年賀状じまい

 断捨離、終活、墓じまい…実に嫌な言葉です。

 けれど、たとえ子どもがいたとしても、他者であり、迷惑を掛けるわけにもいきません。浄土真宗の祖親鸞上人は「私が死んだら遺体は賀茂川に流して、魚の餌にしなさい」と遺言されたといいますが、今の時代、そんなことしたら、死体遺棄罪となってしまいます。最期の始末ぐらい自分でしたいと思っても、現実的にはそれさえ叶いません…。

 そんなことを考えていたら、今年の年賀状で、結構「これっきり」にされる方が増えたことを思い出しました。北海道にお住まいのAさんは、定年退職を機に、「来年は年賀状はやめることにしました。今後はメールでのお付き合いをお願いします」と添え書きにありました。

 一番明解だったのは、愛知県にお住まいの会社の元後輩のフリーライターのB君です。「郵便料金が値上がるので、来年から年賀状は取りやめにすることにしました」と、切実な理由が書かれていました。

 そして、一番印象的だったのが、神奈川県にお住まいのCさんです。松の内をとっくに過ぎた1月23日に普通葉書で返信がありました。「私は本年、卒寿の年となり人間を卒業いたします。不思議な御縁で御座いましたが、以後、御失念いただき、お気遣い下さいませんようお願い申し上げます。」

 何と、エスプリの効いた「年賀状じまい」でしょう。このCさんという人は、20世紀最大のスパイ事件と言われるゾルゲ事件に関与したのではないかと言われた人物の奥さんでした。その人は、上智大学でドイツ語を習得した日本人で、ゾルゲも働いていたドイツ通信社(DNB)の同僚として勤務していたという接点がありました。内務省警保局のリストには載っていませんでしたが、共産党員だったこともあり、GHQが執拗にマークした人物でもありました。

 10年以上昔、私は、国会図書館で見つけた新聞記事を手がかりに、その人物の奥さんに辿りつきました。彼女は2時間以上インタビューに応じてくれた上、当時の写真を多く貸してくださったりしたのでした。

 さて、年賀状じまいですが、私自身は、一気に断絶するのではなく、ディクレッシェンドという形で、毎年減らしていこうと思っております。年賀状のやり取りで、一番枚数が多かったのは、300枚ぐらいだったことを記憶しておりますが、それが、250枚になり、150枚になり、この20年は100枚ぐらいが続いておりました。でも、今年は90枚、来年は80枚、いずれ身の丈に合った50枚になると思っております。

 あらあら、結局、「嫌な言葉」のお話になってしまいました。

“年賀状じまい” への1件の返信

  1. 去年はいろいろあって力尽き、今年は身内の不幸で、喪中あいさつも出さず。「あんなに律儀ななべさんがどうしたのかなと思って…」と昔お世話になった方々から電話をいただくこともありました。これもまた安否確認だったのでしょうか。最盛期は300枚以上、数えるのも嫌になるぐらい出しました。今年は届く枚数は当然減りましたが、絵はがきで返事をしていこうと、1枚1枚、ゆっくりゆっくり、大事に書いています。

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