新国劇でしたね。沢田正二郎らつくった劇団です。辰巳と並ぶスターが島田正吾です。その弟子筋に緒方拳や若林豪らがいますが、他に、悪役で名を馳せた上田吉二郎石山健二郎らもいて、彼らも新国劇の出身者だということは知らないでしょう。えっ?上田吉二郎は知っているけど、石山健二郎は知らない。いや、写真を見ればすぐ分かりますよ。タコ坊主のような独特の容貌で、黒澤明監督「天国と地獄」で田口部長刑事役や山本薩夫監督「白い巨塔」では田宮二郎の義父役で独特の印象を残しました。やっぱり脇役がしっかり固めないと、主役が引き立たないんですよ」

 そういえば、悪役と言えば、私の子ども時代は、上田吉二郎でした。あの太った、独特のだみ声で「ふ、ふ、ふざけんじゃねえ」と、笑うように怒りながら、子分たちに向かって「お、おめえたち、やっちまえ」という台詞は今でも耳にこびりついております。

 京洛先生も、子どもの時分から主役に注目しないで、脇役ばかり見ていたとは変わった人だったんですね(笑)。さらに名脇役を言及します。

 「吉田義夫ね。この人は日本画家から俳優になった人ですよ。法隆寺壁画の修復にも参加した人です。テレビの「悪魔くん」でメフィスト役をやり、映画では『男はつらいよ』の常連です。チャンバラの悪役は山形勲。この人、ロンドン生まれです。『旗本退屈男』や『大菩薩峠』に出ていました。も一人は骸骨のような顔した薄田研二、家老役がぴったりでした。築地小劇場出身です。溝口健二監督の『山椒大夫』『浪華悲歌』などに出ていた「溝口組」の進藤英太郎。いかにも憎々しい役です。
 伊東四朗や財津一郎の師匠だった 石井均は、喜劇役者ですが、新宿で一座を持っていたのに解散して、大阪の曾我廼家十吾の松竹家庭劇に入った人です。この時、西川きよしがかばん持ちをやったことがあります。松竹新喜劇と言えば、高田次郎ですね。ドラマ『細うで繁盛記』や『どてらい男』でいじめ役で、実にうまい俳優です」と、キリがないほど、ポンポンと色んな役者の名前が飛び出してきます。

Alhambra, Espagne

 「脇役は、結構、裕福な家庭の出が多くて、道楽でやってるような役者も多いんですよ。それにしても今の俳優は、駄目ですねえ。目だけギョロギョロさせて下手で下手で、顔だけで演技していて見てられませんよ。迫力がない。何度でも言いますが、脇役に凄みがないと主役も目立ちません。その点、昔の役者の方がはるかに凄かったですよ」と、「芝居通」ぶりを発揮しておりました。

 確かに、昔の脇役や悪役には凄味がありました。

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